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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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入学式Ⅰ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

2248年4月6日


 日本国首都東京区。この日、その中心に位置する学術都市では、国内最高峰と謳われる魔術師養成機関――国立魔術学院の入学式が行われていた。


「これより、第57回国立魔術学院入学式を始めます」


 そんな無機質で機械的――事実、機械仕掛けから発せられているものだ――な声の司会とともに、入学式は始まった。


「まず、学院長より、皆様へご挨拶を賜ります」


 瞬間、世界が一変する。

 一言で表すのならば、世界が変わったのだ。汗とともに肌が溶けてゆくような砂漠から、一呼吸で内臓が凍り付くような極地に変わったというわけではない。そういう環境的なものではなく、もっと根本的な、世界の在り方そのものが豹変したようなものだ。

 もちろん、そんなことは実際に起きるわけがない。ただの錯覚だ。

 しかし、この場に居た全員がそんな錯覚に陥ったことは事実であり、その元凶が今、壇上に現れた。


――ソレは、世界最古の魔術師の1人。


――ソレは、数多の逸話を人類の歴史に刻み、至高の偉業を成し遂げし七大賢者の1人。


 ソレは、『時の魔術師』ダビドその人である。


 彼が壇上に現れた途端、それを目の当たりにした全員の呼吸が一斉に止まる。

 無理もない。

 ソレは数多の時代を渡り歩いてきた一種の舞台装置だ。

 そも人間とは、生と死の概念を持った生命の一種。その定義に当て嵌めるのであれば、彼はとうに人間ではない。故に多くの人は、彼を人間だとは思わない。というよりも思えないのだろう。

 それは論理的思考の産物ではなく、本能的恐怖が生みだした分別と言った方が正しい。

 要するに、未知の科学技術を引っ提げてやってきた宇宙人を前にすれば、誰だって緊張するということだ。


「まずは新入生諸君、入学おめでとう」


 その一言に、新入生たちの口からは一斉に感嘆の息が漏れる。

 まるで彼の一言が、その許しを与えたかのように。


 人外の化物とはいえ、同時に史上最高の魔術師でもある彼のような存在を、人類は畏敬の念を込めて『大賢者』と呼ぶ。

 魔術黎明期から今に繋がる多くの功績を残してきた『大賢者』は、全ての魔術師にとって偉大なる祖に他ならない。

 そんな人物から「おめでとう」と祝福されてどうなるかといえば、当然こうなるのだ。


「数千、数万という同世代の中から選ばれし君たちには、是非この学院で有意義な時を過ごし、いずれは日本の守護者として、弱き民の希望となってくれることを願っている」


 ダビドの言う『守護者』とは、要は軍の魔術師のことだ。

 この国立魔術学院の卒業生はそのほとんどが卒業後、魔術師として軍に入隊している。

 もちろん、全員が全員軍に入隊できるわけではない。厳しい入隊試験を通過できるのは志願者の7割とされており、学院の卒業生でも1割が毎年落選している。

 軍への入隊という点においてこの学院より優れた環境はまず無いだろう。しかし、ただ授業を受けて、進級基準を満たし、卒業しただけでは将来は約束されない。


「我が校では徹底的な実力至上主義を掲げている。その最たる例が、クラス分けだ」


 学院の生徒は実力順に、A、B、C、D、Eの5つのクラスに割り振られる。

 最も優秀なAクラスと最も優秀でないEクラスには、素人目にも分かるほどの決定的な差が存在する。それは才能であったり知識であったり、実戦経験であったりと様々。ここではそれらを総合して『実力』と呼んでいる。

 先ほどダビデが言った通り、この学院で最も優先されるのは『実力』であり、才能や経験そのものではない。才能がなくとも経験による確かな実力があれば、Aクラスに配属されることもあるのだ。


「下位の者たちは劣等感を、上位の者たちは下位の者たちに負けてはいけないというプレッシャーを、互いに感じることになる。今君たちの座っている席を見てほしい。最前列には学年トップの実力を誇るAクラスの生徒たちが座っている。対して、後列にはそれに劣る、Bクラス以下の生徒たちが座っている。

 君たちには是非とも、この景色を忘れないでいてほしい――――これこそが、君たちの見るべき現実だ。振り返る必要はない、今、前を向いている君たちが見ているものこそ、君たちが目指すべき場所だ。

 ……遠く感じるだろう、しかし不可能ではない。そもそも魔術師とは、不可能を可能にする存在だ。世界の理に背き、ありえざる事象をその手に宿す――――それが、魔術師だ。であるならば、クラスという枠組みごとき、魔術師である君たちならば一瞬にして薙ぎ払えよう。

 ――――改めて君たちを歓迎する。どうか、悔いはあれど心残りのない学院生活を君たちが遅れることを、私は願おう――――」


『――あと、写真や録画はご遠慮願う――』


 最後にそう言い残し、大賢者は壇上から姿を消した。ただし彼の場合は、演説を終えると一歩も動くことなく、まるで煙のようにその実体を虚空に溶け込ませ、消えた。

 それを見た新入生やその保護者の口からは、感嘆の声が上がる。

 演説の内容もそうだけど、大賢者の魔術を直に見れる機会はそうそうない。そもそも彼が公の場に姿を表すのもこの入学式くらいのものだから、彼と同じ空間に居るというだけで、人は自分がおとぎ話の登場人物にでもなったかのような感覚になるのだろう。

 しかし、彼が使った魔術自体は初歩的な幻術に過ぎない。適性が無くとも本物と寸分違わない幻覚を見せるだけならば、誰にだってできる。

 観客たちはある意味で、ダビデという『魔術』にかかっていた。


「続きまして、生徒会代表挨拶です」

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 入学式は、全3編でお届けする予定です。

 今回は学長挨拶、次は生徒会代表挨拶、そして最後は……

 

 的な感じで、今回は特にお話しすることもないのでここでお暇させていただこうと思います。

 それでは、また次回お会いしましょう。

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