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天下統一?いや、まずは田植えと味噌や。~河内の弱小城主、今日も家族総出で生き残ります~  作者: 奈羅
河内の没落大名〜優先順位、野良仕事と商売。そして、時々戦〜
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6/13

大大名へのご挨拶は、味噌から始まる

尾張・清洲城。


一週間前に河内へ向かった使者、本郷嘉兵衛がようやく帰城した。


「ただいま戻りました。」


畳に膝を付き、一通の書状を差し出し、上座に座る男は静かに封を切った。


綾部家当主・綾部信綱。


父祖の代より勢力を広げ、今や尾張、伊勢、美濃、三河、駿河を治める戦国大名である。


書状へ目を通し、小さく頷いた。


「……杉下は、我が誘いを受けると。」


重臣たちの間からどよめきが起こる。


「おお……。」


「近江守護職の名門が。」


「なれど今は河内の小城主じゃ。」


「背に腹は代えられぬのでしょう。」


「力で従わせてもよかったものを。」


口々に意見が飛び交う中、一人の男が静かに前へ進み出た。


「御屋形様。」


土山十兵衛(つちやまじゅうべえ)秀俊(ひでとし)


元は幕府へ仕えた側用人だったが、政変で職を失い浪人となったところを、信綱自ら召し抱えた男である。


「申してみよ。」


「杉下家をお誘いした理由は……やはり堺でしょうか。」


信綱は僅かに口元を緩めた。


「うむ。」


畳へ広げられた地図へ視線を落とす。


「父上は東海道を押さえた。そして儂の代で美濃も落ちた。」


指が西へ動く。


「次は畿内じゃ。」


すると最古参の重臣、小山田徳之丞(おやまだとくのじょう)綱勝(つなかつ)が口を開く。


「ならば近江を押さえるべきではございませぬか。」


信綱は小さく笑った。


「徳之丞よ……。

天下を取るにも、戦をするにも、最後は何が要る。」


綱勝は黙る。


「銭じゃ。」


信綱の指が堺を叩く。


「杉下は河内で根を張り、堺にも顔が利く。

近江は……その後でも遅くはない。」


綱勝は深々と頭を下げた。


「……失礼いたしました。」


信綱は秀俊へ目を向ける。


「十兵衛。」


「はっ。」


「杉下へ使いを出せ。清洲まで来てもらう。」


一拍。


「元は幕府執事衆……将軍家の一門じゃ。

今は小城主なれど、礼を失するな。粗相のないよう手配いたせ。」


「承知いたしました。」



一週間後。


杉下城。


「兄上。」


義長が一通の書状を持って広間へ入る。


「綾部様からです。」


義藤は封を切った。


「…………。」


「なんて?」


「清洲まで来い、やて。」


一同が顔を見合わせる。


沈黙。


最初に口を開いたのは義長だった。


「……路銀、足りますかね。」


「人数は最低限やな。」


美津が帳簿をめくる。


「宿代も要ります。」


義藤たちの姉・隆が腕を組む。


「着物、縫い直しといたるわ。」


「でしたら、義姉上。手伝います。」


義長の妻・古満(こま)が名乗り出た。


「土産も持ってかな失礼やろな。何がええやろ?」


義藤たちの妹・(きり)が腕を組んで考えていると、正義が真顔で聞いてきた。


「槍持って行きます?」


「いらん。」


即答だった。

義昭が腕を組む。


「薬か。火薬か……または鉄砲か。」


真智が首を傾げる。


「味噌は?」


全員が真智を見る。

義藤は腕を組んだまま、大きく頷いた。


「味噌やな。」


義長が天を仰ぐ。


「……兄上。」


「また味噌ですか。」


「味噌はええぞ。」


義藤は真顔だった。


「うまい。日持ちする。腹も膨れる。」 


そして、胸を張る。


「最高や。」


誰も反論できなかった。


杉下家初の清洲行きは、まるで取引先へ挨拶へ向かう町商人のような準備から始まった。

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