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救済のアポストロス  作者: ただのいぬ
第一章 東京事変
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死刑囚

 こんにちはこんばんはおはようございます。

 本日もお読みいただきありがとうございます!

「みんな揃っているようで何よりだ」


 教壇に立つ僕に向けられる視線は、まさに十人十色と言える。

 好奇心と期待に満ちた眼差しを向けてくる生徒も居れば、胡散臭そうに僕を見ている生徒も居る。

 しかし、前者が予想以上に多い。

 昨日も今日と同じ感じだったけど、あの時は入学式ムードに流されていたこともあってみんなの気が緩んでいただけかと思っていた。けど、そうではなかったらしい。

 とはいえどちらも半々といったところだ。

 まあ、良い意味で予想が外れたわけだから、運が良かったと思うことにしよう。


「早速だけど、紹介したい人がいる――――おいで、如月」


 そうして教室に入ってきたのは、凛冽な空気を纏った黒髪の女性だった。

 手入れの行き届いた艶やかな黒髪と、歩いていても一切ブレることのない体幹。生来の知的な雰囲気をさらに引き立てる――本人にそのような意図があるのかは分からないけど――シンプルな黒縁眼鏡。その奥で鋭い光を放つ射貫くような視線。そして、黒スーツの上からでも、いやスーツの上だからこそ際立つ理想的な流線美。

 それら全てが、彼女という女性の在り方を物語っている。


 清楚というわけではなく、かといって華美というわけでもない。

 例えるならば、チューリップ畑に咲く一輪の薔薇。無数の秩序が調和し合う穏やかな世界に突如として現れた、一本の棘。

 それこそが彼女――如月(きさらぎ)姫子(ひめこ)という存在だ。


「自己紹介を」

「はい、陸軍第一軍団所属第三遊撃部隊隊員、如月姫子と申します。指令により、今後隊長のサポートとして、Aクラスのみなさまとともにこの学院で過ごさせていただくことになりました。至らない点は多々あるかと思われますが、何卒、よろしくお願いいたします」


 ということだ。


「「…………」」


 彼らの気持ちも理解できる。

 姫子が放つ独特な威圧感は、今の自己紹介によって一層重圧を増した。彼女の個性がより際立ったとも言えるだろう。

 要するに、如月姫子という人間は本来、人と相容れない存在であるということだ。

 それは、彼女の過去を考えればむしろ当然と言える。


「一つだけ、みんなに話しておかなければいけないことがある」


 一瞬姫子から動揺が感じられたのは、言うまでもなくこれから話す内容に関係している。


「――――彼女は、元死刑囚だ」

「「――――!?」」


 瞬間、張りつめていた緊張が破裂したかのような衝撃が走り、同時に生徒たちの動揺が教室を満たしていく。


「どういう、ことですか…………?」


 かろうじて冷静だった白銀君は、恐怖と怒りが入り混じった声音でそう問う。


「彼女の罪状は、計十五件の殺人罪および未遂。その中には非魔術師の殺害も含まれている。魔術師が死刑になる理由としては、十分すぎるだろう」

「だから、何故そんな人をここに連れてきたんです……!?」

「彼女が僕の部下だからだ。大丈夫、僕の名において、彼女が君たちに危害を加えないと約束する」

「…………だから、安心しろと?」

「……気持ちは分かる。僕だって見ず知らずの死刑囚なんかと一緒に生活したくはないよ。けど、これは決定事項だ。一応言っておくと、僕の部隊は基本的に元罪人の魔術師で構成されている。その中でも、彼女はまだマシな方だよ」

「マシな方って、人殺しにマシもなにも無いでしょう!」


 たしかに、今のは僕が間違っていた。

 彼女がまだコントロールの効く方だと伝えたかったんだけど、どちらにしろ同じことだ。


「彼女にもそうせざるを得なかった事情があるんだ。君たちも、万界教(ばんかいきょう)は知ってるだろう?」

「……万界教って、4年前に政府から解散命令が出されたあのカルト団体のことですか…………?」

「うん、その万界教だ」


 万界教(ばんかいきょう)――かつて多くの非魔術師を対象に詐欺まがいな宗教活動を行い、それを土台に政府議員と結託。協力関係にあった野党の選挙活動を有利に進めるために、信者を始めとした非魔術師たちの魔術師排斥運動を扇動した宗教団体。

 その真の正体は、日本の魔術師社会の崩壊を目論む他国の破壊工作員によって設立・運営されていたカルト教団だ。

 まあ、この程度のことはよくあることだ。

 問題は、彼らが強力な魔術師で構成された非公認の軍隊を、国内に所有していたという点にある。

 本来この国では、組織による非公認の魔術師の育成が禁止されている。

 家庭内で教育の一環として魔術の使い方を教えるのは問題ない。けど例えば、企業が自警団として魔術師部隊を構成したり。教育機関がカリキュラム外で魔術師の資質を持つ生徒を育成したりする行為は、目的がどうであれ厳しく罰せられる。

 非魔術師の軍隊ならば対処は容易だ。軍の魔術師を動かせば容易に殲滅できる。けど、それが魔術師の軍隊となれば話は別だ。

 もしその中に使徒級の怪物が紛れ込んでいれば、国という基盤が揺るぎかねない。


 当時の万界教は、密かに大隊規模の軍隊を所有していた。

 政府がそれに対する殲滅作戦を決行したのは、4年前のことだ。

 作戦には警察組織だけでなく、軍の魔術師戦力までもが投入されることになった。万界教の戦力が不明な以上、妥当な判断といえる。

 実際、万界教は警察だけでは手に負えないであろう魔術師を複数保有していた。姫子もそのうちの一人だ。記録上、姫子は戦闘中に警察官と軍の戦闘魔術師を合わせて5人ほど殺害したとされている。

 そんな姫子を当時拘束したのは、他でもない僕自身だ。


「姫子は幼少期から万界教に傭兵として育てられてきた。幼い少女にとって、物心つく前から親に植え付けられてきた価値観を否定することは不可能だっただろう。だから仕方がなかった――――とは言わないし、言うつもりもない。彼女の罪は紛れもなく本物だ。彼女は一生をかけてそれを背負わなければならない。

 …………けど、綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど、人は変わることができるんだ。少なくとも姫子は変わった。罪を認め、僕の下で一生をかけてそれを償うと誓ってくれた。

 これは僕のわがままだ。姫子のためというのもあるし、君たちが姫子から学べることがあると判断したからでもある。

 僕は君たちを強くするためだけにここに来た。そのためなら、僕はなんだってする覚悟だ」

「…………私は、如月さんを受け入れてあげるべきだと思います」


 その勇気ある行動の主は、翠さんだ。


「たしかに、如月さんの過去は決して褒められたものではないでしょう。ですが、第三遊撃部隊の活躍はとても有名です。その功績は、この国の守護者としての信頼に足るものです。

 それに、軍に所属する以上、相手は悪魔だけではありません。悪意に満ちた人間を相手にすることもあるでしょう。だからこそ、如月さんから学べることは、私たちにとってとても貴重なものとなるはずです……!」


 ほとんどの生徒は、翠さんの話を呆然と聞いているだけだった。

 しかし数人の生徒は、翠さんの話を聞いて決心が付いたのだろう。


「私も翠さんに賛成です!」


 桃色髪の少女――神無月(かんなづき)里美(さとみ)は、そう言うと勢いよく立ち上がった。


「昔は悪い人だったとしても、今の如月さんは良い人に見えます!」


 そう言うと、神無月さんは隣に座る翠さんの方を向き、二カッと笑ってみせた。

 彼女の行動は、気まずい立場にいる翠さんを助けるためのものだったのだろう。


「神無月さん……!」


 そしてそれを皮切りとして、生徒たちから段々と賛成の声が上がり始める。


「私も賛成です!」

「僕も、翠さんの言う通りだと思う!」


 そんな声が教室に響き渡る中、白銀君の一言で、教室は再び静まり返る。


「先生、もし彼女が暴走した時、先生はどうするんですか?」

「即刻彼女を処刑する。君たちに危害が及ぶ前にね。

 これは僕が彼女を貰う際に課された条件でもある。僕はそれを了承したうえで彼女を部下にした。彼女も、それに納得したうえで僕に付いてきた。

 一応、当時彼女を拘束して警察に引き渡したのは僕だ。その時は遭遇してから無力化するまでに1秒もかからなかった。殺すだけなら、その半分も要らないだろう……そうだろう、姫子?」


 その問いかけに、生徒たちの反応に終始無反応を貫いていた姫子がようやく口を開く。


「はい、私が命令された討伐対象以外の人間に危害を加えた場合、もしくはそうなると判断された場合、隊長が即刻私を殺してくださる規定となっています。ですのでご安心ください。隊長が居る以上、私はみなさんに傷一つ付けられませんので」

「「…………」」


 言い方はともかく、つまりはそういうことだ。

 半数近くの生徒がまだ怯えたまま――というよりも、今の発言でさらに悪化した――みたいだけど、今後の姫子次第ということで、一旦無視だ。


「これで納得してくれるかい?」

「…………分かりました。もともと先生の方針に逆らうつもりはありません。先生がそうすべきだと判断したのなら、僕はそれに従うまでです」

「それは助かるね……」


 であれば、僕も相応の対価を示さなければいけない。

 もちろん、授業という形でだ。


「まだ完全に納得できたわけではないだろう。もちろん、今はそれでいい。これからゆっくりと慣れていけばいいだけだ。

 けど、僕たちに残された時間は少ない。前置きが長くなったけど、いよいよ授業といこうか――――」


 最後までお読みいただきありがとうございました。


 さて、前回の訪問者Ⅱで少しだけ匂わせのあった秋葉の部下が登場しましたね。

 彼の言ったように、彼が指揮する第三遊撃部隊の隊員は全員が元罪人で構成されています。それにはいろいろとわけがあるのですが、それはいつか語られることでしょう。


 ということで、また次回お会いしましょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

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