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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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課外学習Ⅰ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

 本日もお読みいただきありがとうございます!

「獅子道、お疲れ様」

「…………」


 授業終了後、そう言って白銀は獅子道の方へ駆け寄り、バンッバンッと分厚い肉壁のような彼の背中を叩く。

 それは白銀なりの励ましだったのだが、獅子道の心に届いた様子はなかった。


「決闘のことは残念だったな。だが、あの人の実力は分かっただろう」

「…………」


 返答は無い。

 期待してはなかったが、白銀は呆れるようにため息をつく。


 獅子道とて、本気で勝てるとは思っていなかっただろう。

 決闘自体は彼の感情が突っ走った結果であり、理性では敵わないことを確信していた筈だ。

 だから、冷静となった今彼をこのようにしているのは、敗北という事実そのものではない。

 問題は負け方だ。

 白銀とて、あれほどのハンデを背負って尚あそこまで一方的な勝ち方をされれば、相手が使徒とはいえ多少はプライドが傷付く。


「獅子道、重要なのはここからだ。

 プライドを捨て、あの人の教えを受け入れるか。それとも、このまま立ち止まるか。

 選ぶのはあくまでお前自身だ。だが、プライドなんてくだらないもののために意地を張り続けるのは、友として勧められないぞ」

「…………」


 結局、獅子道は一言も発さずに演習場を後にした。

 あの様子では、今日のうちは何を言ったところで見向きもしないだろう。

 白銀はそれ以上深追いせず、この日はそっとしておくことにした。


◇◇◇


「早速生徒をイジメたそうじゃないか」


 夕食の席。

 いきなりそんな根も葉もないことを言い出したのはライザだ。

 

「まさか君が、そんなくだらない噂に流されるような人間だとは思わなかったよ」

「違うのか?」


 彼女も本気で言っているわけではあるまい。

 その表情はあきらかに僕をからかっている時のものだ。


「違うね、僕は現実を教えてあげただけだよ」

「どちらも違わないだろう」


 それは捉え方の問題だ。


「大丈夫だよ。彼はあの程度で壊れるほど脆くない」

「何故そう言える?」

「獅子道の人間って、なんかそういう感じがするだろう?」

「……どうなっても知らんぞ…………」


 呆れてはいるものの、何も言い返してこないあたり彼女にも心当たりくらいはあるのだろう。

 僕は心当たりしかないけどね。


「獅子道って、お父さんと仲が良かった第七部隊の元隊長さん?」

「そうだ。その忠雄殿のご子息の心を、こいつが今日へし折ったらしい」

「うへぇ…………」


 まさか本気で信じたわけではないだろうけど、僕の最愛の妹である愛衣は、何か醜悪なものを見るような、今にも嗚咽が噴き出してくるような熱のない視線を僕に向ける。

 冗談だと分かっていても、その視線には兄として堪えるものがあった。


 ……そういうことなら、僕にだって考えがあるんだぞ。


「そんなスキャンダルが出回れば、こうして夕食を作る余裕は無くなってしまうだろうね」

「っ…………」


 飼い犬を黙らせる方法なんていくらでもあるのだ。


「冗談よ」


 愛衣に関しては、素直で可愛らしいので良しとしよう。




 食事が終わり、いつも通りソファでテレビを身ながら寛いでいたところ、台所の方からライザの声が聞こえてきた。


「そういえば、翠司令官から伝言を預かっているぞ」


 器用にも洗い物をしながら視線をこちらに向けて、ライザは僕にそう言った。

 教えてくれるのはありがたいんだけど、今にも悲劇が起こりそうなので早く視線を戻してほしい。


「…………ああ、あれか」


 翠司令官とは、陸軍の総司令官であり翠家の現当主――つまりAクラスの翠さんの父親だ。


 ライザはよく放課後に、学術都市内にある陸軍の訓練施設に立ち寄っている。おそらくそこで彼と会い、伝言を預かったのだろう。


「準備は整った、とのことだ」

「うん、たしかに受け取ったよ」

「…………」


 気にはなっているようだけど、ライザはそれ以上詮索しようとはしなかった。

 軍のトップがわざわざ使徒に伝言を頼むほどの重要なやり取りだ。ライザとて、それを詮索しようとするほど恐れ知らずではない。最低限の社交性であれば、猛獣でも身に着けられるということだ。


 実際のところ、本当に大した内容ではない。

 司令官殿も、いちいち特殊回線を開くのが面倒だからライザに伝言を託しただけだろう。

 部下に任せれば良いものを、彼にはそれすら面倒に感じられたらしい。

 ま、だから、


(べつに聞かれれば答えたんだけどね)


◇◇◇


翌日


「――――先生!」


 バンッ! と、ハリセンで何かを叩きつけたかのような衝撃音が教室に響く。

 何人かにとっては良い眠気覚ましになっただろうけど、完全に覚醒している僕からすれば、ただ驚かされただけだ。


 ちなみに、犯人は獅子道君だ。

 こちらに近付いてきたかと思えば、彼はいきなり両手で教卓を叩きつけた。

 まさか昨日の復讐でもされるのか……と思ってしまったのは、僕が臆病だからではないだろう。


「な、なんだい?」


 間に教卓が無ければ、今にも飛びかかってきそうな迫力。

 それはさながら檻に捕らわれた猛獣を前にしているかのような。安全が保障されている筈なのに何故か湧き出てくる本能的恐怖を、僕はたしかに感じていた。


「俺を強くしろ!」


 いきなり何を言うかと思えば…………どうやら決闘を受けたのは、間違いではなかったようだ。


「…………そうかい。なら、席についておくれ」

「お、おう……」


 彼にとっては大きな変化だったのかもしれないけど、僕にとっては問題が一つ片付いただけだ。

 もちろん、生徒が一つ成長を遂げてくれたことに関しては喜ばしい限りだ。

 けど、まだまだ問題が山積みであることに変わりはない。



 キーンコーンカーンコーン



 始業を知らせる鐘が鳴る。


「今日はみんなにサプライズを用意してきた」


 そんな僕の言葉を受けて、教室は嬉々とした雰囲気に包まれる。

 使徒が用意したサプライズだ、そうお目にかかれるものでないことだけは保証しよう。


「というわけで、出発――――」

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 今回は前回の決闘Ⅲのその後と、次回以降に続く新たな物語の間章のような内容でしたね。

 ちなみに今回も何故かライザは柊家の晩餐にお邪魔していました。まあ家族なので当然と言えば当然なんですけど、2日連続でというのはなかなか珍しいことです。

 理由としては、秋葉が学院に常駐するようになったことで彼を見かけることが多くなり、彼を見るたびに食欲が倍増するようなライザにとってはもう我慢できなくなってしまった、ということでしょうね。これまでは自嘲していたライザですが、おそらくこれからはわりと高頻度で柊家にお邪魔することになるでしょう。


 というわけで、次回から始まる課外活動シリーズをお楽しみください!

 物語はここで一つの山場を迎えます。なので、楽しみにお待ちいただければと思います!

 では、また次回お会いしましょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

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