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第十一話 死神

派手に鳴らされたゴングの音、それと同時に俺の足が地面を抉る。

駆け出す足は止まらず、ひび割れたコロッセオを縦横無尽に飛び回る。


「おいおい! 飛び回ってるだけじゃ勝てないぜ!」


モックンが煙で作った腕を伸ばし、俺を捕捉しようと追いかけてくる。


「そっちこそそんなウスノロの腕じゃ、俺は捕まえられねぇぞ!」

「それはどうかな!」


コロッセオを一周した頃、俺の体は不自然に空中に固定された。まるで何かに掴まれたような圧迫感が、胴体を襲う。


「な、なんだ!?」

「ふふふはははは! オレッチの煙は薄くなり、今やこのコロッセオ全体に広がった! オレッチから逃げる事はできない!」


俺は自分を掴んでいるであろう腕を、掴み返そうとする。しかし、まるで煙に巻かれた様に腕は空を切る。


「へっ、物理攻撃は無効ってわけか!」

「その通り! オレッチは既にこの場を支配した、降参するなら命だけは助けてやる!」

「いらねぇな! 命なんてモノ、闘争の前ではただの供物だ!」


俺は自分自身の舌を噛み切り、口の中で空気と混ぜ合わせた血液を吐き出した。

空気中に血の混じった霧が蔓延する。

すると、俺を掴んでいた腕の感触が弱くなった。


「お前が煙だと言うなら、俺は霧だ! 空気中に広がるモックンの比率を、俺が塗り替えてやる!」

「無茶な事を! 血が足りなくなって死ぬのはお前だぞ、デスッチ!」

「死ぬなら死ぬで結構!」


自分の腕の皮膚を噛みちぎり、血を撒き散らす。周囲に立ち込めた煙は、どんどんとモックンの方へと縮小していく。

そしてついに、モックンが人の形をとるに至るまでになった。

煙は人の形をくっきりと取り、怨みがましい顔をこちらに向けている。


「今まで見ていたモックンは、いわば遠隔操作の分身。今見ているモックンこそが本体。そう言う事だな?」

「それが分かったからなんだと言うんだ! 事実血を失ったデスッチはフラフラで、足元すらおぼつかない様子。対するオレッチはピンピンしてる上に、煙になって逃げられる。どっちみちデスッチに、勝ち目はないんだよ!」


モックンの本体が、拳を握って襲いかかってくる。

素人丸出しな雑なパンチを避け、顔面の部分に蹴りを入れる。しかし煙を蹴ったかの様に、感触はない。


「チッ」

「当たる直前に煙になった! だからデスッチの攻撃は全部当たらないんだよ!」

「それはどうかな!」


俺は連続で蹴りを繰り出す。

顔、腹、腕、足、すべて食らえば人体破壊コースの連続蹴り。しかしどれも当たらない。当たる直前にモックンの輪郭が薄れ、蹴りがすり抜けている。

だがその直後には、必ず一瞬モックンの姿をはっきり捉えられる瞬間がある。

攻撃と攻撃の合間、その一瞬に攻撃を差し込みさえすれば。


「な! さらに攻撃が早くなった……!?」

「はははは! そうは言ってもモックンもやるじゃねぇか! その速度について来てやがる!」

「く……! 煙になった後の一瞬を狙ってるのか! だがその一瞬を捉える事はできない!」


モックンは俺の動きをトレースしたかの様に、蹴りを繰り出してくる。


「デスッチの攻撃を、オレッチの煙でトレースした! これで一瞬の隙すら生まれない!」

「いいねぇ! もっと闘争本能剥き出しにしていこうぜ!」


俺は全身を捻りながら、全力で蹴りを繰り出し続ける。腕から流れ出る血は、コロッセオ中を赤く染め上げる。


「動きに無駄が多いぜデスッチ! 疲れが思考回路を鈍らせたか!」

「ぐっ!」


モックンは俺の腕の傷に腕を差し込んだ。骨を直接掴み、俺の体を投げ飛ばそうとする。

体が浮き、まるでボールを投げる様な体制でモックンは俺を投げ飛ばす。

地面に着地する直前で、俺は地面を蹴って着地点をずらす。そのせいでコロッセオの壁に、受け身すら取れずに激突する。


「あぶねぇあぶねぇ……虫野郎を踏み潰すところだった、ぜ……」

「なんだ? 自分で蹴り飛ばした奴を気遣うのか?」

「あぁ、そうだ。使える駒は、大事にしなきゃな」

「駒……? やいやいやいやい、それはオイラの事かコラァ!?」


血溜まりの中から、キャットバースが立ち上がる。


「そうだお前の事だ!」

「んだコラ! ……思い出したぞお前オイラの事を蹴り飛ばしやがったな!?」

「俺の事を無視したからだ虫野郎!」

「解せない……どうしてそいつを目覚めさせたんだ……? わざわざ自分の血液をかけてきつけをする価値があるのか……?」


モックンは動きを止め、俺たちの事を観察している。


「おい虫野郎。お前なら俺の攻撃の合間、一瞬の隙に攻撃を打ち込めるな?」

「あぁ?! 指示すんな! んな事言われなくてもやってやらァ!」

「ははっ! 頼もし〜!」

「まさか……!」


身を引こうとしたモックンの背後に回り込み、顔の部分に蹴りを入れる。

しかし、煙は俺の足を透過するばかり。そしてモックンの輪郭が一瞬はっきりし


「今だ!」

「おう!」


キャットバースは俺の脇腹を思いっきりぶん殴った。


「ってぇ! このクソ虫! 俺じゃねぇ!」

「あ!? 攻撃の合間に殴れって言ったろ!」

「違う! 全部違う! 俺じゃなくてモックン、あの煙人間をぶん殴れって言ってんの!」

「そうならそうと言いやがれ! バーカ!」


ノミのようにぴょこぴょこと飛び跳ねる様に怒りを覚え、拳を握りこむ。

そしてその拳を怒りの赴くままに、モックンにぶつける。


「食らえ、八つ当たり!」

「なんで!」


モックンは煙になって、俺たちから煙化して急速に離れる。

そしてまた姿を現したその瞬間、キャットバースの鋭い一撃がモックンの胴に入る。

針の様な衝撃がモックンの体を貫き、その余波が辺りの煙を晴らす。


「ご……はぁっ!」


モックンがその場にうずくまる。輪郭ははっきりとし、その場でゲェゲェと吐いている。


「おい」


俺が声をかけると、モックンは肩をびくりと震わせた。


「オレッチは……こんな所で終われない……!」

「何があった。どうしてこんな事をしたんだ」

「……デスッチには、異世界出身のお前には分からない」

「いいから話してみろ。話しただけでもだいぶ楽になるぜ」


俺はモックンの前に腰を下ろす。

キャットバースも俺の肩に乗り、話を聞く姿勢をとった。

モックンは俯きながら、ぽつりぽつりと話し始める。


「オレッチ達ガスト族は、元々この世界に住んでいた唯一の種族だった。ある時から他の世界から色んな種族がやってきて、オレッチ達の住む場所はどんどんと少なくなっていった……だから、この大会の優勝商品を使って、元の世界に全てを返そうと……」

「へぇ。でも真っ当にやっても勝てないから、こんな手段に出た。と……」

「あぁそうだ……」

「テメェ……あのクソ土壁とはどういう関係だ!」


キャットバースが声を荒げる。

その声にまたびくりと跳ね上がるが、モックンはすぐに落ち着きを取り戻す。


「奴は異業種の存在は罪と考えていた。だからこの計画が完了すれば、世界は純粋な人間だけになるって言って……あいつの祖先は人間だけしか存在していない世界から来た、だから元の世界に帰れば問題は解決する」

「チッ……ペテン師が。あの土壁野郎も所詮は駒ってわけか……」


キャットバースはそう吐き捨てると俺の肩から飛び降り、まだノビているモルテンの方に歩いていく。


「おいどこに行く」

「決まってるだろ。アイツを始末する」

「そうか」


キャットバースは歩を止め、俺達の方に振り向いた。


「いいこと教えてやる。この大会の優勝賞品はそこまで万能じゃない」

「どうして……キャットバースがそんな事を言えるんだ?」

「異業種の排除。そんな事はどうやったって叶わない。ならどうするか? 決まってる。夢物語に縋りつく、だ」

「……この大会自体が、壮大な撒き餌だったって……事か?」

「主催者権限で、モジャル、キャットバース、モクレンの三名は失格だ。あとは勝手に決着つけろ、デス・ヴァルハラール」


キャットバースはそう言い残すと、モジャルとモルテンを引きずってコロッセオの奥に消えていった。


「さて、と。まぁ一件落着となった所で」


俺はコロッセオの観客席を見上げる。


「ここまで登ってきたぜ、センプウちゃん」


コロッセオの観客席の中。たった一人。

俺を見下ろす様に腕を組み、長い銀髪を風に任せて靡かせている。

その目は俺の確かに捉えていて、瞳の奥には感動とも歓喜とも取れない表情が浮かんでいた。

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