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第十七話 いなかったりいたりのクリスマス 後編

 いよいよクリスマスイブ、当日です。

 お母さまは、昨日のお仕事を終えてからお父さまと一緒に大阪へ。

 中島さんは、お父さまよりひと足早く昨日のお昼に先発しているそうです。

 猪口さんと蝶野さんも、昨日の夜から蝶野さんの別荘に行っていますので。

 昨夜は、良太さんやお姉ちゃんと三人で過ごすことになりまして。

 これじゃあ、今夜とさほど変わらないのでは?

 ついつい、そんなことを思ってしまいました。


 クリスマスの飾りつけは、一週間前に良太さんと二人で済ませてあるから。

 いつものように、夕方になったら外のイルミネーションを点灯するだけ。

 プレゼントはお母さまから聞いた保管場所から、リビングに移してあるし。

 昨日の夜から腕によりをかけて作っていたお料理だって、もう完成間近。




 お料理の仕上げに取りかかろうとしたとき、突然インターホンが鳴ったの。

「誰だろう、隼人と委員長は来られなくなったのに」

 えっ、隼人さんと優紀さんが来られなくなったって?

 そうなんです、今夜は良太さんのおうちにお泊まりをする予定だったのに。

 今朝、がらがら声の隼人さんから電話があって。

 風邪を引いたらしく、せきが出るし熱もあるから。

 今日のお泊まりは、パスをしたいと言われたんです。

 昨日は、あんなに元気だったのに。

 優紀さんも、自分だけ泊まるのも何だからとパスすることになったので。

 せっかく、お母さまからお泊まりの了承をもらっておいたのに。

 ちょっぴり、残念。




 モニターをのぞき込んだ良太さんですが。

「えっ、じいちゃんとばあちゃん?」


 一分後、良太さんの後からリビングに入ってきたおじいさまとおばあさま。

 お二人が来るなんて、お母さまからは何も聞いていないわよ。

 ということは、お母さまには内緒で来たってことですか?

 でも、何日か前にお母さまが電話していたわよね。

 お正月の二日には、新年のあいさつをしにみんなで実家へ行くって。

 一週間もすれば会えるのにわざわざ来るなんて、どうしたのかしら。

「いきなり来るなんて、どうしたのさ」

 良太さんも、わたしと同じリアクションを。

「驚かせてあげようと思ってね」

 あの……、そこまで朗らかに言われても。

 確かに、サプライズとしては十分な。

 いいえ、それ以上の効果はあったと思いますが。


「で、美波はどこにいるの?」

「母さんなら、大阪にいるよ」

 まるで三階にでもいる、なんて言い方ね。

「どうして、美波が大阪にいるの?」

「父さんの出張についていったんだよ、クリスマスイブを二人で過ごすって」

「あの子ったら、子供をほったらかしにして」

「まったくだよ、親の顔が見てみたいよね」

 良太さん、あなたの目の前には見てみたいと言ったそのお顔がっ!


「詩織と菜摘はどこに、三階で寝ているの?」

 お母さまの居場所を聞いたときとは、明らかに違うそのお顔。

 ここへ来た目的は、詩織ちゃんと菜摘ちゃんに会うためだったんですね。

「詩織と菜摘なら、いないよ」

「美波が大阪へ連れていったの?」

「まさか、父さんと二人でいたいからって大阪まで行くのに」

「だったら、どこにいるの?」

「おばあちゃんに預かってもらっているんだ」

 そう、良太さんが答えると。

「せっかく来たのに、詩織と菜摘がいないなんて」

「何のために、わざわざ」

 あからさまに落胆している、おじいさまとおばあさま。


 それを見計らっていたかのように。

 絶妙なタイミングで、再びインターホンが鳴ったの。

 モニターをのぞいた良太さんが。

「おばあちゃん!」

 良太さんとわたしが、玄関に迎えに行くと。

 詩織ちゃんを抱き菜摘ちゃんを乗せたバギーを押している、おばあさまが。

「どうしたのさ」

「詩織と菜摘が、どうにも泣き止まなくてね」

「まあ」

「あゆみを恋しがって、あたしや桜井さんがいくらあやしてもだめなんだ」

「いつもはお二人になついているのに、今日に限ってですか?」

「にっちもさっちもいかないから、桜井さんと相談をして連れてきたんだよ」

「二人を連れて、電車で来たの?」

「まさか、桜井さんに車で送ってもらったよ」

「それじゃあ、桜井さんにも上がっていただいて一緒にお食事を」

 クリスマスのお料理は、会ったときに写真を見せようと思っていたけれど。

 桜井さんが来たなら、その場で評価してもらえるわね。

 それはそれで、楽しみかもしれないけれど。

「桜井さんなら、もう帰ったよ」

「帰ったって、おばあちゃんは電車で帰るの?」

「あたしは泊まっていくよ、明日の昼に迎えに来てもらうように伝えたから」

「泊まるって、どうしてさ」

「今夜はあんたちだけなんだろ、くまさんから聞いたよ」

「母さんたら、余計なことをべらべらと」

 良太さんたら、そんなことを口にしちゃ。

「おばあさま、実はですね……」

 そんなことを話しながらリビングにお通しすると、先ほどの状況です。


 お互いに驚くこともなく、さらりとあいさつを交わしている三人。

 これって、ある意味ではすごいことよね。


 お目当てだった、詩織ちゃんと菜摘ちゃんに会えないと知って。

 がっかりしていた、おじいさまとおばあさまですが。

 二人が戻ってきたことで、打って変わってうれしそうにしている。

 一方、泣き止まない二人に閉口していたおばあさまは。

 ようやく肩の荷が下りたのか、ほっとしたお顔に。




 そうこうしていると、またまたインターホンが。

「今度は誰だろう」

 げんなりした顔で、モニターをのぞいた良太さんですが。

「えっ、委員長?」

 慌てて玄関に行くと、荷物を抱えた優紀さんが。

「どうしたんですか」

「今まで、峯岸君のお見舞いに行っていたのよ」

「隼人さんの容体は、どうでした?」

「もう熱は下がって、せきが少し」

「良かった、でも優紀さんはどうしてうちに?」

「せっかく用意したんだから、せめてプレゼントは渡そうって言われて」

 それで、二人からわたしたちへのプレゼントを抱えているのね。

 出迎えたわたしに続いて、リビングに入った優紀さんは。

 思いもよらぬ年配者の密度の高さに、プレゼントを抱えたままで固まって。

 そりゃ、そうよね。

 わたしですら、これってどんなメンバーなのって思いますもの。

「とにかく、プレゼントを渡したらあたしは帰るから」

 それを聞いて、にやにやしている良太さん。

「さすがの委員長でも、そそくさと帰ろうとするんだね」

 余計なことを言わないの、この異様な状況なんですから当然でしょ。




「お姉ちゃんは何をしているのかしら、五時には来るように言ってあるのに」

 真っ先に来て、お酒を飲み始めていてもおかしくないのに。

「鹿山さんなら連絡があったよ、蝶野さんの別荘に行くことにしたって」

「えっ、いつです?」

「昼前かな、もう着いたって電話が」

「そんな大事なことを、どうしてわたしに伝えてくれないんですかっ!」

「昨日の夜、中島さんから電話があっただろ」

「ええ、お姉ちゃんは話の途中から席を外してキッチンで話していたわ」

 その後、戻ってきてからは妙に考え込んでいたのよね。

「あの電話で、中島さんから帰りは明日の昼になると言われたんだってさ」

「お仕事で何かあったのかしら、だったらお父さまとお母さまも?」

 予定では、お帰りは明日の夕方だけれど。

「中島さんは仕事じゃなくて、プライベートの用事だって」

「クリスマスイブにお姉ちゃんを一人で放って置く用事って、何なの?」

「大阪時代の同僚が、結婚の前祝いをしてくれるからだってさ」

「まあ」

 普段は会えない元同僚がお祝いしてくれるんじゃ、無下にも断れないか。

「最終の新幹線に間に合わないだろうから、泊まってくるって言われて」

 ふうん、中島さんがいないクリスマスイブを過ごすなら。

 わたしたちより、猪口さんや蝶野さんと過ごす方を選んだのか。

 でも、良く考えてみれば。

 このややこしい状況だもの、お姉ちゃんがいないのは不幸中の幸いかもね。

 あっ、幸いはともかく不幸中なんて言っちゃった。

「それにしても、どうしてあゆみじゃなくて僕に連絡をしたのかな?」

「わたしに言えば文句を言われると思ったのよ、きっと」




 それにしても、今年のクリスマスイブはどうなっているのかしらね。

 いるはずの人はいないのに、いる予定のない人ばかりいるんですもの。


 それでも。

 普段から詩織ちゃんと菜摘ちゃんに会っているおばあさまは、ともかく。

 お母さまのご両親は、もうすぐお誕生日の孫と過ごせるんですもの。

 これはこれで、悪くないかも。

 でも、どうしてクリスマスプレゼントを送っておいたのかしら?

 来るつもりなら、手渡しできるでしょうに。

 送っておかないと、お母さまに来訪を察知されて拒否されるとでも?

 直接わたしに連絡をしなかった、お姉ちゃんと同じ思考回路ですか?




 翌日のお昼を過ぎるころ、みなさんが帰ってようやく静かになり。

 お掃除をしながら、ちょっとため息をついちゃったわたし。

 何だったのかしらね。

 せっかくのクリスマスなのに、くたくたになっているのって。

「疲れたって顔をしているね、ため息もついていたし」

 ふうん、良太さんでも気遣ってくれるほど顔に出ちゃっているんだ。

「おばあさまたちに気を使っていたから、楽しむどころじゃなかったもの」

「クリスマスは子供のためにあるって、母さんが言っていたのにね」

 少なくとも、今年のクリスマスが子供のためではなかったのは確かです。

「リビングの掃除は僕がするから、あゆみはキッチンを掃除していなよ」

 おおっ!

 良太さんが、自分からわたしのお手伝いをしてくれると言い出すなんて。

 これがクリスマスのプレゼントなら、疲れも吹き飛んじゃうかも。

 ありがたく、頂戴いたしますっ!




 夕方になると、満面の笑みを浮かべて帰ってきたお母さま。

「よっぽど楽しかったみたいだね」

 良太さんったら、だめじゃない。

 皮肉を言っているようにしか聞こえませんよ。

「食事はおいしかったし夜景も奇麗だったし、楽しい思い出になったわ」

 やっぱり、お父さまとの思い出を作る旅だったんですね。

「母さんは気楽でいいよね、あゆみはこんなに疲れているのに」

 だから、だめですってば。

 わたしが疲れているのは、お母さまのせいではないんですから。

「これぐらい大目に見てほしいわね、こんなことができるのは今だけだもの」

「どうしてさ」

「詩織と菜摘が大きくなったら、こんなことはできないでしょ」

 それについては、既に昨日はおばあさまにご迷惑が。

「昨日もそうだったけれど、あゆみがいれば母さんがいなくたって」

 良太さん、それを言ったら。

「それに、あなたとあゆみちゃんが年頃になったら二人だけにはできないし」

「今だって、十分に年頃だと思うけれど」

 相変わらずにぶいわね。

 だからこそ、防御システムとして。

 お母さまは、隼人さんと優紀さんのお泊まりを許したんですよ。

 いろいろあって、その防御システムは機能しなかったし。

 そもそも、あの状況下では不要でしたけれど。

「まさか、お目付け役の鹿山がいなくなるとは思ってもいなかったけれど」

 何度も言うようですが、お姉ちゃんがお目付け役になると思うのは……。

「それでも、お父さんとお母さんやお義母さまが来てくれて良かったわ」

「どうして、そんなことを知っているのさ」

「昨日、あゆみちゃんが連絡してくれたのよ」

 そんな目をして、わたしを見ないで。

「結果オーライって言葉がお似合いだよね、いつだって母さんは」

「そこまで褒められると」

 お母さま、こう言っては何ですが。

 先日のお姉ちゃんと、まったく同じリアクションです。




 明日は、良太さんに手伝ってもらってクリスマスの飾りを外さなくちゃ。

 お正月の準備だって、そろそろ始めないと。

 それでも、今夜はそんなことを気にせずに。

 ぐっすり眠って、体力と気力を回復させないとね。

 なんて思っていたのに。

 良太さんとわたしは、隼人さんの風邪がしっかりとうつっていたらしく。

 翌日から二日間、寝込むことになったんです。


 ちょっと早すぎるとは思いますが、心の底からお願いいたします。

 どうか、来年のクリスマスは静かにのんびりと過ごせますようにっ!




Copyright 2026 後落 超


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