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天下統一?いや、まずは田植えと味噌や。~河内の弱小城主、今日も家族総出で生き残ります~  作者: 奈羅
河内の没落大名〜優先順位、野良仕事と商売。そして、時々戦〜
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没落した名門、とんでもない化け物だった

綾部家への出立の日。


杉下城の門前には、見送りの家臣たちが集まっていた。


「ほな、行ってくる。」


義藤が馬へ跨る。


供をするのは嫡男・藤嗣、一門衆の正義、そして房春と義昭である。


「留守は頼んだで。」


義長が頷く。


「兄上こそ、お気を付けて。」


正義が辺りを見回した。


「人数、これだけでええんですか?」


「十分や。」


義藤は笑う。


「また遊佐の阿呆がちょっかい掛けて来るかもしれへんしな。」


その一言に家臣たちは苦笑する。


「あの阿呆、親父の代から懲りへんなぁ。」


「最近は大和郡山の戸塚家を後ろ盾にして、気ぃ大きなっとるらしいで。」


「鉄砲、準備しとこか。」


「そういや堺の松野屋が『試しに』言うて置いてった大筒、まだ使うてへんな。」


「遊佐で試したろか。」


「ええな。」


義藤は呆れたように笑った。


「ほどほどにしときや。」



尾張・清洲城。


広間へ通された義藤たちを見て、綾部家の重臣たちは思わず息を呑んだ。


(……大きい。)


(熊のような男じゃ。)


(あれが河内の小城主……?)


(国を二つ三つ持っておる大名の風格だぞ。)


義藤の後ろには、藤嗣、正義、義昭が並ぶ。

四人とも堂々としていた。


やがて奥より、一人の男が姿を現す。


綾部家当主・綾部信綱。


義藤は静かに膝をついた。


「御尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉りまする。

杉下家当主、杉下源太郎義藤にございます。

此度は格別のお計らい、誠に感謝申し上げます。」


流れるような所作は、一切の淀みもない。


重臣たちは思わず顔を見合わせた。


(さすがは……。)


(没落したとはいえ名門。)


(礼法が身に染み付いておる。)


信綱は満足そうに笑った。


「斯様に堅苦しい挨拶は無用じゃ。

……杉下殿。よう、清洲まで参られた。」


「はっ。」


義藤は小さく頭を下げた。


「つまらぬ物ではございますが。」


正義が風呂敷包みを差し出す。


「河内で仕込みました味噌にございます。」


「ほう。」


信綱は興味深そうに蓋へ手を掛ける。

ふわり、と味噌の香りが漂い、信綱は思わず目を細める。


「良き香りじゃな。」


「御屋形様!」


重臣たちが慌てて声を上げる。


「お毒見を!」


信綱は手を止めた。


「……いや。」


一度、義藤へ視線を向ける。


「やるなら今ではない。」


義藤は静かに微笑んだ。


「左様でございます。」


信綱も笑う。


「疑うなら、最初から口にはせぬ。」


小皿へ少しだけ味噌を取り、口へ運ぶ。


「…………。」


もう一口。思わず口をついた。


「……でぇら美味ぇな!」


広間が静まり返る。


「あ。」


信綱は咳払いを一つ。


「……失敬。」


義藤が腹を抱えて笑った。


「はっはっは!そうでっしゃろ!

うちで仕込んだ味噌は日の本一でっせ!」


張り詰めていた空気が、一気に和らいだ。

信綱は笑みを浮かべたまま言う。


「さて。本題に入ろう。」


一瞬にして、空気が切り替わった。


「鉄砲を、まずは千丁。用意してほしい。

代金は、勿論こちらで持つ。」


義藤は目を細めた。


「……戦なさるんですか?」


「今はまだじゃ。」


ニヤリと笑う。


「備えよ。」


義藤は少し考え込んで、口を開く。


「たった千丁でよろしいので?」


重臣たちが一斉に義藤を見る。


「何?」


義昭が一歩前へ出た。


「堺中の鉄砲を買い占めるんは無理です。せやけど……。」


一拍置く。


「松野屋はじめ取引のある商人方に声を掛ければ。

在庫も、新しく打たせる分も合わせて……三千はご用意できます。」


信綱は目を細めた。


「一度に買えば相場が跳ね上がるのでは?」


義昭は少し考えて、顔を上げた。


「ほんなら、商人らには私らから話通しときます。

表向きは複数の注文に分けますわ。」


広間が静まり返る。

信綱は義昭を見つめ、やがて楽しそうに笑った。


「……面白い。……いつまでに出来る?」


義藤は義昭を一瞥すると、義昭は小さく頷いた。


「三か月。」


義藤は信綱を真っ直ぐ見据えた。


「三か月、お時間を頂ければ。」


信綱は大きく頷く。


「任せた。」


「必ず、お応えいたします。」


重臣たちは唖然としたまま、義藤を見つめた。


自分たちは、とんでもない家を引き込んでしまったのではないかと……。

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