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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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ホームルームⅠ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

 時刻は午前11時。

 新たな仲間を迎えるべく、新品同様の姿でドンと待ち構えていた教室に、つい先ほど門出を終えた生徒たちが入城する。

 生徒たちは座席表を頼りに席を探し、時には不満げに、時には満足げに腰を下ろす。

 隣に座るのは顔見知りだったり、全くの初対面だったり。教室を満たす緊張感は、しかし不快なものではなく、そこには春を思わせる心地よさがあった。

 そうして数分もすれば、少年少女たちは互いに打ち解け、他愛もない会話を交わしていた。


(そろそろ、かな)


 まっさらな白いキャンパスを思わせる無人の教室に漂っていたどこか懐かしい香りは、気付けば彼らの華々しい空気に上書きされていた。

 嵐の訪れを感じさせるようにしんと静まり返っていた教室は、気付けば和気あいあいとした少年少女の喧噪に満たされていた。

 僕が無視されているように感じるのは、ただの気のせいと思いたい。


――そうして、全ての始まりを告げるチャイムが鳴る。


「というわけで、今日から君たちの担任になる柊秋葉だ、よろしくね」

「「…………」」


 先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気はどこへやら、僕の挨拶に生徒たちはどことなく居心地の悪そうな沈黙を漂わせるのみ。

 まあ、これも自業自得というやつだろう。

 ただ目立つのが嫌で本名以外の情報を公開してこなかった結果、僕は政府が作り上げた虚像ということになってしまった。

 もちろんそんなことは断じてない…………そう僕が言ったとて、誰も信じはしない。


「先生、質問よろしいでしょうか?」

「もちろん」


 そう言って立ち上がったのは、十代とは思えないほどの大人びた雰囲気を纏う少年だった。

 名前は白銀(しろがね)壮馬(そうま)。濃密な威圧感を、まるでコートでも着込むかのように全身に纏っている。彼が大人びているように感じるのはそれが原因だろう。


「先生は、本当に使徒なのですか?」

「白銀君、御三家の跡継ぎである君ならば、その程度のことはお父君から知らされているはずだよ」


 質問に質問で返す形になってしまったが、あっちに気分を害した様子はない。

 むしろ何が面白いのか、彼の口角は僅かに吊り上がっていた。


「……そうですね。ですが、まだ当主ではない、一学生である僕が父に欺かれているとしても不思議ではないのではないでしょうか?」


 たしかに、彼の言っていることも一理ある。

 もしも柊秋葉が政府の創り上げた架空の存在であるのならば、その実在性に関する情報は政府にとって最上位の機密情報になる。いくら政府中枢の跡取り息子といえども、そう簡単には教えられないだろう。


「いえ、柊さんはたしかに本物の使徒です!」


 そう言い放ったのは、先程の入学式で新入生代表として演説をしていた少女だった。

 そういえば、彼女も御三家の一員だ。

 名前は(みどり)一花(いちか)。小柄で愛らしい印象を与える小動物のような少女だ。


 ちなみに御三家というのは、大和の陸・海・空の各軍を指揮する一族の総称だ。

 陸の翠、海の白銀と言われており、各家の当主が司令官として各軍を指揮している。

 権力だけでなく、魔術師の質も他家と比べて圧倒的だ。使徒やダビドを除けば、御三家の現当主たちの実力は日本の最高戦力と言っても過言ではない。


 そんな一族の直系が同じ世代に、同じクラスに2人も揃うというのは間違いなく奇跡的なことだ。

 僕が担任にならなくとも、彼らの世代は自然と注目を浴びていたことだろう。


「一花さん、あなたと達郎殿の信頼関係に口をはさむつもりはありませんが、先程も申し上げた通り、御三家の当主と言えど軽々と機密情報を身内に明かすことはできません。それに、世間からすれば我々も欺いている側であるということも忘れないでください。僕たちがここで何を言ったとて、他のみんなが信じるわけではないのです」

「っ……」

「……二人ともそこらへんにしておくれ。これ以上の議論は無意味だ」

「では、先生はどのようにして僕たちからの信頼を得るつもりなのですか?」


 残念ながら、質問に答えられるほど具体的な回答を僕は持ち合わせていない。

 だからといって何も考えていないわけでもないんだけどね。


「僕が使徒か、そうでないかを判断するのはあくまで君たちだ。世間が何と言おうと僕が知ったことではないし、君たちがどう言おうと、学長が僕を解雇しない限り僕は君たちの担任だ。だから、僕にどうこう言うつもりはないし、その必要もない」

「ですが、それでは授業に支障が出るのでは?」


 白銀君の言う通り、このまま疑念を抱えたままでは授業の進行に支障が出かねない。

 けど、


「それも君たち次第だ。優秀な魔術師かそうでないかを見分けるのは、魔術師として重要な能力だよ。これも、授業の一環として捉えておくれ」


 優れた眼を養うのも、優秀な魔術師になるための重要な訓練だ。

 べつに本能を鍛え上げろなんて根性論じみたことは言わない。

 実際に、優秀な魔術師とそうでない魔術師には決定的な違いがある。しかし、未熟な彼らにはまだそれを理解することはできない。今ここで理解不能な理屈を並べて説明したとて、さらなる疑念を生むだけだ。


「…………分かりました」

「うん、翠さんもこれ以上僕をかばう必要はないよ。もちろん、さっき僕を庇ってくれたことには感謝している。けど、君も生徒である以上、今は自分自身のことを考えておくれ」

「はい、ありがとうございます!」


 何故感謝をされたのかは分からないけど、まあいいだろう。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 御三家って、なんなんでしょう?

 最強と謳われる一族が日本には3つ存在すると思っていただいて構いません。

 本文で言及されているように、大賢者であるダビドや秋葉を含む使徒を除けば、彼らは日本の最高戦力です。未熟な使徒相手であれば、経験の差でなんとか勝てるんじゃない?くらいの実力を持っていると思います。

 要するに、強いってことだけ覚えておいていただければよろしいかと。


 それでは、また次回お会いしましょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

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