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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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入学式Ⅲ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

『続きまして、教員紹介に移らせていただきます』


 名前を呼ばれた教員たちが壇上に上がっては、一言述べて降壇していき、また同じことが繰り返される。

 これはこれで退屈なものだ。流石に自分の担任くらいは気になるだろうけど――各クラスの担任は事前に知らされていないため、ここで初めて知ることになる――、今後関わることになるのはこの中の半分にも満たない。

 教師の中に有名な魔術師はほとんどいないのだし、見ている側からすれば、質の悪い拷問でしかない。


「秋葉さん、もうすぐですよ」

「うん、分かってるよ」


 とは言ったものの、今日に関しては僕もその拷問をする側だ。

 けど、退屈させるつもりは毛頭ない。


『それでは最後に、Aクラスの担当教師をご紹介します』


 いざ発表を前にすると、会場は緊張と高揚が入り混じった、なんとも不思議な静寂に包まれた。

 国内最高峰の魔術師養成機関、その中でも同世代のトップに君臨するAクラスには、毎年国内外から多くの注目が集まる。しかし最も注目されるのは、彼らを3年という短い期間で実践レベルの優秀な魔術師に育て上げるという、責任重大な役目を担わされた担当教師だ。

 基本的にこの学院では、各クラスの担任がそのクラスに所属する全生徒の教育を任される。もちろん、専門的な科目はそれに特化した魔術師が授業を行うけど、それはあくまで講義をするだけで、基本的にはそれ以上の干渉は行われない。

 Aクラスの担当教師には、国の未来がかかっていると言っても過言ではないだろう。

 だから、毎年Aクラスの担当教師だけは高名な魔術師が選出される。ただ有名なだけではなく、実戦での功績がなければいけない。


 その注目度は、生徒の比ではない。

 

『今年度の新Aクラスの担当教師は――――使徒第二位、柊秋葉様です』

「「――――!?」」


 会場にどよめきが起こる。

 それは、興奮というよりも戸惑い。戸惑いというよりも、不信であった。


『本日は柊様より、新入生の皆様に向けてお話をいただけることになっております。ご登壇の際は是非拍手とともにお迎えください。それでは柊様、お願いいたします』

「秋葉さん、お願いしますよ」

「うん――――」


 そうして壇上に現れた僕を迎え入れたのは、なんとも控えめで、乾いた拍手だった。

 それもそのはずで、僕に拍手を送っていたのは教師陣や、この入学式の係員を務める在校生だけだったからだ。いや、だけというのは言い過ぎかもしれない。新入生やその保護者の中にも多少は拍手を送ってくれる人はいるようだ。ただ、探さないと分からないくらいには少ない。


「新Aクラスの担当教師を務めることになりました、柊秋葉です」


 大多数の人は、僕に疑念に満ちた眼差しを向ける。

 たしかに、それが最も一般的かつ正常な反応と言える。


「早速ですが、皆さんの疑問は理解しているつもりです。これまで一切として公の場に姿を現さなかった僕が、何故今になってこの場に現れたのか。そして、この学院の生徒であり使徒でもある僕が、何故教師という立場に就こうと思ったのか。皆さんの疑問はおおまかにこの2つに分けられるでしょう」


 この世の大多数の人間は、「柊秋葉は孤立した島国が他国への抑止力として創り上げた架空の存在」と考えている。

 もちろん、僕がここに居る以上それは大いに間違いであるのは言うまでもない。

 ただ、僕に疑念を抱いている人たちがいることは事実であり、いたって普通のことだ。

 この場に本人だと名乗る人物が現れたくらいでは、何の否定材料にもならない。


「皆さんの貴重なお時間を僕の身の上話に浪費するのは、僕の主義に反します。ですので、この場では僕が抱いている危機感についてお話ししたいと思います」


 この場で僕への疑念を払拭してもらおうなどとは考えていない。そうする必要もない。

 それは、今すべきことではない。

 今日の主役は僕ではなく、十人十色の感情を僕に向ける新入生たち。

 僕はただ、彼らのためだけに好きでもない長話をするのだ。


「まず前提として、この国は半世紀の内に壊滅します」

「「っ――!?」」


 瞬間、再び会場にどよめきが起こる。

 しかし今回それを生み出したのは、驚きでも戸惑いでもなく、逃げ場のない不安である。


「希望を抱くことを否定はしません。ですが、いつまでも現実から目を背けていては、この国の現状は変わらない。

 皆さんも気付いているはずです。もしくは、気付いたことがあるはずです。皆さんが今抱いている不安こそその証拠だ。突拍子もない壊滅論を聞いて何よりも先に不安を抱いたのは、皆さんが僕と同じ認識を持っているからに他なりません。

 ……僕たち使徒の活躍によって、ここ数年の魔術師の戦死者数は減少傾向にあります。現在も西園寺生徒会長が北方戦線の維持に尽力してくださっているおかげで、僕やライザを首都防衛の要としてこの東京区に配置することができ、皆さんはこうして平和な日常を送ることが許されているのです。

 では、もし僕たち使徒の誰かが欠けてしまえば、この日常はどう変化するでしょうか?」


 新入生たちの表情が一気に引き締まる。

 おそらく、全員が同様の想像を抱いたのだろう。


「我が国は二年前、東アジア奪還作戦にて多くの犠牲を払いました。ご存じの通り、その中には我が国が誇る貴重な使徒戦力も含まれています。

 …………僕は、彼らの最期をこの目で見ました。

 使徒は強力な存在です、無敵と言っても差し支えない、圧倒的な戦闘能力を持った魔術師です。ですが、己よりも強大な力を前にすれば、容易に死んでしまう。いえ、事実彼らは、圧倒的な力の前に為すすべもなく敗れました。皆さんが思っている以上に、それは一方的な殺戮であり、人類が絶望するに足る光景です」


 なにも僕は、この場に居る人たちを怖がらせたいわけじゃない。

 ただ、紛れもない事実を伝えているだけだ。

 彼らが知らない、もう一つの現実。数字だけでは理解しようもない、残酷な現実を。


「敵は、使徒を上回る戦力を無数に有しています。もしその矛先が我が国のみに向けられれば、真っ先に狙われるのは僕たち使徒でしょう。

 そして使徒を排除した以上、次に彼らの脅威となるのは使徒以外の魔術師である皆さんです。皆さんを排除すれば、最後は無力な市民を惨殺し、この土地は晴れて彼らのものとなります」


 単純な話ではあるが、彼らにとってはそれが最も効率的かつ現実的な工程なのだ。


「僕たち使徒にかかる重圧は言うまでもありません。今のままでは、僕たち使徒の死がこの国の消滅を意味するのですから。

 ですが、それは皆さんも同じことです。ただ順序が違うだけで、僕たちがすべきことは何一つとして変わりません。

 いずれ訪れるであろうその時までに、ただひたすらに力を追い求め、残酷な現実を覆す――――僕は、その方法を教えるために来ました。

 使徒の中でも、僕は例外と言える存在です。何故なら、僕は他の使徒のような才能を持ち合わせていない。膨大な魔力量も、便利で強力な固有魔術も持ち合わせていない。僕は、ただの凡人でした…………。

 もちろん、誰もが僕と同じようになれるとは言いません。なれとも言いません。ましてやなれるとも思っていません。

 ですが、圧倒的な才能がなくとも皆さんが使徒に届き得るという可能性を示せるのは、僕しかいません。それを実現する方法を示せるのは、僕だけです」


 国内最高峰とはいえ、正直な話をすればここの教師たちは魔術師としては中の下だ。

 現役の魔術師が戦場を離れられない以上、教師として学院に常駐できるのは実力的にも経験的にも劣る三流魔術師のみ。

 仕方がないといえば仕方がない。

 けど、妥協したままではこの国の運命は変わらない。


「戦場に行ったところで、皆さん程度では1年ともちません。これまでの卒業生と同様の体たらくでは、国の礎にもなれないでしょう」


 再び会場がざわめきだす。

 この上から目線は何を言っているんだ――そんな疑念に満ちた、僕の存在を疑うものとはまた違った――大本はそれに違いない――視線が僕に注がれる。


「どうせ、半世紀のうちにこの国は滅びるのです。皆さんがこの学院を卒業して軍に多少の戦力を供給したところで、何も変わりません

 今から遊び惚けたところで誰も皆さんを責めないし、責める意義がない。

 ほぼ確実に、皆さんではこの国の現状を変えられないでしょう」


 別に煽っているわけではない。これは誰もが思っていることだ。

 彼ら自身とて、本気で自分たちが使徒に並ぶ魔術師になれるとは思っていない。


 けど、僕は決してそうは思わない。


「――――であるのなら、1パーセントもない、皆さんが使徒になれる奇跡という可能性にこの3年間を投資するのも、一興ではないでしょうか?」


『――――これにて国立魔術学院入学式を終了いたします。ご来賓の皆様は係員の指示に従いご退場ください。新入生の皆様はこの後ホームルームがございますので、係員の指示に従って、各クラスのホームルーム教室にお集まりください――――』


 最後までお読みいただきありがとうございました。


 さて、名前だけの登場ですが、もう使徒が3人も登場しましたね。

 ここまでポンポン出てくるといっぱいいるんじゃないか、と思われるかもしれませんが、前回も言ったように使徒は世界に12名しかいません。事実上3名の使徒が在籍している学院がおかしいだけ、ということを念頭に置いていただけると幸いです。


 というわけで、また次回お会いしましょう。

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