第百六十一話 巻物探索の始まり、信長の謀と後処理の悲哀
長島から京に戻った宗則は、わずかな休息を取った後、自身の屋敷で「烏の巻物」に関する情報の探索を開始した。
しかし、その巻物は、あまりに古く、そして強大な封印が施されているため、その存在を知る者はほとんどいない。公家や陰陽師の間でも、それはもはや伝説と化していた。
「主様、やはり一筋縄ではいきませんね」
太裳が、宗則の横で静かに呟いた。宗則は、古ぼけた書物や秘伝書を前に、深く眉間に皺を寄せている。長島での激戦で、自身の霊力は底を尽きかけている。京の都に潜む穢れと、来るべき「新たな力」に対抗するためには、どうしても「烏の巻物」の力が不可欠だった。
「ええ。だが、手がかりがないわけではない」
宗則は、自身の霊力と、太陰の知恵を借り、古文書に宿る「気」を読み解こうと試みる。
「安倍晴明公の遺した記録に、巻物の所在を暗示する記述があるかもしれません。しかし、そのほとんどは失われ、わずかに残されたものも、意図的に解読を難しくされております」
太陰の助言を受け、宗則は、自身が読み解いた断片的な情報を繋ぎ合わせ始める。巻物の外見、封印された場所、そして、特定の血筋との関連……。
その探査を続ける宗則の周囲に、不自然な気の乱れが生じた。宗則の気を惑わすような幻覚が、ちらつき始める。
「フフフ……随分と熱心なことだ、宗則。だが、その力、本当にそなた一人で使いこなせるのかね?」
勾陳の冷ややかな声が、宗則の心に直接響く。宗則は、勾陳が自身の行動を監視し、妨害を始めていることを悟った。
宗則が巻物について調べている最中、信長から呼び出しがかかった。安土城の築城が進む中、信長は自身の権威をさらに高めようと、京の都の公家たちにも圧力をかけ始めている。
「宗則、聞け。安土城の完成を祝うため、京の都に特別な結界を張る。その大役を、陰陽頭たるそなたに任せる」
信長はそう言い放った。その言葉の裏に、宗則は信長の思惑を感じ取る。これは単なる儀式ではない。宗則の力を利用して、京の都を完全に支配下に置くための、巧妙な術を仕掛けさせようとする信長の謀だった。
宗則は、その勅命を拒否することはできない。信長の圧倒的な権力の前では、ただ従うしかなかった。彼は、信長の「力」と、天皇が願う「安寧」の間で、改めて自身の立ち位置を問われる。だが、彼は決意を固める。信長の命に従いつつも、その術が民に害を及ぼさないよう、独自の工夫を凝らすことを。
その頃、長島では、織田軍による後処理が続いていた。隼人は、その指揮を執る武将の一人として、依然として長島に留まっている。宗則の元に、隼人からの使いが届いた。
宗則は、隼人の手紙を広げ、その内容に目を落とした。
――宗則。長島は、もはや焦土と化した。俺は、多くの命を奪い、そして多くの命が消えていくのを目の当たりにした。俺たちの戦いは終わったが、この地から発せられていた狂気の術の残滓が、完全に消えたわけではない気がする。時折、夜になると、あの日の呻き声が聞こえるようだ……
手紙には、長島での悲痛な思いが綴られていた。宗則の心に、長島での地獄のような光景が再び蘇る。しかし、同時に、隼人が記した「狂気の術の残滓」という言葉に、宗則は、再び気を引き締めた。
「やはり……顕忍の術は、完全に終わったわけではないのか」
隼人からの報告は、宗則に長島での悲劇を再び思い出させ、彼の心に重くのしかかる。しかし、それは彼の決意を改めて固めるものとなった。
「民の安寧を願うならば、この世に蔓延る『穢れ』の根源を断たねばならない。そして、そのためには、どうしても『烏の巻物』の力が必要だ……!」
宗則は、固く拳を握りしめた。信長の謀、勾陳の妨害、そして長島に残る穢れ。様々な困難が彼を待ち受けている。だが、宗則は、自身の信じる道を歩むことを、改めて決意したのだった。
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