10、検証してみたい2
残る2つは魔法とシステムについてなんだけど、この2つは密接に関わり合っているようなものだ。
「次は魔法について色々と試したいんだけど……ねぇレモーネ? 魔法使いが魔法を使う時って、無詠唱が主流になってるんだよね?」
BLOには無詠唱というスキルや技術は存在していない。
あるのは『短縮詠唱』、『詠唱破棄』、『圧縮詠唱』の3つだけで、そのどれも少なからず詠唱はしているのだ。
だから無詠唱とかいうとんでも技術は、接近戦を主とする剣士に取ってはかなり危険だと思う。だって、使う魔法の名前を言うだけで魔法が発動出来るならば奇襲、不意打ち、闇討ち、好き勝手やれそうだもんね。
「うん。すごい魔法になると詠唱しないといけないらしいけど、基本的には無詠唱で魔法を発動するんだよ」
と言われても、そもそもこっちの世界の詠唱と、BLO内での詠唱が同じだという保証はどこにもない。
だからBLO方式の魔法発動が出来ないと大変困るんだよね。
まぁ、ものは試しか。
一応、検証用に蛇を倒した時にもらったポイントで風魔法と雷魔法をそれぞれ習得しておいたから、これで試してみよう。
まずは普通の詠唱からだね。
使用するのは風魔法の初歩『風の刃』。風の刃を放つ魔法だ。
「これから風魔法を使ってみるけど……そもそもレモーネって魔法をみた事ある?」
「あるよ。冒険者の人が魔獣を倒すのを見たくらいだけど……」
「そっか。じゃあ、これから『風の刃』っていう魔法を使うから見てて」
「うん、それは良いけど……モカ、魔法も使えるの?」
「少しだけね。それじゃ使うよ」
あたしは右手を前に差し出して詠唱を始める。
「風を研ぎ、荒ぶる刃と成せ。風の刃」
初歩中の初歩である魔法の詠唱は短い。
基本的には3分節で、使う魔法が強くなれば文節は増えていく。それに消費魔力も一定でこの魔法の場合はMPを3消費する。
「うわっ!?」
だけど、あたしの右手から放たれた風の刃はBLOの時とは違って、速度も威力も消費魔力も上だった。
消費したMPは5で、威力は大木を真っ二つにするほど。速度は知っているよりも2倍くらい早い。
「……何これ」
考えられるのは、ゲームというシステムが使う魔法を全て均一化していることくらいだろうか。
この世界はゲームではなく現実だから、魔法を使う時は使用者に全てのコントロールが委ねられるってこと?
消費する魔力も自分で調整して、威力や速度が変わる。
これは思ったよりも面倒かも知れない。全てが一律であればMP管理も楽だったけど、今度からは使う魔法にも気を配らないといけないみたいだ。
「うーん、こればっかりは何度も試して感覚を掴まないといけないね……」
じゃあ次は短縮、破棄、圧縮を試してみよう。
それぞれの特徴はとてもシンプルだ。
通常詠唱が「風を研ぎ、荒ぶる刃と成せ。風の刃」
短縮詠唱が「風研ぎ、荒ぶる刃へ。風の刃」
詠唱破棄が「風を研ぎ、風の刃」
圧縮詠唱が「風刃、風の刃」
簡単に言えば、短縮は文法を削って、詠唱は文節の一部を破棄して、圧縮は文字通りに詠唱を圧縮する。
詠唱する文節が長ければ長いほど、この3つのスキルによる恩恵は大きくなるのだけど、元々の文節が短い初歩の魔法では関係ないね。
「今度はちょっと弱めに……風研ぎ、荒ぶる刃へ。風の刃」
短縮詠唱で放たれた風の刃はさっきのと比べると速度も威力も低い。消費MPは1。
やっぱり、強弱や速度はMPに依存していて、消費量はあたしが自分で決められるみたいだ。
「風を研ぎ、風の刃」
詠唱破棄も難なく使える。これも同じく最低消費量で発動してみたけど、短縮詠唱と同じような感じだった。
そして最後に圧縮詠唱を試してみる。
「風刃、風の刃」
当然と言った具合に、魔法は発動した。
と言うことは、BLOと同じように圧縮詠唱が他の詠唱スキルの上位互換って事だね。これなら戦闘中に詠唱について思い悩む事は無い。
これまで通り、基本的には圧縮詠唱を使っていけば良さそうだ。
「うん、魔法に関してはこんなもんで良いかな? じゃあ最後にシステムについてだけど……」
システムと大雑把に言っているが、あたしが知りたいのはズバリ、ステータスシステムについてだ。
初めに違和感があったのは、あたしがステータス画面を弄っているのに、レモーネや村人たちが何も言わない事だった。
誰もがやる事だから誰も何も言わないんだと思っていたけど、どうやらそうじゃ無くて、ただ単に変な動きをしてるなぁ、って思われていただけらしい。レモーネに言われたから間違いない。
と言うことは、レモーネたち異世界人の目に、あたしの開いたステータス画面が見えていない事になる。初めは自分のステータス画面は自分にしか見えないんだと思っていたけど、どうやら違う。
それに気付いたのは次に違和感を覚えた時だった。
誰もあたしのようにステータス画面を弄っている様子が見られないのだ。時間を確認したり、メモしたり、ポイントを割り振ったりと、そういう仕草を一度も見たことが無い。
これらの違和感からあたしは、異世界人は自分でステータス画面を確認する手段がないのではないか、という推測をした。
「これからちょっと変な事を言うけど、気にしないでね?」
レモーネにそう断って、自分のステータス画面を開く。
「今、あたしの目の前にこれくらいのウインドウが出てるけど、レモーネには見えてる?」
「……モカが何を言っているのか分からないけど、モカの前には何にも無いよ?」
「あー、そっか。ありがと。じゃあ……レモーネの視界のどこかに下向きの三角形とか、変な記号とか、そう言うのが見えていたりする?」
「モカには見えてるの?」
「うん、見えてるけど……レモーネの視界には何もない?」
うーん、と言うことは? そもそもステータスシステム自体はあたしだけのシステムって事かな? 異世界ものお約束のチートシステムだったりするのかな?
「ねぇモカ……さっきから変なことばっかり言ってるけどどうしたの? 風邪?」
「違う違う。ステータス画面が見えるかどうかの確認だよ」
「え!? モカはステータスが自分で見れるの!?」
おや? レモーネが驚いてる? なんでだ? ステータスはあたしだけの特権じゃあ……
「モカは鑑定魔法も持ってるの!?」
「……その可能性を失念してたよ」
そうだ、そうだよ、そうなんだ。どうして忘れていた。
BLOでも鑑定魔法があったじゃないか。
「レモーネって、自分のステータスを確認出来ない?」
「出来ないよ。基本的には鑑定魔法を持っている人に見てもらうか、冒険者ギルドとか大きな街に入る時に使う鑑定の水晶で診てもらうしか自分のステータスを確認する方法は無いんだよ? モカ、そんな事も知らなかったの?」
はい、ごめんなさい。ステータスとは無縁の世界から来たから、そんな常識知りませんでした。
でもおかしいな。あたしは鑑定魔法なんて持ってないのに、なんで自分のステータスが確認出来るんだろ? 単純にあたしが転生者だからなのかな?
うーん、考えても良く分からないね。
この件は後回しにしようかな。もっと詳しい人を見つけて聞いてみるかな。
「変なことに付き合ってもらってありがとうね、レモーネ」
「別に良いよ。モカが変な事するの、今に始まった事じゃ無いから」
おぉう、言うようになったなレモーネ。
それになんだか不貞腐れているように唇を尖らせているのが可愛い。これはアレか? あたしが検証にかまけているのが気に食わなくていじけてるな?
「あーん、レモーネたん可愛い!」
その様子があまりにも愛おしくて、思わず抱きしめてしまった。
構って貰えなくて拗ねてる女の子なんてこの世で1番可愛いんだから!
「ちょ、モカ! むぐぅ……やめ……モカぁ!」
むぎゅっと抱きしめて、頭を撫で繰り回すと、レモーネは余計に恥ずかしがってあたしの腕の中で身体を捩ってくる。
照れ隠しもまた可愛いなぁ!
充分にレモーネ成分を補充するまで、あたしはレモーネを抱きしめ続けた。
詠唱関係の設定は、今後の展開によっては変更or削除する可能性がありますので、そんなに気にしなくていいです。
そのせいで、ルビ祭りになってしまったのはご愛嬌ということで……
すいません許してください! 何でもしますから! ん?(以下略




