入学式Ⅱ
こんにちはこんばんはおはようございます。
「続きまして、生徒会代表挨拶です」
ダビドが去ったことで、会場は再びお祝いムードに包まれた。とはいえ本日の主役である新入生諸君はまだ夢現といった様子で、大賢者が去った後の微かな、しかし確かな色を帯びた余韻に浸っているようだ。
時に、そんな新入生たちの感傷を粉砕する無慈悲な流星が舞い落ちる。
壇上に姿を表したのは、燃え盛る炎のごとき赤髪を四方八方に逆立てた、まるで獅子のような威圧感を纏う少女だった。いや、年齢的には少女と言えるのかもしれないけど、彼女が纏う雰囲気は飢えた猛獣のそれだ。とてもだが十代の少女とは思えないし、思いたくもない。
「一応自己紹介をしておこう。生徒会副会長の瀬戸ライザだ」
その口調からも、彼女がただの生徒でないことは明らかだ。
事実、彼女はただの生徒ではない。それに、ただの魔術師でもない。
瀬戸ライザ――国立魔術学院の生徒会副会長にして、現代最強の魔術師である『使徒』の1人。
使徒とは、一国家の軍事力を圧倒する戦闘能力を単独で有する魔術師のことだ。
『大国の軍事力に相当する戦闘能力、またはそれに準ずる能力を有する魔術師』という国連の掲げる使徒の選定基準は、若き魔術師たちの憧れとなっている。
現在国連から公表されている使徒は合計12名。そのうち日本は4名の使徒を有している。
使徒戦力だけで言えば、日本は世界最強と言っていいだろう。もちろん、使徒戦力だけで情勢が覆るほど、今の国際社会は単純ではない。
それにいくら豊富な使徒戦力を備えていようと、その力を外に向ける余力は、現在の日本には無い。
「さて、学長はああおっしゃられたが、これからお前たちを待っているのは紛れもない地獄だ。もしある程度の金を稼いで、ある程度の暮らしをして、ある程度平凡な人生を送るためにここに来たのなら――――」
――今すぐ帰れ
実にライザらしい演説だ。
『他人に厳しく、自分にはより厳しく』――彼女はそれを文字通り実行している。それが彼女を使徒たらしめるとまでは言わないけど、少なくとも彼女が十代半ばにして使徒となれたのには、そのような精神性が大きく影響しているはずだ。
「実力至上主義を掲げる我が校において、弱者は邪魔なだけだ。
たしかに、ここに来たからにはそれなりの才能を持ち合わせているのだろう――――だが、才能がお前たちを生かす訳ではない。戦場でお前たちを生かすのは、それまで積み上げてきた鍛錬、そして数多の苦難を乗り越えることで磨かれた鋼がごとき精神だ」
精神論と言えば精神論だ。
けど、それが数多の激戦を生き延びてきた彼女の言葉である以上、信じるという以前に事実であることを確信しなければならない。
「甘さは捨てろ、他人に気を遣う必要はない。来る終末を避けるべく立ち上がった我らが同志であるなば、死ぬ気で力を追い求めろ――――!」
生徒たちの体を震わせているのは緊張感ではなく、戦慄だ。
生徒たちの目には、壇上に立つライザの姿が業火が大地を燃やす戦場のように映っていることだろう。
目の前には強大な悪魔が立ち塞がり、背には守るべき無垢の民が絶望に膝から崩れ落ちる。
自分が動かなければ、無数の命が失われる。
しかし、それは自らの死を受け入れるに等しい。
そんな絶望を前にした時、少なくとも今の彼らは動けなかった。声の一つも上げられなかった。せめて「逃げろ」と叫べたのならば、100人中1人くらいは逃げることができたのかもしれない。そんな些細な奇跡さえ起こすことができなかった。
今は、それでいい。
「…………副会長、ありがとうございました。続きまして、新入生代表挨拶です。新入生総代、翠一花さんお願いします」
あの演説の後に新入生を壇上に立たせるのは少々酷なのではないか、と僕は思う。
名前を呼ばれた本人を含め、新入生たちはまだあの絶望から抜け出せていない。
プログラムがこの現状を想定していなかったのは仕方のないことだけど、やはり現実は酷なものだ。
「この度は、このような素晴らしい入学式を催していただきありがとうございます――――」
しかし少女は、臆することなく堂々とした佇まいで演説を始めた。
その小柄な愛らしい見た目から生じる第一印象を一瞬にして塗り替えるほどの、強い意志のこもった視線。横から見ていた僕ですら、その迫力に圧倒されていた。
彼女の演説が終わった時、僕は舞台袖で心からの拍手を名も知らぬ少女に送っていた。
「ほら、君たちも彼女に拍手を送るんだ」
「いやしてますけど……」
「より尊敬と称賛を込めた拍手をしろと言っているんだ…………!」
「は、はい……」
『続きまして、教員紹介に移らせていただきます』
最後までお読みいただきありがとうございました。
早々に新たな使徒が登場しましたね…………こちらからは以上です。
まあ、話すことと言えば使徒に関してくらいでしょうか。現状使徒は12名存在します。そのうち4名が日本国軍に所属する魔術師です。そしてその中の2名が既に登場しているわけですね、はい。
ちなみに12名というのは、勘の良い人は気付いているでしょうが、キリスト教における十二使徒をモチーフにしています。使徒というのを決めたときにパッと思いつきました。
とはいえ作中で使徒の数が12名であるのは全くの偶然です。事実、数年前までは16くらいいたらしいですからね。ただ現状の人数が偶然12になってたというだけで、この数字にこだわるつもりはありません。多分そのうち勝手に変動するでしょう。
ということで、また次回お会いしましょう。




