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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
12/19

決闘Ⅰ

 こんにちはこんばんはおはようございます。

 本日もお読みいただきありがとうございます!

午前の授業終了後


「待たせたな」


 食堂の片隅。テーブル席に座っていた白銀の前に現れたのは、生徒で溢れかえった食堂内で一際異彩を放つ巨躯の少年だった。

 名は獅子道(ししどう)剛毅(ごうき)。彼もまた、白銀と同じAクラスの一員だ。


「相変わらず量がすごいな」


 丼ぶりの上にさらに逆さまにした丼ぶりを載せたかのような山盛りの丼を見て、白銀は呆れ半分笑い半分といった様子でそう呟いた。


「これでもまだ足りねえくらいだぜ。お前もこんくらい食わなきゃ、俺みてえにデカくはなれねえぞ」

「なれるもんならなりたいよ」


 この巨体が、食生活一つで手に入れられるような代物であるはずがない。明らかに先天的な体質によるものだ。

 彼自身はたくさん食べた結果今の肉体を手に入れたと勘違いしているのかもしれないが、それだけで彼のような肉体を手に入れられるのなら誰も苦労しないだろう。


 余談だが、現代では魔術による肉体改造技術が発達している。だがそれは非人道的とされており、今日まで多くの国で研究が禁止されてきた。

 もしそれを利用すれば、白銀のような痩身も容易に獅子道のような巨躯へと変貌するだろう。

 とはいえ今の彼にそうまでしてフィジカルアドバンテージを得るメリットは無いし、どう考えてもデメリットの方が圧倒的に大きい。

 そもそも秋葉やダビドを見れば分かるように、魔術師に身体能力は求められていない。あるに越したことは無いが、獅子道ほどのものはほとんどの魔術師にとって、過剰な代物だろう。

 


「白銀、あいつのことどう思う?」


 食事を始めてから数分、気付けば神妙な面持ちとなっていた獅子道は、白銀にそう問う。


「あいつって、先生のことか?」

「ああ、お前ならなんか知ってんだろ? ――――あいつの正体とかよ」


 わざわざ食事の手を止めた獅子道に反して、白銀は湯気の立ち昇るうどんをすすりながら、質問に対する答えを考える。


「…………あの人は、紛れもない使徒だよ」


 そう答えた白銀を見て、しかし獅子道は眉を顰める。


「俺に嘘を吐く必要はねえ。これでも獅子道の長男だ、秘密は守るぞ」

「嘘じゃない。実際に記録映像を見せてもらったことがある。あれは紛れもない使徒だよ」

「……そう、なのか…………」


 白銀がここまで言い切った以上、これ以上の追求は無駄だと判断したのだろう。

 いつもの強情さはどこへやら、あっさりと引き下がった獅子道に白銀は意外感を抱いていた。


――まあ、成長したということか


 彼が完全に引き下がったわけではないことは、その表情を見れば分かることだ。

 ただ、それでも理性を奮い立たせて大人の対応をしたことに対しては、友人として喜ばしいものがあった。


「じきに分かることだ。ただ、お前の口の堅さは俺が一番よく知っている。あの人が使徒でないのなら、俺は正直にそう話しているよ」

「…………」


 白銀の言葉に、獅子道はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く。照れ隠しなのか怒っているのか、白銀からしたらどちらとも取れる反応だった。

 そんなまるで子供のような感情表現に、白銀は仕方がないとでもいうように嘆息する。


「あの人のことが気に入らないのか?」

「…………そういうわけじゃねえけどよ。……いくら使徒ったって、見た目は俺たちと変わらないガキじゃねえか。もっと経験豊富なベテランの方が、教師としてはマシなんじゃないかと思ってよ」

「たしかにあの人は俺たちと一つしか違わない。お前の言う通り、経験という点ではあの人より優れた魔術師はたくさんいるだろう」


 今が16歳とすれば、実戦経験はせいぜい4、5年程度。その4倍以上のキャリアを持つ魔術師はごまんといる。

 実力よりも経験が多い方が教育者に適している、という点には白銀も賛成だった。


「ならお前は不満じゃねえのかよ……?」


 白銀の一見矛盾しているようにも取れる発言に、獅子道は眉を寄せる。


「不満はない。世界最高峰の魔術師の教えを受けられるんだ、文句があるわけないだろ」


 白銀の発言を信じるのならば、たしかにその言葉にも納得できる。

 しかし、時として人間は理性よりも感情を優先してしまうものだ。獅子道もその例に漏れず、この時に関しては彼の理性も機能していなかった。


「…………やっぱり俺は納得できねえ」

「何が気に入らないんだ?」

「…………使徒ってのは、バケモンみてえな才能を持ってるやつがなるもんだろ? ただ才能だけで成り上がったようなやつから学べることなんて、あるとは思えねえんだよ…………」

「けど、あの人は入学式で自分のことを凡人って言ってたじゃないか。きっと、血のにじむような努力の末に使徒の座を勝ち取ったんだと俺は思うぞ」

「あいつの言葉になんの根拠がある? 凡人ったって、それは使徒であるあいつの基準から見たものじゃないのか?」

「…………」


 もはやどのような理屈を並べても無駄だということを、白銀はようやく理解した。

 一応、獅子道の言うこともある程度理屈は通っている。

 凡人の基準とは、人によって異なるものだ。天才が自分のことを凡人と言ったとて、凡人からすれば天才は紛れもない天才。自分たちより優れた能力を有している以上、凡人はそれを凡人とは呼べない。それは、自分たちの努力が足りないと認めるも同然だからだ。

 しかし、白銀はそれでも秋葉の言っていたことを嘘だとは思えなかった。

 理屈はない。根拠もない。ただ、不思議と信じたいという気持ちがあった。


「少なくともさっきの授業を聞いている限りでは、才能だけで使徒になったとは思えないがな」

「あんなの、わけの分からねえ理屈を並べただけの御託だろ! 俺たちは強くなるためにここに来たんだ。椅子に座って勉強しに来たんじゃねえんだよ――――!」

「獅子道、落ち着け…………」


 怒号とともに立ち上がった獅子道は、若干ながら周囲からの注目を集めてしまっていた。

 白銀の言葉でそれに気付くと、獅子道は僅かに顔を紅潮させ、スッと椅子に座る。


「…………」

「お前の気持ちが理解できないわけじゃない。だが、なにも今すぐ結論を出す必要はないんじゃないか?」

「いや、俺はこの三年間を一日たりとも無駄にする気はねえ。白銀、俺は午後の授業であいつに決闘を挑む。そこであいつが役に立たねえとみんなに気付かせてやる…………!」


 白銀の経験からして、こうなった獅子道を止める術は無い。皆無というわけではないが、わざわざ両親を学院に呼び出してまで止めるほどの重要性は感じられなかった。


「…………白銀として止める理由は無い。あくまで授業内での演習目的ということであれば、さしたる問題にはならないだろう」

「お前を巻き込むつもりはねえよ…………だから、手は出すなよ」

「出す理由が無いな。だが、これだけは言わせてくれ――――お前があの人に何をしたところで、士郎殿の立場が戻ることはないぞ」

「分かってる――――」


 分かっていないことなど顔を見れば明らかだ。

 しかし、もう理屈でどうこうできる段階は過ぎている。そもそもそんなチャンスなど無かったのかもしれない。

 だから白銀はそれ以上何も言わず、不干渉を貫くことを心に決めた。

 それが、獅子道のためにできる唯一のことなのだ、と。


(まあ、いずれこうなるとは思っていたがな…………)


◇◇◇


 昼休憩後、実技演習場に集まった僕や如月、そして生徒たち。

 全員集まったことを確認し、授業を始めようとしたところでそれは起きた。


「――――というわけだ。あんたが勝ったら俺はあんたを認める。だが、俺が勝ったら担任を辞退しろ」

「それ、僕にメリットある?」

「もし負けたらこれ以上あんたに突っかかるような真似はしねえ。少しは授業がやりやすくなんだろ」

「……たしかにその通りだ。いいよ、君の申し出を受けよう」


 彼の性格からして、ここで断れば余計面倒なことになるだろう。後顧の憂いを断つためにも、ここは彼のやりたいようにやらせてあげるのが一番だ。


「ハンデはいらねえ、全力でかかってこい」

「いや、悪いけど手加減はさせてもらうよ」

「どういうことだ……?」

「君が言いたいのはつまり、才能だけで生きてきた使徒から教わることなんてたかが知れてる、ということだろう? 使徒の強さが生来のポテンシャルに依存したものであることは認めよう。けど、僕に関しては例外だ。それを証明するには、そうだね――――3級の基礎的な魔術のみで僕が勝利すればいいだろう」


 魔術には難易度を示す基準として、階級が定められている。

 3級はその中でも最も低い階級だ。3級の魔術はどれも、魔術の基礎にあたる小規模なものとなっている。炎を生成したり、水を生成したり。系統への適正が無くとも誰でも使用できる、文字通り基礎を学ぶために作られた魔術だ。


「3級程度の雑魚魔術で俺に勝てるわけねえだろ!」

「それは試合に勝ってから言うといい。それに、雑魚魔術でも勝てるからここに居るんだ。あとのルールは君に任せるよ」


 強情な彼ならば、理不尽なルールにすることは無いだろう。僕に「手加減は不要」と言ったほどだ。正々堂々勝負して勝たなければ、彼にとって本当の勝利とは呼べない。

 そういうタイプの人間とはこれまで幾度となく出会ってきた。

 だからこそ、明らかに過剰なハンデを背負った僕に負ければ、彼のような人間は必ず引き下がるということも分かる。

 前提として、僕が負けるなんてことは絶対にあり得ない。だから、僕が負けた場合を想定するのは無意味だ。


「そうかよ、なら一撃でも攻撃を当てた方が勝ちってことでどうだ? これなら大した問題にもならないだろ」

「うん、僕としてもそれが助かるよ。審判は、姫子に頼もう。いいね?」

「了解しました」

「うん」


 ということで、無関係な生徒たちには観客席に移ってもらい、――演習場は屋内型のコロシアムとなっており、中心部に円状のフィールドがあり、それを囲むように観客席が配置されている――僕と姫子、獅子道君だけがフィールドに残った。

 フィールドの半径は大体30メートル。魔術師にとっては正直狭いと言わざるを得ない空間だ。けど、地下の屋内施設であることを考えれば、十分な広さとも言える。


「改めて、どちらかが相手からの攻撃により一度でもダメージを受けた時点で試合終了、その際攻撃を当てた側が勝利となります。隊長におかれましては、それに加えて2級以上の魔術を使用した時点で即時失格。同時に獅子道様の勝利となり、試合終了となります」


 順番に僕と獅子道君の様子を確認し、姫子はゆっくりと右腕を上げる。


「それでは…………始め――――!」


 最後までお読みいただきありがとうございました。


 ついに戦いが始まりそうです――――!

 …………こちらからは以上です。

 

 それではまた次回お会いしましょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

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