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『体育祭のMVP景品が「話題のハロウィン街ペアチケット」だったので、隣の席のツンデレ魔導姫シェリアとガチで競い合うことになりました』  作者: eccen.


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第4話 テントの陰の、魔法薬と甘い熱

 午後の競技が始まるまで、少しだけ休憩時間があった。


 校庭には、生徒たちの笑い声や応援の声が響いている。


 俺――アルス・クライドも、ベンチに座って水を飲んでいた。


「ふぅ……」


 さすがに疲れた。


 午前中から魔法を使い続けている。


 魔力そのものはまだ残っているが、身体には少しずつ疲労が溜まっていた。


 だが。


「シェリアは……?」


 ふと、隣を見る。


 さっきまでそこにいたはずのシェリアがいない。


「あいつ、どこ行ったんだ?」


 周囲を見渡す。


 すると、少し離れた場所に金色の髪が見えた。


「……いた」


 シェリアは校庭の端にある木の陰に立っていた。


 だが――。


「……?」


 様子がおかしい。


 いつものように背筋を伸ばしているものの、片足に体重をかけている。


 俺は立ち上がった。


「シェリア!」


「……アルス?」


 彼女が振り返る。


 その瞬間。


「っ……!」


 シェリアの身体がぐらりと揺れた。


「危ない!」


 俺は慌てて駆け寄り、彼女の肩を支える。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫よ!」


「いや、大丈夫じゃないだろ」


「平気だって言ってるでしょう!」


 シェリアはいつもの調子で言い返す。


 でも。


 顔色が少し悪い。


「足、痛めたのか?」


「……」


「図星だな」


「…………少しだけよ」


 シェリアは渋々答えた。


「さっきの二人三脚で、少し無理しただけ」


「だったら救護テント行くぞ」


「嫌」


「なんでだよ!」


「午後の競技に出られなくなるかもしれないでしょう」


 シェリアは悔しそうに唇を噛んだ。


「私には……MVPが必要なの」


「…………」


 その言葉に、俺は黙った。


 理由は分かっている。


 あのペアチケットだ。


「でも、怪我したままじゃ意味ないだろ」


「平気よ」


「平気じゃない」


「大丈夫!」


「シェリア!」


 思わず声が大きくなった。


 シェリアが驚いたように目を見開く。


「……無理するなよ」


「…………」


「チケットなんかより、足のほうが大事だろ」


「…………でも」


 彼女は俯いた。


「私……どうしても欲しいの」


「そんなに、あの街に行きたいのか?」


「……」


 シェリアは答えない。


 俺はため息をついた。


「ほら、行くぞ」


「どこへ?」


「救護テント」


「だから嫌だって――」


「俺が付き添う」


「……え?」


「一人じゃないならいいだろ?」


 シェリアはしばらく俺を見つめていた。


 やがて、小さく頷いた。


「……分かった」


 俺たちは校庭の端にある魔導救護テントへ向かった。


 中には簡易ベッドと薬品棚が並んでいる。


 幸い、他の生徒はいなかった。


「座れ」


「命令しないで」


「じゃあお願いだから座ってください」


「……最初からそう言えばいいのよ」


 シェリアはベッドに腰掛けた。


 靴を脱ぐと、足首が少し赤くなっている。


「結構腫れてるじゃないか」


「これくらい……」


「動かすなよ」


 俺は棚から冷却用のポーションを取り出した。


「それ、使えるの?」


「昔、弟がよく怪我してたからな。多少は慣れてる」


 ポーションを手に取る。


「ちょっと冷たいぞ」


「……分かった」


 俺はシェリアの足首に薬を塗っていく。


「……っ」


「痛い?」


「少し」


「ごめん」


「……別に」


 テントの中が静かになる。


 外からは遠く、歓声が聞こえている。


 けれど。


 ここだけ時間が止まったみたいだった。


「……アルス」


「ん?」


「どうして、そこまでしてくれるの?」


「え?」


「私のこと」


 シェリアが俯く。


「いつも張り合ってるのに」


「そりゃ……」


 俺は少し考えた。


「放っておけないからだよ」


「…………」


「お前、無理するからな」


「……あなたもでしょう」


「俺はいいんだよ」


「よくないわ」


 シェリアが顔を上げる。


「あなたも、ずっと頑張ってるじゃない」


「……」


「魔力障壁だって。二人三脚だって」


 彼女の声が少し震えている。


「私に勝つために……頑張ってるんでしょう?」


「それは……」


 俺は言葉に詰まった。


 もちろん、それだけじゃない。


 俺が頑張っている理由は――。


「……あのチケットが欲しいから」


「やっぱり……」


 シェリアが寂しそうに笑った。


「あなたも、あの街に行きたいのね」


「いや、そうじゃなくて――」


 言いかけて、俺は止まった。


 まだ言えない。


 俺はチケットそのものが欲しいんじゃない。


 シェリアと行きたいんだ。


 だけど。


「……そんなにあの街に行きたかったのか?」


 俺が聞くと。


 シェリアはしばらく黙っていた。


 そして――。


「……バカ」


「え?」


「本当に……鈍感ね」


 彼女の頬が赤くなる。


「私が、どうしてこんなに頑張ってると思ってるの?」


「え……?」


 シェリアは視線を逸らした。


「……あの街に行きたいからよ」


「やっぱりそうなのか」


「違う!」


「え?」


「そうじゃなくて……!」


 シェリアは両手をぎゅっと握った。


 そして。


「……あなたと、行きたかったからよ」


「…………」


 頭の中が真っ白になった。


「…………え?」


「二度も言わせないで!」


 シェリアは真っ赤になって顔を背けた。


「あなたと一緒に……行きたかったの」


 心臓が、ものすごい勢いで跳ねた。


 ドクン。


 ドクン。


「シェリア……」


「だから、MVPを獲ろうと思ったの」


「…………」


「自分でチケットを取って……あなたを誘おうって……」


 そこまで言って、シェリアは恥ずかしそうに俯いた。


「なのに……あなたも私を連れて行こうとしてたなんて……」


「…………」


「ずるいわよ」


 小さな声。


 俺は思わず笑ってしまった。


「……何がおかしいのよ」


「いや」


 胸が熱い。


 嬉しくて仕方がない。


「俺も同じこと考えてたから」


「…………え?」


「俺も、MVPを獲ったらシェリアを誘おうと思ってた」


「…………」


 今度はシェリアが固まった。


「だから――」


 俺は立ち上がる。


「午後の競技も、一緒に頑張ろう」


 シェリアは顔を上げた。


 そして。


「……うん」


 小さく笑った。


 その笑顔は、今日見たどんな魔法よりも眩しかった。


 ただし。


「でも、勝負は別よ」


「え?」


「MVPは私が獲るんだから」


「まだ言うか!」


「当然でしょう!」


 俺たちは顔を見合わせる。


 そして――。


 二人同時に笑った。


 体育祭は、まだ終わっていない。


 むしろ。


 ここからが本当の勝負だった。

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