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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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決闘Ⅱ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

 本日もお読みいただきありがとうございます!

 試合開始の合図とともに、獅子道君は魔術を発動した。

 

「オラァッ――――!」


 地系統魔術【(アンデュレ)(ート・ランド)】――範囲内の地表を液体に近い状態に変質させ、水面に波を起こすのと同じ要領で発動起点となる地点の地表を押し下げることで、地面に波を起こす魔術だ。


 地面に突いた右腕を起点に、地面の波が僕に向かって押し寄せる。

 波自体はそこまで高くないから、僕でも一飛びで避けられる。

 けど、彼は避けられた際の対処もしっかりと心得ていたようだ。


 迫りくる波を跳躍して避ける。


 そして地面に着地した瞬間――――


「――――!」


 獅子道君の周囲から直径40センチほどの岩の弾丸が射出される。

 一つや二つではない、無数の岩の弾丸が次々と生成されては、発射されていく。


 多少アレンジは加えられているようだけど、これは【(ロック・)(バレット)】という地系統魔術の中では最もポピュラーな遠距離攻撃術式だ。

 しかし流石は天才といったところか、その速度とサイズ、そして数は異常だ。彼の魔力量と、地系統魔術への高い適正あってのものだろう。

 当たれば僕のへなちょこな体では一瞬で四肢が吹っ飛ぶ。

 単純かつ高威力。工程そのものもそこまで複雑というわけではない。まさに彼のような初学者が武器とするには、もってこいの魔術だ。

 けど、単純なだけに対策は容易だ。

 発射された時点で、既に弾は彼の制御を離れている。軌道さえずらしてしまえば、避ける必要もなく対処可能ということだ。


 というわけで、軌道上に上昇気流を起こすことで弾の軌道を逸らす。


「ここだよ」


 と、僕は獅子道君の背後から彼の肩をトン、と軽くつつく。


「――――!?」


 驚くのも無理はない。

 獅子道君から見れば、僕は今の今まで10メートル以上も離れた場所に立っていた筈なのだ。

 彼の顔は一瞬驚愕に染まった――しかし流石は獅子道家の長男、すぐに今まで見えていたのが幻覚だと判断するや否や、瞬発的に体を回転させ、その巨腕を背後の僕目掛けて振り下ろす。

 けど、


「不意打ちを仕掛けなかった時点で、これも幻覚だと推測できただろう」


 振り下ろされた彼の巨腕は、虚空を捉える。


 仕様上、基礎的な幻術では干渉できるのは1人が限界のため、幻覚は彼にしか見えていない。傍から見れば、ただ彼が何もない虚空に向かって殴りかかっているようにしか見えないだろう。

 もちろん、術者である僕も含めてだ。幻覚の位置は把握しているけど、実際に見えているわけではない。


「馬鹿にしやがってぇ――――!」


 またもや背後に現れた僕に向かって、今度は岩を纏わせた拳で殴りかかる。

 残念ながら、それは単調と言わざるを得ない。

 さらに言えば、魔術師らしくない。

 岩を纏わせた分、多少威力とリーチが伸びたくらいで、このシチュエーションではただ魔力を浪費しただけ。何の工夫もない、怒り任せの無味単調な一撃。

 反応さえできれば避けるのは容易だ。


 僕は迫る拳を避け、そのままの勢いで彼の側面を周り、背後に回った。


「こと魔術師戦において、そのような単調な攻撃は全くもって意味を為さない。魔術はあくまで手段だ。対魔術師戦に限らず、何を目的とし、そのために魔術をどう使うかを考えるのが、魔術師の仕事だよ」

「クソがあ――――!」


 どうやら怒らせてしまったらしい。


 今度は振り返ることもなく、獅子道君は両腕を地面に叩き下ろす。

 大きな衝撃の後、周囲の地面が彼を囲うようにして隆起し、気付けば僕の背丈の2倍はあろうかという岩の壁が出来上がっていた。


「それは良い判断だ。壁で自分を囲むことで僕が接近できないようにする。一時しのぎに過ぎないけど、咄嗟の判断としては間違ってない……けど――――」


 正しい判断とは言えない。

 あくまで一時凌ぎにすぎず、結果的にその判断は彼を不利に追い込んでしまった。


 僕はあの円筒状の壁内に何かしらの攻撃をしかければいい。けど彼はその真逆で、この状況では壁外の範囲全てに必中レベルの攻撃を仕掛けなければ、勝ち目はない。

 残念ながら、今の彼では広範囲かつ僕に命中させられるような必中性を持つほどの高度な魔術は使えないだろう。

 要するに、彼はもう詰みということだ。


「なっ――――!?」


 上空に生成した大量の水を、一気に獅子道君の居る壁内部に落とす。いや、注ぐと言うべきかもしれない。


 完璧に生成されただけに、壁は一切として水を通さない。このままでは壁内部は浸水し、獅子道君は溺れてしまうだろう。

 彼もそこまでは考えられたようで、瞬時に壁を打ち砕いて脱出した。

 しかし安心するのも束の間、前方から無数の火球に襲われる。

 もちろん、僕の魔術によるものだ。

 火系統魔術の中では最も基礎的な遠隔攻撃術式【(フレイム・)(バレット)】――文字通り、火球を生成し射出する魔術だ。系統内では【(ロック・)(バレット)】と同じ基礎攻撃術式という位置付けになっている。


 反射的に岩の壁を生成して火球を防ぐ――その判断は間違っていない。

 けど、今回に限っては被弾リスクを承知で避けにいった方が、まだ勝てる可能性が残っていただろう。

 壁を生成して攻撃を防ぐのは良いけど、そしたら視界が壁で遮られてしまう。


――だから、火球の発射元に僕が居ないことにも気付けないのだ


「君の負けだ」


 ただ軽く殴ってあげるだけでも良かったのだけど、最後は魔術師らしく、魔術で締めくくるとしよう。


 獅子道君が必死に火球の嵐を凌いでいる中、静かにその横に立った僕は、指先に生成した直径3センチほどの火球を彼の脇腹に軽く触れさせる。


 シュゥと服を焼く音が流れ、火球が彼の肌に触れた瞬間――――


「そこまで!」


 そうして、決闘は僕の勝利で締めくくられた。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 さて、詳しい解説は次回彼らがしてくれるでしょうから、内容には深くは触れないでおきましょう。


 今回は、正直言って地味な戦闘になりました。

 本当は秋葉が使徒としての能力を全解放してとてつもない魔術で獅子道君を消し炭に!――といった内容の方がインパクトがあって面白味があった可能性は無きにしも非ずですが、2人の実力差を考えればまあよく秋葉が尺を稼いでくれた方でしょう。


 というわけで、また次回お会いしましょう!

 最後までお読みいただきありがとうございました!

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