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第六話 ど~ん、花火っ! 後編

 あたしには手に負えない、って顔をしているお母さまが。

「大家さんからも、何とか言ってやってちょうだい」

「二人ともしょうがないな、何もこんなところでもめなくてもいいだろ」

「だって、あたしがいくら言っても聞かないんだもの」




 熱海に向かう新幹線を待つホームで、お母さまと良太さんがもめています。

 良太さんが、言うことを聞かないからと。

 お母さまは、ホームで待っているお父さまに援護を求めたんです。

「それで、何が原因でもめているの?」

「この子ったら、焼き肉のお弁当を食べると言ってきかないの」

 もめごとの原因を聞いたお父さまは、お母さまが正しいと思ったようで。

 今すぐにでも、お弁当をレジに持っていきたそうな良太さんに。

「熱海に着いたら、おいしい寿司を食べに連れていくって言っただろ」

「だって、おなかが空いちゃったんだもん」

 そうでなければ、お弁当を買おうとはしないでしょうけれど。

「たかが小一時間だぞ、我慢できないのか?」

「隼人や優紀ちゃんはお菓子を買ったでしょ、あなたもそれで我慢しなさい」

「二人とも、朝ご飯をたっぷり食べてきたんだよ」

「あなただって、ちゃんと食べたでしょ」

 食べてはいましたが、良太さんにとって「ちゃんと」かどうかは……。

「今朝は、おかわりを一回しかしなかったもの」

 ですよね。

 いつもなら二回、日によっては三回もおかわりをしますから。

「あなたが寝坊したからでしょ、あゆみちゃんが何度も起こしに行ったのに」

 出発時刻は知っていたのに、今朝はぎりぎりまで寝ていましたからね。

「とりあえず、腹が膨れるポップコーンでも食べているんだな」

 お父さまの提案に、しぶとく食らいつく良太さん。

「サンドイッチなら、食べてもいい?」

「くまさんの顔を見てみろ、ここは我慢するんだな」

 目がつり上がっているお母さまを見て、さすがに良太さんも諦めたらしく。

 ポップコーンとポテトチップスの袋を手にして、精算レジに向かいました。


 良太さんが片付いたと思ったら、こちらにも火種がくすぶっているわ。

「今のやり取りを聞いたでしょ、お姉ちゃんたちも買いすぎよ」

 わたしの指摘に対して。

 これは異なことを、とでも言わんばかりの猪口さんは。

「だから、ロング缶にしなかったでしょ」

「そんなに必要なんですか、たったの小一時間なに?」

 なにせ、各人が缶ビールを四本ずつ抱えていますから。

「適量やろ、どうせ発車前に一本目は飲み終わってまうんやし」

 人が聞いたら恥ずかしいから大声で言わないで、お姉ちゃん。

「発車まで飲み始めるのを我慢すれば、一本減らせるでしょ」

「でしたら、発車してから四本飲めばよろしいのでは?」

 真面目な顔をしてとんでもないことを言っていますよ、蝶野さん。

「飲む量を減らせ、と言っているんです」




 そんなこともありましたが、熱海駅に着いてからは。

 楽しみにしていたお寿司を食べて、駅前に戻ってくるとまだ十二時。

「それで、これからどうするんです?」

「花火大会は八時からやし、チェックインかて二時からやろ」

「この季節、昼間に熱海で楽しめるレジャーって何がありますの?」

 どうしたのかしら、お姉ちゃんたち。

 人の言うことも聞かずに、新幹線の中ではビールを四本ずつ飲み。

 お寿司屋さんでも、レモンサワーや日本酒をしこたま飲んでいたから。

 いつもなら、ゾンビのような状態になっているはずなのに。

 今日に限って、まともな姿をキープしているなんて。


「果物狩りなんてどうかな、イチゴ狩りは?」

 そう言い出した良太さんに、お姉ちゃんたちには聞こえないように小声で。

「虫がいるんじゃないの、わたしにはナシ狩りのトラウマが……」

「この季節だもの虫はいないだろ、それにイチゴ狩りならハウスの中だし」

「いくら秋でハウスの中だといっても、虫はお構いなしでしょ」

「他に大したプランがなさそうだもの、大人しくあきらめるんだね」


 そんなわたしたちをよそに、お姉ちゃんたちはすっかりその気です。

「でも、イチゴ狩りにはちょっと早いんじゃない?」

「せやな、イチゴやったらせいぜい十二月からやろ」

「今の季節でしたら、ミカン狩りがよろしいのでは?」

「それじゃミカン狩りに行くか」

 お父さまが決めかけたそのとき、良太さんが。

「本格的にミカン狩りをするには、二時間じゃ足りないんじゃ?」

「別に二時にチェックインしなくても、それに近場だったら何とかなるだろ」

 言葉を続けようとする、お父さまを遮るように。

「せっかくの温泉だもの、早めにチェックインして楽しみたいわ」

 お母さまのひと言で、ミカン狩りを諦めたわたしたちですが。

「ゆっくりお宿でなんて、大人の旅って感じね」

「はよ風呂に入って、湯上がりにホテルの外で一杯っちゅうのもええな」

「ホテルに行く間に、お店の目星をつけておきましょう」

 いつもながら切り替えが早いお姉ちゃんたちに、お母さまが。

「そんな暇はないでしょ、夕食は六時からだし食後はすぐに花火よ」


 丁々発止のやり取りの末、それぞれのグループに分かれることにして。

 花火を見ながら食べる、おつまみを買うついでに。

 お土産を物色しながら、人気のスイーツを食べに行くことにしましたが。

「日持ちしない干物や生菓子を買うのは、明日にしておきなさい」

 そんな、お母さまからの忠告もどこへやら。

 蝶野さんが開いた熱海のガイドブックをのぞきこむ、お姉ちゃんたち。




 集合時刻になると、それぞれが散策を終えて駅前へ。

「お店もいっぱいあるけれど、人も多かったわね」

「外国人も、ぎょうさんおったな」

「どのお店でも並ぶので、ちょっと疲れましたわ」

「お店はここより少ないけれど人も少ない分、僕は伊東の方が好きだな」

 ホテルに向かう間、そんなことを言っているお姉ちゃんたちと良太さん。


 チェックインの後は、荷物をお部屋に置いて温泉を楽しみ。

 テラスで海を眺めながら冷たい飲み物で、湯上がりの火照った体を冷やし。

 お夕食を済ませてお部屋に戻ってくると、とっぷりと日が暮れているので。

 各自が窓辺に陣取って、お楽しみの花火を見る体制に入りました。




 花火なんて五分も見ていると……、というお父さまの見解については。

 必ずしも万人がそうではないと、承知してはいますが。

 少なくともわたしたち一行については、当たっていたように思います。

 次から次へと、大輪の花火が秋の澄んだ夜空を照らすたびに。

 待ってましたと歓声を上げていたのは、開始から五分ほど。

 でも、花火を見るのに飽きたというわけではないようで。


 少しでも早く、自分たちのお部屋へ行き。

 秋の夜長を、お父さまと二人っきりで過ごしたいお母さま。


 花火を見終わってから夜の街に繰り出す、などと豪語していたくせに。

 新幹線の中から飲み続けていたお酒が、ようやくまわってきたのか。

 とてもではないけれど、花火を見るどころではなさそうなお姉ちゃんたち。


 しっかり花火を見続けているのは、隼人さんと優紀さんだけですが。

 純粋に花火を楽しんでいるかどうかは、どうにも怪しいと思います。

 二人で窓辺に座り、肩を寄せ合っているのを楽しんでいるのではないかと。


 とにもかくにも、形ばかりとはいえ窓辺で花火を観賞していたのですが。

 わたしはお部屋の中央で座卓に肘をつき、ぼ~っと花火を見ています。

 なぜって。

 みんなの視線が、花火に注がれているのをいいことに。

 言い出しっぺのくせに、横目でちらりとしか花火を見ていない良太さんが。

 お菓子やジュースを、好き放題にしているのを見ているから。 


 八時半になると花火の音もやみ、各自がお部屋で休むことになり。

 お母さまは、お父さまの浴衣の袖を引いてお二人のお部屋へ

 名残惜しそうにしている隼人さんを、引きずるように出ていく良太さん。

 よろよろとお部屋を出ていくのは、猪口さんと蝶野さん。

 そんな二人を見送った、お姉ちゃんはというと。

 わたしと優紀さんが、散らかったお部屋を片付けている間に。

 さっさと、自分のお布団に潜り込んでいます。




 チェックアウトのためにフロントへ向かいながら、良太さんがお父さまに。

「帰りの新幹線は三時だよね、今日の予定はどうなっているの?」

「とりあえず、昼飯だけは決めてあるが」

「お昼はどこで?」

 興味津々ね、朝ご飯を食べたばかりなのに。

「駅のすぐ近くにある、バーベキューができる店を予約してあるよ」

「何時に?」

「十二時から二時間だ」

「まだ十時前だよ、あと二時間以上もあるのに何をするの?」


 空き時間をどう有効活用するのかと、心配している良太さんに。

 ようやく、二日酔いから復活しかけているお姉ちゃんたちが。

「暇つぶしでいいじゃない、商店街をぶらぶらしていればあっという間よ」

 えっ、ぶらぶらですって?

 お酒を片手に、二時間も街歩きなんてしていたら。

 ぶらぶらじゃなくで、酔っ払ってふらふらになっちゃうのでは。

「バーベキューかて、熱海やったら肉以外にもシーフードが充実しとるやろ」

 お肉だろうがシーフードだろうが、お姉ちゃんたちのメインはお酒でしょ。

「いくら飲んでも、駅まで歩いて三分でしたら安心ですもの」

 お店からホームまで、みなさんがちゃんと歩けていられれば。

 という条件付きの安心、ですけれど。




 駅ビルの入口に、十一時五十分に集合することにして。

 バーベキューまでは、各自で商店街をぶらつくことにしたのですが。


 目星を付けておいたお土産を買いに行く、お父さまとお母さま。

 お酒が入った袋を片手に、ガイドブックを見ているお姉ちゃんたちは。

 昨日は行けなかったお店の中から、どこに行くか話している。

 はやりのスイーツ屋さんの後に、お土産屋さんをはしごする予定なのは。

 あいかわらず仲むつまじく、うらやましすぎる隼人さんと優紀さん。

 そんな二人についていくつもりだからと、のんびりと構えているのは。

 リゾート感やムードが皆無な、良太さんとわたし。


 今日は日曜日で、昨日よりは人も多いから。

 迷子にならないように気をつけてね、特にお姉ちゃんたちは。




 集合時刻になり、お土産の袋を手に駅前に戻ってくると。

「鹿山さんたちが持っている、お土産の袋を見なよ」

「スイーツは街歩きで堪能したのね、お土産はお酒のおつまみばかりだもの」

「隼人と委員長優紀のお土産とは、袋の彩りからして違うね」

「自分が食べておいしかったスイーツを、ご家族にも買っていたもの」

「どちらも、双方の生きざまが垣間見えて面白いね」

 姉がそんなお土産しか買っていないのは、妹としては面白くありません。

 むしろ、恥ずかしいです。

 そんなやり取りをしている、良太さんとわたしのお土産はといえば。

「僕は、自分が食べたい干物や海鮮を使ったお菓子を買ったよ」

「わたしは、おばあさまと桜井さんや山下さんへのお土産を買ったわ」

 どちらも所帯じみていて、それはそれで恥ずかしいです。




 バーベキューのお店へ行くと。

 案内されたテーブルには、すでにたくさんの材料が並んでいて。

 どれもおいしそう。

「お昼をバーベキューにして、正解だったわね」

「駅がすぐそこやさかい、帰りの新幹線に乗りそこねる心配もいらんし」

「なにより、お肉だけでなくシーフードもとてもおいしそうですもの」

 予想に反してしらふに近いお姉ちゃんたちも、バーベキューを楽しんで。

 時間に余裕をもって、帰りの新幹線に乗り込んだのでした。




 夕方に、おうちに帰ってきて。

 洗濯機を回し終えたわたしが、リビングに行くと。

 お父さまとお母さまが、詩織ちゃんと菜摘ちゃんを迎えに。

 直接おばあさまの家へ行って、いないのをいいことに。

 床に円陣を組み、お土産の干物で一杯やり始めているお姉ちゃんたち。

 すぐ夕食なのに、お土産のカニせんべいの袋を開けている良太さん。

 本能のおもむくままに生きていられる、あなたたちがうらやましいです。




 今回の旅行は、いつもの夏の旅行とは違って。

 プールや海で泳ぐという、一大イベントもなく。

 花火を見たこと以外は、ほぼノープランだったけれど。

 予定を詰め込み過ぎない一泊二日の旅行も、それほど悪くなかったかな。




Copyright 2026 後落 超


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