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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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決闘Ⅲ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

 本日もお読みいただきありがとうございます!

「「…………」」


 観客席から決闘の様子を見ていた生徒たちは、終了が告げられたにも関わらず唖然としたままそこから動けずにいた。


「…………今の、何が起こったか分かった…………?」


 誰に向けられたものでもない里美の一言は、一花を現実へと引き戻した。


「――――! ……すみません、今何かおっしゃられましたか?」

「べつに翠ちゃんに聞いたわけじゃないよ。ただ、今の決闘で先生が何をしてたのかなって……」


(たしかに、獅子道君には何が見えていたのでしょう…………)


 とはいえ、一花にはなんとなく想像がついていた。

 しばらく考えた後、一花は「あくまで推測ですが」という前置きを添えて話し出す。


「獅子道君が先生に幻覚を見せられていたのは間違いないでしょう。…………ですが、3級に分類されている基礎的な幻術で、獅子道君ほどの人があそこまで翻弄されるとは思えません」

「だろうな、まるで手品師だ」


 声のした方を見てみると、そこには真剣な眼差しでフィールドを見下ろす白銀が居た。あまりに集中しているので一瞬気のせいかとも思ったが、どうやら違うらしい。一花の視線に気付いた白銀は、冷静に「ああ、すまない」と謝罪してフィールドに視線を戻す。


「というと?」


 白銀の真剣さは、正直言って度を越していた。一見普通に考え事をしているように見えるが、その目は獲物を狙う猛獣のごとき鋭さを宿している。

 一花がそれに驚かなかったのは、彼が使徒に憧れを抱いていることを知っていたからだろう。

 魔術師であれば当然の感情かもしれないが、それはあくまで子供に限った話だ。ある程度魔術というものを理解すれば、誰もが自らの無謀さを理解し、諦める。

 ましてや堅実家である彼が、16歳となった今も尚それを抱き続けているとは思えない。しかし彼の目を見て、一花は再び確信した。


――白銀君は、まだ使徒への憧れを捨てきれていないんだ


 そんな彼が、今の決闘をただ呆然と見ていたはずがない。おそらく、この場の誰よりも真剣に見ていたはずだ。

 故に、一花は白銀の意見に興味を持った。


「…………?」


 どうやら里美も気になるようで、2人揃って白銀の方に注目する。

 そんな2人の視線に白銀が気付いた様子はない。

 しかし一花の声は聞こえていたのか、視線こそ秋葉に固定されているものの、淡々と語り出した。


「いくらあの人の技術が優れているとはいえ、あいつは二度も幻覚に騙されるほど馬鹿じゃない。騙されるように誘導されていたんだ。幻覚の位置、タイミング、動かし方、そのどれもが計算しつくされていたはずだ。あれは魔術というよりも、手品の領域だろう」

「手品って、テレビとかで見るあの手品?」


 里美の問いに、白銀は少し考える素振りを見せてから「ああ」と頷く。


「俺も詳しくは知らないが、手品の基本は視線誘導だ。相手の視線を仕掛けから逸らす、手品師はその結果を奇跡と錯覚させる。優れた手品師なら、意識をも容易に操れるだろう。

 もちろん、誰にでも通用するわけじゃない。最初から獅子道が冷静でないことに気付いていたからこそ、あの人は今回のような戦い方をしたんだろう。冷静に周囲の状況を把握できていれば、あいつは敵が2人居ることに気付けたはずだ」


 獅子道の異変は彼と親しい白銀にしか分からないほどの機微なものだったが、一花も里美も彼が言うのならそうなのだろう、と自然に納得していた。

 だから、一花がパッとしない表情を浮かべているのは、白銀の推測に納得できなかったからではない。

 それとはまた異なる事実に対する違和感が、彼女をそのようにしていた。


「……ですが、あれだけが先生の力の全貌とは思えません。あれはあくまで先生の経験の賜物であって、先生を使徒たらしめるものは、全く別のもののはずです」


 今回の決闘で秋葉が見せたのは、あくまで対人戦闘における技術の一端だ。


 使徒は、対悪魔戦における戦略的価値で選定される。国際連合が掲げる『一夜で一国を滅ぼし得る戦闘能力』というのも、あくまでプロパガンダ用の文言にすぎない。

 もちろん暗殺などの危険もあるため、対人戦能力が優れているに越したことはないが、使徒に求められているのはあくまで対悪魔戦における広域殲滅能力だ。

 故に、今のが秋葉本来の戦闘スタイルとは考えられない、という一花の違和感は正しい。

 そもそも軍事力の基盤である使徒の情報は、最高レベルの機密情報だ。上層部の許可が下りない限り、彼が一般人の前で本来の力を見せることはないだろう。


「だろうな。使徒はあくまで対悪魔戦のスペシャリストだ。いくら今のように対人戦能力が優れていても使徒にはなれない。今のはあくまで、俺たちに魔術がなんたるかを示すためのデモンストレーションのようなものなんだろう」

「それなら十分示せてたと思うよ!」

「はい、私たちを含め、魔術に対する価値観を変えられた生徒は多いはずです!」

「今のを正確に分析できていればの話だがな」


 白銀の言う通り、彼のように今の決闘を正しく分析できた生徒はそう多くない。

 事実、周囲からは「明らかに3級の魔術じゃないだろ」や、「思ってたより使徒って地味だな」といった声が聞こえてくる。


『優秀な魔術師を見極めるのも、魔術師としての大事な能力だよ』


 ふと、白銀の脳裏に昨日の秋葉のセリフが蘇る。


(先生が言っていたのはこういうことなのか)


「ですが、きっかけにはなったはずです!」

「だよね! 獅子道君ナイス!」

「フッ、本人の前では言ってやるなよ」

「フフッ、そうですね」


◇◇◇


「改めて、午後の授業を始めたいと思う。一応確認するけど、もう僕に決闘を挑もうなんてのは居ないだろうね?」

「先生、質問があります!」


 質問ならば良いだろう。


「手短に頼むよ」

「はい、お時間は取らせません」


 北村(きたむら)歩美(あゆみ)

 全体的な成績はクラスの中でも中の中だけど、筆記試験では翠さんや白銀君に次ぐ高得点を出している。

 名簿を見た限りでは、勉強大好き真面目ちゃんといった印象だ。それは実際に彼女の口調や僕に対する硬い態度からも感じ取れる。


「先程先生が使用されたのは、2級相当の強力な精神干渉術式ではないのでしょうか? 3級に分類されている基礎的な幻術では、あそこまで人間の視覚に影響を与えることはできないと思います」


 僕が幻術を使っていたことに気付けたという点は、評価に値するだろう。見た感じ、それに気付けたのは全体の7割程度だ。

 けど、やはり頭が堅いというか、現代の魔術師らしい思考だ。

 わざわざ弱い魔術を使わずとも強力な魔術を使えば良いじゃないか、という考えはとても浅はかというか、僕はあまり好きではない。

 まあ、その誤った認識を正すための学校なんだけどね。


「僕が使ったのは紛れもなく3級に類する基礎的な幻術だよ。もちろん、それ単体では君の言うように人間の意識をあそこまで騙すことはできない。

 けど、魔術はあくまで手段の一つだ。視覚を騙すという目的を達成するための手段が、魔術による精神干渉だけとは限らない。様々な技術を応用することで、魔術はさらなる効果を発揮することもある」

「…………」


 僕の話を理解できた生徒は……あまり居ないようだ。

 と言ってもおおよそ想定通りといったところで、特に不都合があるわけではない。


「…………分かりました。授業を中断させてしまい申し訳ありませんでした」

「いいよ、気にしないで」


 納得したわけではない。不満とまではいかないものの、北村さんの表情にはまだモヤモヤとした不満めいたものが残っている。


「今は理解しなくていいし、できなくていい。これから君たちの知る魔術というものは大きく変わっていくだろう。それが学校という場であり、僕がここに立つ意義でもある。

 それじゃあ、今度こそ授業を始めようか」


 最後までお読みいただきありがとうございました。


 さて、決闘はいかがでしたでしょうか。

 多分、地味だったと思います。裏を返せば、Aクラスの天才ごとき秋葉が真面目になるまでもないということにもなります――というのは言い訳にはなりますが、実際その通りです。

 ですので、今後待ち受けているであろう強敵たちとの闘いを楽しみにしていただければと思います。

 章タイトルも、なんだか意味深なものですしね……?


 というわけで、また次回お会いしましょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

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