第6話 MVP発表と、素直になれない告白
夕暮れの校庭に、閉会式の鐘が鳴り響いた。
長かった体育祭も、いよいよ終わりだ。
俺――アルス・クライドは、クラスメイトたちと並んで壇上を見つめていた。
「それでは最後に――」
学園長が一枚の紙を取り出す。
「本年度、王立アステリア魔導学園・秋季体育祭――個人MVPを発表する!」
校庭が静まり返った。
俺は無意識に拳を握る。
隣にはシェリアがいる。
彼女も緊張しているのか、いつになく真剣な顔をしていた。
「候補者は二名!」
ざわっ。
「二年B組、アルス・クライド!」
歓声が上がる。
「そして――二年B組、シェリア・ファロン!」
さらに大きな歓声。
「やっぱり二人か!」
「どっちだ!?」
「二人とも凄かったもんな!」
俺はシェリアを見る。
彼女もこちらを見た。
「……負けないわよ」
「俺だって」
小さく笑い合う。
そして。
学園長がゆっくりと口を開いた。
「今年の個人MVPは――」
一瞬の静寂。
「アルス・クライド!」
「うおおおおおおっ!」
歓声が爆発した。
「やったぁぁぁ!」
「アルス、おめでとう!」
クラスメイトたちが俺の背中を叩く。
俺は呆然としながら壇上を見る。
「……俺?」
「そうだ!」
学園長が笑う。
「最終リレーでの逆転、各競技での安定した成績。そして何より、最後まで諦めない精神力が評価された」
俺は壇上へ向かった。
そして。
学園長から渡されたのは――。
二枚のチケット。
黒と紫を基調にした、特別な魔法印が刻まれている。
『奇跡のハロウィン街・限定ペアチケット』
それを見た瞬間。
俺は自然と笑っていた。
――これで、シェリアと行ける。
「アルス」
壇上を降りると、シェリアが待っていた。
「おめでとう」
「ありがとう」
「……悔しいけど」
彼女は少しだけ頬を膨らませる。
「あなたなら、仕方ないわね」
「シェリアも凄かったぞ」
「……そう?」
「ああ。正直、途中で負けたと思った」
「ふふ」
彼女は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私の分まで楽しんできて」
「え?」
シェリアが踵を返す。
「待てよ」
「何?」
「俺、一人で行くなんて言ってないだろ」
「…………」
シェリアが固まった。
「このチケット――」
俺は二枚を取り出す。
「お前と行くために獲ったんだ」
「…………っ」
シェリアの顔が、一気に赤くなった。
「ちょ、ちょっと……」
「最初から決めてた」
俺は彼女の目を見る。
「開会式で、お前がハロウィン街のパンフレットを見て、すごく楽しそうにしてただろ?」
「……見てたの?」
「ああ」
「……最悪」
「なんでだよ」
「だって……恥ずかしいじゃない」
シェリアは顔を隠すように俯いた。
「私、あんなに浮かれて……」
「でも、楽しそうだった」
「……うん」
小さな返事。
「本当はね」
シェリアがゆっくり顔を上げる。
「私も……あなたと行きたかったの」
「……!」
胸が大きく鳴った。
「だからMVPを獲ろうと思ってた」
「やっぱり……」
「自分でチケットを獲って、あなたを誘うつもりだった」
シェリアは苦笑する。
「なのに……先に取られちゃった」
「悪い」
「謝らないでよ」
彼女は笑った。
「嬉しいんだから」
夕日が、彼女の金色の髪を赤く染めている。
俺はしばらく何も言えなかった。
そして。
「シェリア」
「何?」
「俺さ」
心臓がうるさい。
体育祭でどれだけ走っても平気だったのに。
今は、たった一言を言うだけで息が苦しい。
「……お前のことが好きだ」
「…………」
シェリアの瞳が大きく開く。
「友達としてじゃなくて」
俺は続けた。
「もっと、一緒にいたいと思ってる」
「…………」
「ハロウィン街だけじゃない」
「……うん」
「これからも、ずっと」
シェリアの目に、涙が浮かんだ。
「……ずるい」
「え?」
「そんなの……」
涙をぬぐいながら、彼女が笑う。
「私だって……好きよ」
「……!」
「ずっと前から」
そして。
シェリアが一歩近づいてきた。
「でも、素直に言えなかった」
「シェリア……」
「だって……あなたの前だと、なんだか調子が狂うんだもの」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
「いつも張り合ってしまうし」
「俺もだよ」
「知ってる」
「……じゃあ」
俺は手を差し出した。
「これからは、恋人として一緒にいてくれるか?」
シェリアはその手を見つめる。
そして。
そっと握った。
「……よろしくお願いします」
小さな声だった。
けれど。
今まで聞いたどんな言葉よりも、嬉しかった。
「じゃあ、ハロウィン街――」
「うん」
「一緒に行こう」
「もちろん」
シェリアが笑う。
そして、次の瞬間。
「……アルス」
「ん?」
「もう少しだけ……」
彼女が俺の胸元へ近づく。
「こうしててもいい?」
「……ああ」
俺はそっと彼女を抱きしめた。
シェリアの身体が腕の中に収まる。
温かい。
そして。
「……体育祭、頑張ってよかった」
「私も」
夕暮れの校庭。
騒がしかった体育祭は、もう終わっている。
だけど俺たち二人にとっては――。
今日が、新しい始まりの日になった。
そしてポケットの中には。
二人で行くための、二枚のペアチケット。
その行き先は――。
もうすぐ訪れる、最高のハロウィンだった。




