清洲の晩餐は、色々と胃に悪い
その日の夜。
清洲城・客間。
秀俊の案内で通された部屋には、既に膳が並べられていた。
湯気を立てる白米、鯛の塩焼き、刺身、煮物に吸い物、そして季節の野菜。
河内では滅多にお目に掛かれぬ豪華な献立である。
秀俊は穏やかに頭を下げた。
「お口に合うか分かりませぬが、どうぞお召し上がりください。」
部屋が静まり返り、義藤たちは膳を見つめたまま動かない。
「……。」
「……。」
やがて義藤が小声で呟いた。
「……食べてええんか?」
正義も頷く。
「俺も、それ思いました。」
藤嗣が真顔で尋ねる。
「父上。」
「なんや。」
「全部食べても怒られません?」
「知らん。」
房春と義昭まで腕を組む。
「これ、食べた後に『実は一皿一両でした』とか言われません?」
「ありそうやな……。」
義藤は真剣に頷いた。
「帰りに請求書渡されたら、うち潰れるぞ。」
正義が辺りを見回す。
「無事、河内帰れますかね。」
「途中で追い剥ぎとか。」
「猪とか。」
「熊とか。」
「そこは河内も一緒や。」
義藤が思わず突っ込む。
その様子を見ていた綱勝が、小さく鼻を鳴らした。
「……やはり田舎者か。」
ぽつり、と漏れた一言に、義昭の耳がぴくりと動く。
「ええ。」
にこりと笑って振り返る。
「河内は田舎です。」
綱勝は少し意外そうな顔をした。
「認めるか。」
「認めますとも。」
義昭は笑みを崩さない。
「田舎やから畑耕せますし、田舎やから味噌仕込めます。
田舎やから商人とも長い付き合いになります。」
一拍置く。
「お陰様で、鉄砲三千丁ほどなら、ご用意できます。」
綱勝の眉がぴくりと動いた。
「……。」
何も返せない。
義藤が横から、小さな声で義昭を呼ぶ。
「勘右衛門。」
「はい。」
「煽るな。」
「煽ってません。事実しか申してません。」
正義が吹き出し、藤嗣も肩を震わせる。
十兵衛は思わず口元を押さえた。
その様子を見ていた信綱が、静かに笑う。
「ははは。なるほど。」
盃を傾けながら、満足そうに頷いた。
「杉下家とは、実に面白い家じゃ。」
同じ頃、清洲城の奥御殿では、信綱正室の小夜の方が側近の女房・按察局と話をしていた。
「河内より杉下殿が参られたか。」
「はい。」
「実家の佐藤家と祖を同じくする一族の方じゃ。
河内へお戻りになる前にご挨拶したいものじゃ。」
ゆるりと優雅に扇子を揺らす。
「それから……鉄砲三千丁を用意出来る、と御屋形様に申されたそうですよ。」
小夜の方の扇子がピタリと止まる。
「鉄砲を三千丁?」
按察局は下を向く。
(……しまった。)
しかし、もう遅かった。
「まぁ〜!どのようにして用意するおつもりであろうか!やはり堺からか?
なれど、鉄砲を一気に買い占めると、相場が跳ね上がるであろうが、何か策がおありかのぉ〜?」
小夜の方は鉄砲の話になると、水を得た魚のように生き生きする、変わった奥方であった。




