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地獄で信長に会いに来た明智光秀 ~お前は なぜ俺を殺した?~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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【3】秀吉の敗因

 地獄安土城にて 明智光秀と織田信長


「秀吉があの戦で、半島すら奪えなかった理由ですか?」


「そうだ。半島にあるのは明じゃなくて、明の属国だろう。そいつらが弱いとまでは言わねえが、 全国を統一した秀吉の軍で攻めれば、普通は勝つはずだ。まさか明の援軍が、半島の南の端で待ち構えていたわけじゃねえだろ?」


「そうですね。ですから緒戦は大勝利だったようです。戦力は日本の方がかなり上だったでしょう。しかし、それで敵を甘く見た武将たちが、功を競い無理な進軍をしたのが、最大の敗因だったのだと思われます。敵国の領内に点だけを押さえて半島を急北上してしまい、明軍とぶつかる頃には、補給もままならなかったようです」


「なるほどな。お前は今、敗因って言ったが、現世のやつらは、はっきりと敗戦って認識できているのか?」


「勝っても負けてもいないと捉えている者が多いと思います。多くの人を死なせ、膨大な軍費をかけながら、得るものもなく撤退したのですから、私は敗戦だと考えていますが」


「そうだな」


「中には、勝ち戦だったにもかかわらず、秀吉の死、または兵站の不備で、撤退を余儀なくされただけだなどと言っている者もいました。それが本気なのか、負け惜しみなのかは分かりませんがね」


「頭の悪いやつの言うことは、ほとんど理解できねえからな。まあ理解しようとするだけ無駄だ。つまりは、少なくとも明の属国との戦では、戦力、戦術で勝っていながら、戦略で負けたってところか。そして、トータルでは無様な大敗北としか言いようがねえな」


「そうでしょうね。日本が戦略で自滅したとも言えます。無意味な戦功争いをするような武将を、先鋒に起用したことも含めてです。細かく検証すれば、他にも様々な要因があるのでしょうが、私は そこまで詳細に知っているわけではありません」


「それで良いんだ。秀吉や石田三成に聞けば、もっと詳しく知れるんだろうがな。しかし、当事者っていうのは、戦を中立の目線で分析できねえもんなんだ。現世にはいたが、ちょっと離れたところで見ていたくらいのやつが、一番偏りがなく端的に戦のありようを感じられたはずだ」


「私に聞く前から信長様は、日本が半島の一部すらも奪えなかったのが、腑に落ちないようでしたね」


「そうだ。戦力では明らかに上回っていたはずだからな。海を渡っていくという困難はあっただろうが、一度 上陸して、いくつか拠点を確保してしまえば、その後は陸上の戦なんだ。地の利は向こうにあるだろうが、それでも負けるとはとても思えなかった。むしろ、よく知らん土地だからこそ、俺だったらより慎重に軍を進めただろうからな」


「総帥が信長様ならば、秀吉とはまるで違う結果だったでしょう」


「その根拠は何だ?」


「秀吉は、戦に勝つことまでしか考えていませんでした。信長様は、戦に勝った後のことまで考えていました。これが根拠です。具体的に言うと、信長様は戦の意味をあれだけ熟慮されていたのですから、必ずご自身で戦地に赴いたでしょうし、あの戦における功とは何かも理解できないような武将を、先鋒に使うことはなかったはずです。

 秀吉は信長様と同じようなことをしたかったのでしょう。しかし大陸に討って出る本当の意味にまでは、考えが及んでいなかったのだと思います。同じ場所で同じ敵と戦うとしても戦の意味を明確に持っているかどうかで、戦略を始め、すべてがまるで違うものになるのでしょう。まあ私も、信長様から聞くまでは、意味を理解できていませんでしたがね」


「今 お前が言った通り、秀吉が戦の意味に気づいていなかったのなら、下の将兵が好き勝手にやっちまってもおかしくはねえな。秀吉のやつ、わざわざ海を渡ってまで戦う意味も分からなかったのか。やっぱりお前に聞いて良かったようだ。よく分かった。そんなんじゃ勝てるわけがねえし、むしろ勝たなくて良かったかも知れんな」


「勝たなくて良かったとは、どういうことですか?」


「田舎の小競り合いならどうでも良いが、秀吉がやったのは国と国の大戦だ。そんな戦で意味も考えずに、ただ勝っちまったらどうなるか考えてみろ。仮定の話だが、明の援軍も退けて、あの半島を奪ったとしようか」


「はい」


「じゃあ奪った土地とそこの領民を、秀吉はどうしたと思う?」


「土地は、そこを奪った武将への恩賞にし、領民は、奴隷のような扱いだったのではないでしょうか」


「ああ俺もそう思う。勇み足だったとしても、勝てば功を認めるしかないからな。だが俺なら、奪った土地を安易に恩賞になんかしなかった。半島を奪うのが目的じゃねえからな」


「信長様ならば、何を恩賞にしましたか?」


「国内に、恩賞用の土地を残しておいた。それで不足するなら茶器や武具、あとは現地で得た戦利品を与えるつもりだった」


「なるほど」


「そもそも、異国の領地を与えられたとしても、それを上手く治められるはずがない」


「そうでしょうね。私にも自信がありません」


「俺もだよ。だから、そういうことを個人の裁量に任せてはダメだ。どうせ戦だって、秀吉は国内にいて、武将らに指示を飛ばしていただけなんだろう?」


「そうです」


「それで、いよいよ明本国との戦になったら、誰が全軍の指揮をするんだ」


「先の戦で、最も戦功を挙げた者、もしくはその配下でしょう」


「そうだ。じゃあその戦の結果は?」


「大敗北です。補給線が伸びきった異国の地で、それまでと同じような戦い方で、明軍に勝てるとは思えません。一度 奪った半島も放棄して、逃げてくるしかありません。いや、奴隷にされた領民が蜂起でもすれば、逃げ帰ることすら難しかったでしょう」


「そういうことだ。半島をまた奪い返されても、すべてが戦の前の状態に戻るというのなら構わない。しかし、多くの将兵を失い、明との関係は険悪になる。今までは属国が治めていた半島にまで、明の直轄軍が常駐することもあり得る」


「もし そうなったら、いつ明の反攻があるか分からなくなります」


「そうだろう。だから半端に勝つくらいなら、明を本気で怒らせる前に逃げ帰って来たほうがマシだったんだよ。明が弱体化していたのは事実だが、それは明という〈王朝〉が弱体化しただけで、大陸の総戦力が低下したわけじゃねえんだしな」


「なるほど。戦とは、そこまで考えてするものだったのですね」


「そうだよ。お前がさっき言ってた通りだ。戦の意味から勝った後のことまで、それに、考えたくはねえが、負けたときのことまで、夜も眠らず考え尽くしてから、戦うかどうかを決めなきゃダメなんだ。そんなこともしねえで、家臣を死地に向かわせられるかよ」


「恐れ入りました。しかし、そこまで考えていた者が、信長様以外に何人いたのでしょうね」


「それは知らん。でも俺は、弱小大名だったときに気づけて良かったと思っている」


「それは、いつのことですか?」


「桶狭間だよ。あの時 俺は、大軍の今川義元を打ち破り、戦国時代のニューヒーローみたいに扱われたよな。でも、華々しく見えた裏では、戦う意味も知らされないまま死んだ家臣が大勢いる。やつらは、ただ俺への忠義に黙って殉じてくれた。

 でも家臣だからって、戦のたびに、俺のためなら黙って死ねとは思わねえ。ならばせめて、家臣に命を賭けさせる意味くらいは持っていなきゃダメなんだって、義元に勝ってから気づいたんだよ」


「そうだったのですか。だから信長様の下で、家臣も迷わず命を賭けて戦えたのですね」


「でもお前は、そもそも戦を避けるべきだって思ってるんじゃなかったか?」


「避けられるものならばですよ。例えば、信長様が言われたように、正論をぶっ壊すほどの武力から国を守るために、避けられない戦もありますからね。私の正論は、独りよがりの空論だったと思い知らされました。

 善人面をして戦を否定することなんて、実は誰にでもできることです。しかし、いくら否定しても戦は起こる。こちらから起こさざるを得ないこともある。その時に、戦の意味すら持っていなければ、不毛なだけの殺し合いになってしまいますね」


「そうだ。だが、そう言うお前だって、戦の意味を持っていただろう?」


「はい。あの時は、確かに持っていました。ですから、正しい正しくないはまだ分かりませんが、不毛なだけの殺し合いを起こしたわけではなかったのだと、それだけは はっきり言えます」


「ああ、それならまだ良かったよ。結局 あれの真相が、明智光秀が錯乱していたとか、誰かに操られていたとかじゃあ、殺された俺が浮かばれないからな」


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戦略とかはわかりませんが、私も「勝って、それからどうする気なんだろう」とは思っていました。
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