第26話 強度の壁
日曜日の午前。
倉庫のシャッターを開けると、
昨日の商店街の旗がまだ風に揺れていた。
「……よし、やるか」
俺――白峰理久は、工具箱を開けた。
「今日は“フレーム強度”の再検証ね」
黒江斎がホワイトボードを立てる。
「昨日の応援、すごかったですね」
雨宮柊は、まだ少し夢見心地の顔をしていた。
「夢見てる暇はないわよ」
黒江はペンを走らせる。
「町が応援してくれるなら、
なおさら“壊れない車”を作らないと」
俺はフレームの試作品を持ち上げた。
軽い。
だが、軽さの裏に不安がある。
「……これ、やっぱり弱いな」
「どこが?」
黒江が近づく。
「ここ。
前方の接合部。
荷重が一点に集中してる」
雨宮がタブレットを開く。
「昨日のデータ、ここです」
画面には、赤いラインが走っていた。
「応力が“逃げてない”んですね」
雨宮が言う。
「そう。
逃げ道がないから、
衝撃が全部ここに来る」
「じゃあ、どうするの?」
黒江が聞く。
「逃がす。
“しなる構造”にする」
「しなる?」
黒江が眉を上げる。
「うん。
固めすぎると逆に折れる。
だから、
“しなって衝撃を吸収する骨格”にする」
雨宮が頷いた。
「竹みたいな構造ですね」
「そう。
竹は強いけど、固くない。
あれを目指す」
黒江がホワイトボードに書き込む。
【新方針】
・“剛性”ではなく“柔軟性”
・荷重を分散させる
・接合部の形状を変更
・素材の再検討
「素材、変える?」
黒江が聞く。
「変えたほうがいい。
アルミだけじゃ限界がある」
「じゃあ、何にするの?」
雨宮が言う。
「複合材。
アルミ+樹脂。
軽くて、しなる」
黒江が腕を組む。
「……高くない?」
「高い」
俺は正直に言った。
「でも、
クラファンで資金が増える見込みがでてきた。
今なら“挑戦できる”」
雨宮が静かに言った。
「挑戦……ですね」
黒江は深く息を吐いた。
「よし。
じゃあ、複合材でいくわよ」
「決まりか?」
俺が聞く。
「決まりよ。
町が背中押してくれてるんだから、
こっちも本気で応える」
そのとき、
倉庫の外から声がした。
「科学部さーん、ケーブルテレビでーす!」
3人で顔を見合わせた。
「……来たわね」
黒江が笑う。
「取材、今日だったか」
俺は額を押さえた。
「白峰くん、顔整えてください」
雨宮が真顔で言う。
「整えるってなんだよ……」
扉を開けると、
カメラを持ったスタッフが立っていた。
「こんにちはー!
昨日の商店街の旗、見ましたよ。
すごい盛り上がりですね!」
「ありがとうございます」
黒江が丁寧に頭を下げる。
「今日は“挑戦する高校生”という特集で、
科学部さんを紹介したくて」
「挑戦……」
雨宮が小さく呟いた。
「挑戦してますね、僕たち」
取材は30分ほど続いた。
カメラの前で話すのは緊張したが、
町の人たちの顔が浮かぶと、
自然と声が出た。
取材が終わると、
スタッフが言った。
「放送は来週です。
きっと反響ありますよ」
スタッフが帰ったあと、
倉庫に静けさが戻った。
黒江がホワイトボードを見つめる。
「……さて。
浮かれてる場合じゃないわね」
「だな」
俺はフレームを持ち上げた。
「複合材、試してみるか」
「やりましょう」
雨宮が頷く。
「町の応援に応えるためにも」
黒江が言った。
「今日からは“技術の山”よ。
ここからが本番」
俺は深く息を吸った。
「よし。
登るか、この山」
倉庫の空気は、
昨日より静かで、
でも昨日より鋭かった。
科学部は、
町の温度を背中に受けながら、
技術の壁に挑み始めた。




