99、誕生祭の準備に行こう
投稿しようと思ったら、なんかいきなり全文が消えて焦りました……
「えっと、大変ありがたいんですけど、今回は遠慮させてーー」
申し訳なさそうに見えるような表情をして、お断りをしようと口を開いたら、みんなが一斉にあたしに詰め寄って、口を塞いできた。
「む、むーっ!? むぐ、むううう! ふぐっ! ふぐぅぅ! むぅぅうっ!」
あたしの口を塞ぐメルツェナさんが慌てて笑みを取り繕って、子爵や執事さんに勝手に返事をする。
「キャリオーク子爵様! そのお招き、この子は喜んでお受けすると言っています。どうぞ、そのように陛下にはお返事をなさってください」
「お、おぉ! そ、そうか、分かった! では後日、改めて招待状を持ってこよう」
「えぇ、お待ちしておりますわ、おほほ」
「うむ、では俺たちはもう行くぞ。改めて、お前のアドバイスに救われた。ありがとう、モカ。では、またパーティーで会おう。さらばだ!」
ご機嫌な足取りで帰っていく子爵と、礼儀正しく一礼をして去る執事。
その背中が見えなくなってから、ようやくあたしは解放された。
「ぶはぁっ!? 何するんですか! 勝手に行くって返事しないで下さいよ!」
メルツェナさんたちの手から解放されたあたしは、ぜぇはぁと大きく息をしながら、みんなを睨みつけた。
すると、『黒金の雷雨』の面々は「何言ってるんだ、この子は」と表情で語っていて、メルツェナさんは眉間を押さえて唸る。
まるで古畑任○郎みたいなポーズだなぁ、なんて呑気に考えていたら、メルツェナさんからお叱りの言葉が飛んできた。
「小娘! 陛下のお願いを断るなんて、死にたいわけ?」
言っている意味が分からなくて、思わずこてんと首を傾げる。
どういう意味? お願いを断ると死刑にでもなるの?
「いい!? 王族が言う『お願い』ってのはね! お願いじゃなくて『命令』なの! それも絶対に断れないタイプのね!」
「いっ!? な、何ですかそれ!? そんな馬鹿な話……」
「あるのよ! 丁度良いから覚えておきなさい? 王族からあんたら平民へのお願いってのは絶対遵守の命令よ。あたしやさっきの子爵様みたいな貴族へのお願いってのは、そのままのお願いなの。ただ、重ねてお願いされれば、同じように強制力のある命令になるの。これを2度の願い、って言うの」
これはコルベス王国だけでなく、ほとんどの王政国家に共通するルールだと言う。と言うのも、この異世界における王権は遥か太古の時代に神様から与えられたとされる王権神授によって成り立っているからだ。
神より国を治めるための資格と力を与えられた王は、その正統性を誇示し、国家運営を行っている。
そのため、この世界での王と言うのは基本的には最上位の存在とされていて、多くの人間に敬われているらしい。
「はぇ〜、そうだったんですか」
勉強になったよ。一応メモ欄に記入しておこっと……ん? 待てよ? 今、メルツェナさんが聞き捨てならない事を言ったような……
「え!? メルツェナさん、貴族なんですか!?」
「はぁ!? あんたなーんにも知らないのね! あたしたち冒険者は、ランクがAに上がると、爵位が貰えるのよ。まぁ、1代限りの魔法騎士爵っていう1番下の爵位だけどね」
「へぇ。グレイグさんたちは知ってました?」
「あぁ、もちろんだ。それを目指してランクを上げる奴らもいるくらいだからな」
なるほど。でもそういう説明ってされなかった気がするな。当たり前すぎて忘れてたのかな?
「と言うか小娘、あんたって、本当に知識が偏ってるわね……戦いになれば無類の強さを発揮するのに、こういった常識なんかがすっぽり抜けてるような感じかしらね?」
お? そこに気付くとは中々にあたしを見てるね。
確かにあたしはまだこの世界の常識やルールなんかはまだきちんと把握出来ていないし、理解も出来ていない。だから、何とか頑張って周りに合わせるようにしているけど、付け焼き刃じゃあダメか。
「まぁ良いわ。それより小娘。あんた、パーティードレスは……」
訝しげな表情のメルツェナさんは、あたしの足元から頭のてっぺんまでジッと眺めて、はんっ、と鼻で笑った。
「持ってるわけないか。なら丁度いい機会ね。ドレスの1着や2着は持っておいて損は無いから、買いに行くわよ」
「えぇ……嫌ですよぉ。この格好のまま出席しちゃいけないんですか? この格好も可愛いですよ? ほら、この黒猫のリボンなんてめちゃくちゃ可愛くないですか? ほらほら!」
あたしがそう言うと、メルツェナさんが大きな大きな溜息を吐いた。
完全に呆れた顔をしていて、アホの子を見るような憐れみの含んだ視線をあたしに向けてきた。
「あんたはもう黙ってあたしに付いてきなさい。悪いようにはしないから……」
うーん、これはもう何を言ってもダメな気がするな。それに、何だかあたしが残念な子みたいな雰囲気が何だかムカつくな。
「それと、あんたらも来な。女の子の買い物には荷物持ちが必要なの、分かるでしょ?」
有無を言わせない鋭い目付きに、『黒金の雷雨』のみんなは何度も首を縦に振った。
「お金は気にしなくて良いわ! お姉さんからちんちくりんの小娘にプレゼントしてあげるから!」
うわぁ、もう乗り気になっちゃってるよ、メルツェナさん。これはもう逃げるのは無理だろうなぁ……逃げる気無いけどさ。
「いや、良いですよ。お金ならありますから」
「あんたって本当に可愛げのない小娘ね。先輩が奢ってあげるって言ってんだから、素直にありがたく思って、小躍りで喜び回りなさいよ。ほら、行くわよ?」
「え!? これから行くんですか!?」
「当たり前じゃない! あんた、誕生祭がいつだか分かってんの!?」
そう言うって事はもう日にちが近いんだろうなぁ……流石に明日とかって訳じゃ無さそうだから、無難に1週間後とか?
「……1週間後とか?」
「馬鹿! 4日後よ! あんた、陛下の誕生日も知らなかったの!?」
へーへー、すいませんね。こちとら異世界人なんでね。あたしが知ってる誕生日は天皇誕生日くらいしかないもん。
「こんな急に誘われるなんて本来はあり得ないから、本当に陛下はあんたに会ってみたいのかもね」
「良い迷惑ですよ、全く」
「あんた、陛下の前でそんな口聞いたら即死刑だから覚えておきなさい?」
「はーい」
「んじゃ、ほら! さっさと行くわよ! あんたらも早くしなさい!」
あたしの手を取ったメルツェナさんが足早に歩き出すと、その様子をポカンと見ていた『黒金の雷雨』のみんなにそう呼び掛けると、ようやく再起動したグレイグさんたちが、お互いに顔を見合わせて小さく頷き合った。
ごめんね、グレイグさんたち。メルツェナさんの我儘に付き合ってもらって。もう少しの辛抱だから、ちょっとだけ我慢してよね。
自分の買い物じゃないのにテンションの高いメルツェナさんに引っ張られ、あたしたちはラウンジを出て、ギルド内を引きずられるように歩く。
そして、本っっっっ当に、今1番見つかりたくなかった人物に、見つかってしまった。
「おや、モカちゃんじゃないか。それにメルツェナも。それから……『黒金の雷雨』だったね。みんな揃ってお出掛けかい?」
ギルド1階の廊下の角で出会ったのは、化け物ことAランクオーバーの冒険者にして世界最強の魔法使い、ユリシュ=ダヴラであった。
モカ、誕生祭に出席!
メルツェナさんのお姉ちゃん力が火を吹く!
しかもそこにユリシュ=ダヴラも参戦!?
どうする『黒金の雷雨』!? まだ若いのに胃痛やハゲで悩むことになるのか!?




