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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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27/50

第27話 割れる音

 月曜日の放課後。

 倉庫の中には、複合材の板と接着剤、

 そして緊張した空気が漂っていた。


「じゃあ、いくぞ」

 俺――白峰理久は、複合材のフレーム試作品を持ち上げた。


 アルミより軽い。

 でも、手に伝わる“しなり”が新鮮だった。


「これが……複合材」

 雨宮柊が興味深そうに触れる。


「しなるけど、戻る。

 竹みたいですね」


「そういう構造を目指したからな」

 俺は頷いた。


 黒江斎は、ホワイトボードの前で腕を組んでいた。


「今日の目標は“初期強度の確認”。

 壊れてもいいから、

 どこが弱いか見極める」


「壊れてもいいのか?」

 俺が聞くと、黒江は笑った。


「壊れなきゃ、弱点が見えないでしょ」


 雨宮が静かに言った。


「じゃあ……壊しにいきましょう」


 その言葉に、

 俺は少しだけ背筋が伸びた。



 フレームを固定し、

 荷重をかける装置をセットする。


「じゃあ、10キロから」

 黒江がメモを取る。


「いくぞ」

 俺はゆっくり荷重をかけた。


 ――ミシ。


 小さな音。

 でも、壊れる音ではない。


「大丈夫ですね」

 雨宮が言う。


「次、15キロ」

 黒江が指示を出す。


 ――ミシッ。


 さっきより大きい。

 でも、まだ耐えている。


「いい感じじゃない?」

 黒江が言う。


「いや……」

 俺はフレームの表面を指でなぞった。


「ここ、微妙に歪んでる」


「歪み?」

 雨宮が覗き込む。


「うん。

 荷重が一点に集まってる」


「じゃあ、補強が必要ね」

 黒江がメモを取る。


「次、20キロ」


 俺は荷重をかけた。


 ――ミシッ……ミシ……


 フレームがしなる。

 だが、まだ折れない。


「いけるか……?」

 俺が呟いた瞬間だった。


 ――パキンッ!


 乾いた音が倉庫に響いた。


「……割れた」

 雨宮が小さく呟いた。


 フレームの接合部が、

 綺麗に裂けていた。


「ここか……」

 俺は膝をついて割れ目を見つめた。


「接合部の角度が悪い。

 力が逃げてない」


「つまり、設計ミス?」

 黒江が聞く。


「ミスというか……

 “複合材の癖”を読み切れてない」


 雨宮が静かに言った。


「素材が変われば、

 設計も変わる……ですね」


「そういうことだ」

 俺は深く息を吐いた。


「アルミの感覚で作ったら、

 複合材は応えてくれない」


 黒江はホワイトボードに新しい線を引いた。


【課題】

・接合部の角度

・荷重の逃がし方

・補強材の位置

・複合材の層構造


「……増えたな」

 俺は苦笑した。


「増えたんじゃないわよ」

 黒江が言う。


「“見えた”のよ。

 見えたなら、対処できる」


 雨宮が頷いた。


「壊れたのは、

 悪いことじゃないですね」


「悪いどころか、

 最高のデータよ」

 黒江は笑った。


「壊れた場所がわかれば、

 次は壊れないようにできる」


 俺は割れたフレームを持ち上げた。


 軽い。

 でも、悔しいほど脆い。


「……よし」

 俺は立ち上がった。


「今日のうちに“次の案”考える」


「やる気ね」

 黒江が笑う。


「壊れたら悔しいだろ」

 俺は言った。


「悔しいのは、

 “まだできるのにできてない”ってことだ」


 雨宮が静かに言った。


「じゃあ、

 次は“できる”に変えましょう」


「変えるぞ」

 俺は頷いた。


「町が応援してくれてるんだ。

 壊れたまま終われない」


 黒江がホワイトボードを叩いた。


「じゃあ、

 明日は“接合部の再設計”からいくわよ」


「了解」

「はい」


 倉庫の空気は、

 昨日より静かで、

 でも昨日より熱かった。


 科学部は、

 初めて“技術の壁”にぶつかった。

 そして、

 その壁を越えるための一歩を踏み出した。


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