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洛陽の華、戦塵に舞う~陰陽師、乱世を導く~  作者: エピファネス


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第百五十七話 狂気の根源、一向宗の術者

 長島での戦は、宗則がこれまで経験してきた合戦とは全く異質なものだった。

 眼前に広がる光景は、もはや人間の戦ではない。土塁の向こうから押し寄せる一向宗徒は、飢えと疲弊で痩せ細っているはずなのに、異様な活力をみなぎらせ、獣のように襲いかかってくる。兵器を持たず、ただ身体をぶつけ、爪で引き裂こうとする彼らの瞳には、理性のかけらもなかった。


「見てくれ、宗則……」


 隼人の声が、隣で震える。


「こんな化け物を、一体いつまで斬り続ければいいのだ……。彼らも、元は普通の民であったはずなのに……」


 隼人の絶望に満ちた声が、宗則の胸を締め付ける。 しかし、宗則の陰陽師としての目は、この異常な状況の核心を捉えていた。

 彼らの動き、そして顔に張り付いた狂気の奥に、不自然な「力の流れ」を感じ取る。まるで、誰かの手によって、その生命力と負の感情が無理やり搾り取られ、操られているかのようだった。


「主様、この術は……人の負の感情を強く吸い上げ、増幅させております」


 太陰たいいんが、白髪の老婆の姿で宗則の傍らに現れた。その声は、重く、この術が持つ根深い邪悪さを物語っていた。


「魂の歪みが、彼らの肉体をも操っているのです。このような術、過去に類を見ません……」


「忌々しい!」


 炎をまとった蛇の姿の騰蛇とうだが、怒りに身を震わせる。


「この禍々しい気を生み出している根源を絶たねば、この狂気は止まらぬぞ!愚かな人間どもを操る術者め!」


「フフフ……見たか、宗則。これが人の本質だ」


 金色の蛇の姿の勾陳が、冷ややかな声で呟く。


「愚かさを極めた魂は、かくも容易く操られる。そして、その魂を操る者こそが、真の力を手にするのだ」


 勾陳の言葉が、宗則の心臓を直接掴むように響いた。彼が持つ禁忌の術、泰山府君。命を操るその力と、勾陳の思想が重なる。

 宗則は、自身の内にある「陰」の力、そしてその誘惑を再び意識させられ、唇を噛み締めた。


 織田軍が一時的に一向宗徒の突撃を退けた後、宗則は隼人の案内で陣の奥へ向かった。そこには、わずかながら捕らえられた一向宗徒がいた。

 彼らは術の影響で会話すらままならない状態だったが、宗則は、彼らの意識の僅かな隙間に陰陽術で触れようと試みた。


 混乱と絶望の渦巻く意識の断片から、宗則は「光」や「救済」といった歪んだ信仰のイメージと、「声」「導き」といった、何者かの指示が混在していることを感じ取った。


「主様、この術は、彼らの信仰心すらをも利用しております」


 白い仮面をつけた太裳たいじょうが、静かに、しかし強く宗則に語りかけた。


「見せかけの救済が、真の苦痛へと導いているのです。その光の裏に隠された、不信と欺瞞の気配を感じます」


 太裳の言葉に、宗則の脳裏に雷が落ちたような衝撃が走る。彼らが信仰している「浄土」とは、彼らを操る術者が作り出した偽りの救済なのだと。

 その術の痕跡をさらに辿ると、長島の一向宗の拠点奥深く、あるいはその精神的支柱となっている場所に、この「狂気の術」を操る陰陽師、あるいは呪術者の存在を確信した。その術は、宗則がこれまでに経験したことのない、強力で邪悪なものだった。


 夕焼けが、血に染まった戦場を赤く染め上げていた。隼人は、依然として絶望の淵に立たされている。宗則は、目の前の狂気と、それを生み出す根源を前に、深く息を吐いた。


「……この狂気を生み出す根源を断ち切らなければ、真の天下泰平は訪れない」


 宗則の瞳に、これまでの迷いはなかった。泰山府君の禁術ではない。安易な力に頼るのではない。陰陽師として、民を苦しめるこの禍々しい術を、何としてでも打ち破る。そのために、自身が使える12天将の力を最大限に引き出し、必要であれば新たな天将の封印を解くことも厭わない。


「隼人……お前と、そしてこの地の民を、俺は必ず救う」


 宗則の言葉に、隼人は虚ろな目で彼を見上げた。宗則は、その瞳の奥に宿る、確かな光と、「民の安寧」のために戦う陰陽師としての使命を、友の眼差しに刻み込んだ。夜の帳が降り始め、戦場には、再び亡者の呻きが響き渡る。宗則は、来るべき戦いを前に、静かに、しかし力強く、拳を握りしめた。


数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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