第七話 あゆみちゃん目線で回想、してみました ~良太の出張編~
今回のお話は、「くまさんの春から 2nd season」の第二十一話と同じく。
既に投稿してある「くまさんの春から 1st season」の第二十一・二十二話、「良太だって出張、しちゃうんです」をあゆみちゃん目線で再構成したお話です。
あのとき、あゆみちゃんが何を考えていたのかに加えて。
本編の事前や事後。
あるいは、大阪でのあゆみちゃんと姉の鹿山さんのやり取りなども明らかにしていますし。
良太君に対する思いの変化などにも、ふれています。
よろしければ、「くまさんの春から 1st season」の第二十一・二十二話を読み返してからお読みいただきますと。
より一層、お楽しみいただけるかと思います。
十一月も半ば、のんびりとした土曜日の午前中のことです。
「週明けから寒くなるみたいだから、衣替えをしちゃいましょう」
お母さまのひと言から始まった、衣替えだけれど。
つい先日、季節外れの花火を見に行ったばかりだからか。
冬がくるって実感は、あまりありません。
良太さんのお部屋で、秋物と冬物を入れ替えていると。
大きな衣装ケースを抱えて入ってきた、お母さま。
「どうしたのさ、そんなものを抱えて」
「寝室で保管していた、あゆみちゃんのお洋服よ」
長いお休みのたびに、お泊まりに来ていたときに。
大阪から、いちいち衣類を持ってこないですむようにと。
お母さまが買ってくれた衣類は、衣装ケースに入れ寝室で保管していたの。
今では自分のお部屋があるんだから、引き取らなくちゃね。
ケースの一番上に入れてあるワンピースに、目を留めた良太さんが。
「その服、長いこと着ていないみたいだけれど」
「もう小さくなっちゃったから、着ていなかったの」
「確か、僕が父さんと大阪へ出張したときに買ったんだっけ」
懐かしいお洋服を、久しぶりに見たからかしら。
初めて良太さんが大阪に来たときのことを、思い出しちゃった。
わたしが小学四年生のときだから、あれからもう三年もたつのね……。
「帰ったで~、お母ちゃん!」
ある金曜日の夜、玄関が開くなり聞き覚えのある元気な声が聞こえてきて。
声の主、お姉ちゃんを出迎えたお母さんは。
「どうしたの、金曜日ならお仕事でしょ」
「大阪で会議があって、課長のお供をして出張しとんねや」
お姉ちゃんの部署は、社内教育課といいますが。
課長のお母さまが、責任者の。
来年の新人研修の予定や内容を決める会議が、毎月あり。
あの月は、珍しく本社ではなく大阪で開かれたから。
お姉ちゃんは、お母さまに連れられて出張していたんです。
「お帰りなさい、お姉ちゃん」
「夏休みぶりやな、元気にしとったか?」
「うん」
「自分、明日の予定は?」
「何もないけれど」
「そらええ、明日は遊園地へ行くで」
「遊園地って、お姉ちゃんと二人で?」
「なんでウチら二人で行かなあかんねん、課長たちとや」
「良太さんのお母さまと?」
あれ、「たち」って言っていたけれど。
「大家さんと良太も、大阪へ来とんねん」
「えっ、良太さんが?」
「なんや、そのうれしそうな顔は」
しまった、うれしくてつい顔に……。
大阪出張に出発した、お母さまを見送った良太さんは。
渾身のおねだりを、お父さまにしたそうで。
お母さまに内緒で、お父さまと二人で大阪へ来ているんですって。
内緒といっても、既にばれてしまったそうですが。
「大阪へは出張で来ているんでしょ、お仕事はいいの?」
「明日は土曜日やで」
「じゃあ、朝から遊園地へ?」
「残務処理が残っとるから、ウチと課長は午前中いっぱいは仕事やな」
「じゃあ、遊園地へはお昼から?」
「ウチらは昼に合流するさかい、自分は大家さんや良太と先乗りしとき」
「うん」
「忘れるとこやった、人数分の弁当を作っときや」
あのときのお弁当か……。
急いで冷蔵庫をチェックして、おかずを決めたっけ。
「野菜はひと通りあんな、鶏のもも肉があったし冷凍のエビもあったで」
「良太さんには鶏の唐揚げとエビフライ、あとはポテトサラダを作るわ」
「揚げ物ばかりやと、大家さんと課長には重すぎるんとちゃう?」
「お二人には、さっぱりした別のおかずを用意するから」
「さっぱりって、何を作るん?」
「ゴボウをきんぴらにして鶏肉で筑前煮、後はお魚でもう一品を」
「良太が好きな揚げ物は、今ある食材で何とかなるやろ」
「さっぱりしたものには、いくつか材料が足りないかな」
「どないするん?」
「筑前煮用のタケノコと、西京焼き用の銀ダラは買いに行かなくちゃ」
「駅近くのスーパーマーケットやったら、まだ開いとるやろ」
翌朝はお姉ちゃんと、良太さんたちが泊まっているホテルのロビーへ。
「久しぶりねあゆみちゃん、元気にしていた?」
お姉ちゃんの後ろに立っているわたしに、声をかけてくれたお母さま。
「ご無沙汰……、しています」
「会えて良かったわ、鹿山を出張に同行させたかいがあるってものよ」
会社に行くお母さまとお姉ちゃんを、ロビーで見送ってから。
遊園地に向けて、まずは新大阪駅まで歩いていたら。
わたしの髪の、青いイルカのヘアピンを見つけた良太さんは。
「それって」
「ありがとう……、かわいいから大切にしているの」
「気に入ってくれたんだね、良く似合っているよ」
そう言われただけで、うれしくなっちゃったのよね。
「思っていたよりも、混んでいないんだね……」
遊園地に入るなり、良太さんがそう口にしていたっけ。
日本で一番有名な、あのテーマパークと比べていたんでしょうね。
この遊園地だって、関西ではそれなりに有名なんだけれど。
「子供は子供同士で、遊んでおいで」
お父さまにそう言われ、良太さんと二人で遊ぶことになったけれど。
乗りもの系のアトラクションでは、ヘアピンを外してバッグにしまい。
止まるとまた髪に差しているわたしを見て、良太さんが聞いてきたっけ。
「どうして、いちいち外したりつけたりしているの?」
「風で飛ばされて……、なくしちゃうのが嫌だから」
わたしが気に入っているのを見て、満足そうな顔をしてくれたの。
お昼になって、お仕事を終えたお母さまとお姉ちゃんが合流すると。
「あゆみちゃんが、お弁当を作ってきてくれたわよ」
ベンチの付いたテーブルで、お弁当をひろげると。
「良かったわね、あなたの好物ばかりで」
そうなんです、良太さんの前に置かれた大きなお弁当箱には。
エビフライをはじめ、良太さんの好きなおかずばかり入っていますから。
「急に呼ばれたのに、こんなお弁当を作ってくれるなんて」
「朝も早よから作っとったんやで、良かったな良太」
「あたしたちには別に、さっぱりしたおかずを作ってくれるなんて」
「ほんま、良くできた妹ですわ」
「これなら、すぐにでもかわいい奥さんになれるわね」
そこまで言ってもらえたなら、頑張ってお弁当を作ったかいがあったわ。
お仕事を終える前に、お母さまはホテルに連絡しておいたそうで。
ツインルームのお部屋に、変更したからと。
「あゆみちゃん、今夜はあたしの部屋に泊まっていきなさいな」
「そんなん聞いたら、黙ってらいれまへんな」
「鹿山は久しぶりの里帰りなんだから、親孝行していなさい」
「久しぶりに会うた姉妹を引き裂くて、よぉそないむごいまねができまんな」
一歩も引かない覚悟でしぶとく食い下がり、一緒に泊まれることに。
着替えを用意していないわたしに、お母さまが買ってくれることになって。
お姉ちゃんの案内で、アメ村に服を買いに行ったの。
「このワンピースはどうかしら、あっちのリボンが付いているのは?」
次から次へと、お母さまが持ってくるお洋服を試着させられていると。
「大家さんや僕を、放ったらかしにしすぎじゃない?」
文句を言う良太さんに。
「いいでしょ、あゆみちゃんにお洋服を選んであげられるチャンスなのよ」
「くまさんは前から言っていたんだよ、昔から娘が欲しかったって」
お父さまは、そう言っていたけれど。
わたしとしては、まるで着せ替え人形になった気分だったわ。
夕飯は、お父さまが行き付けの心斎橋の近くにあるステーキ屋さんで。
お店を出ると、お母さまが。
「あたしは、あゆみちゃんと近くのデパートに買い物に行くから」
「えっ、あゆみの服ならさっき買ったばかりだろ」
「さっき買ったのは明日の分、東京に来たとき用に何着か用意しておくの」
文句たらたらの良太さんと正反対だったのは、お姉ちゃん。
良太さんというおまけ、というより監視役こそ同行しますが。
お父さまとお酒を飲んできていいと言われたから、ごきげんだったの。
お母さまと二人で行ったデパートでは、着せ替えごっこが再び。
「これはどう?」
「わたしには……、少し大人っぽいかと」
お母さまは、いたずらっぽく笑いながら。
「残念ね、良太は白地に大きな青い花の模様が入った服が好みなのにな~」
「でしたら……、そのお洋服を」
わたしがそう言うのを聞いたお母さまが、笑いながら。
「じゃあ、これにしましょう」
その服こそ、衣装ケースの一番上に入っていた服なんです。
しかも、その後に似たような服をさらに二着も買ってもらったの。
「洋服の次は、靴下や下着を買わなくちゃ」
下のフロアに行き、下着を選び始めたお母さま。
「これなんて、どうかしら?」
お母さまが手にしているのは、ブラ……。
「それは……、わたしにはまだ早いかと」
クラスの中でも、している子は何人もいませんから。
「成長期だもの、半年もすれば必要になるわよ」
「そう……、ですか?」
「次にうちへ来るときには、必要なんだから」
まるで決定であるかのようにそう言うと、三つも手に取ったお母さまは。
「どれがいい、それとも全部にする?」
あのときのお母さまは、とてもうれしそうだったな。
「これ……、食べて」
新幹線のホームで、良太さんに渡した包み。
「あゆみちゃんが、サンドイッチを作ってくれたのよ」
「作ったって、ホテルの部屋で?」
「ちゃんとお礼を言いなさい、頑張ってくれたんだから」
前日、お母さまからお願いされたの。
「帰りの新幹線で食べるお弁当を、良太に作ってあげてくれるかしら」
「手を汚さずに食べられる……、サンドイッチはどうでしょう?」
「新幹線の中で食べるには、ちょうどいいわね」
「サラダを作っても……、良太さんは食べない可能性がありますから」
「そうか、具材として挟んじゃうのね」
あれ?
家族以外と話すときは、小さい声で口ごもりながらでしか話せない。
そんなわたしが、お母さまと話していると。
いつのまにか、家族と話すときのように話せているみたい。
まだ、多少は口ごもり気味だけれど。
「ホテルの部屋で作ることになるのよ、大丈夫?」
「調理用に……、ペティナイフと携帯用まな板があれば」
「ホテルの近くに百円ショップがあったから、そこで買いましょ」
「お弁当箱は……、お昼に使ったのを洗います」
やっぱり、お母さま相手だと普通に話せているみたい。
「食材は……、パンとマヨネーズやマスタードに」
「コンビニエンスストアで買えるわね」
「ハムサンド用に……、ハムとレタスにキュウリやトマトを」
「他には?」
「玉子サンド用にゆで玉子を……、ツナサンド用にツナ缶も」
家族以外なのに、普通に話せるっていいな。
きっと、お母さま相手だと安心して身構えなくてすむからかしら。
他の人、良太さんともこんな感じで話せたらいいのになって思ったの。
走り出した新幹線に向かって、手を振っていたときに気づいたことが。
次はいつ会えるか約束しようと思っていたのに、すっかり忘れていたって。
そして。
またすぐに、良太さんと会えたらいいのになって思っていることも。
舞台は再び、衣替えをしている良太さんのお部屋に。
「そうか、この服ってもう着られないんだ……」
良太さんたら、そこまでがっかりしなくても。
「今度、家庭科でワンピースを作るんだけれど」
「それが?」
「これと似た生地を買って、同じようなものを作るから」
「生地を買うなら池袋だろ、一緒に買いに行こうよ」
「そうね、生地選びから、良太さんが一緒にいた方がいいかも」
良太さん好みの服を作るんだもの。
うれしそうな良太さんを見ていたら、思い出しちゃった。
遊園地で、わたしがイルカのヘアピンを大切にしていると知ったときや。
ホームで渡した包みが、わたしが作ったサンドイッチだと分かったときに。
良太さんの笑顔を見たわたしは、初めて気づいたの。
自分が、良太さんを好きなのかもって。
あの年の夏に、初めて良太さんの家にお泊まりしたときの距離感は。
まだ優しいお兄さん、程度だったのに。
だから、バレンタインデーにあげたチョコレートをあんな形にしたし。
そして、わたしが今ここにいる決め手となったのは。
お母さまの結婚式の直後に、お母さまから言われたひと言だったのよね。
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