人の縁とは案外こういうもの
数日後。
木浪家の座敷では、小さな見合いの席が設けられていた。
上座には繁吉と弥生、その隣には古屋。
向かいには義藤と伊藤家当主・伊藤格之進保武。
そして当の本人たち。
伊藤清武と楠木小笹。
ぱっと見だけなら、実によく似合う二人だった。
清武は爽やかな顔立ちの若武者で、小笹は落ち着いた雰囲気を纏う和風美人。
しばらく世間話が続く。
「……。」
古屋はちらちらと清武を見る。
(ええ男だがねぇ。)
もう一度見る。
(背ぇも高いわぁ。)
さらに見る。
(礼儀もよう出来とるねぇ。)
弥生はその様子に苦笑した。
「母上。」
「何だね?」
「顔に出てます。」
「……。」
古屋は咳払いを一つした。
「ええ男だがね。」
結局、口に出すと、一同が吹き出す。
義藤は笑いながら、膝を軽く叩く。
「気に入ってもろたみたいやな。」
「気に入ったも何も。」
古屋は真顔だった。
「これ以上ない縁談だわぁ。」
そこまで言うと、二人を見比べた。
「ほれ。若い者同士、堺でも歩いておいで。」
「えっ?」
小笹が戸惑う。
「母上……。」
「ええから、ええから。」
古屋は二人の背中を押した。
「行っといで!」
こうして二人は、半ば追い出されるように木浪邸を後にした。
◇◇◇
堺の町。
賑わう通りを二人並んで歩く。
最初は何を話していいのか分からない。
沈黙だけが続いていたが、小笹が立ち止まった。
「……清武殿。」
「はい。」
小笹は少し笑う。
「迷惑でしょ。」
「え?」
「こんな出戻りの女。」
少し目を伏せる。
「しかも……私、三つも年上だで。」
風が静かに吹いた。
「断ってくれたらええからね。」
清武は少しだけ考えたが、静かに首を横へ振る。
「それは出来ません。」
「……なんで?」
「私は。」
真っ直ぐ小笹を見る。
「小笹殿を、まだ何も知りません。」
「?」
「知りもしない相手を断るのは、失礼でしょう。」
小笹は目を丸くした。
しばらく見つめていたが、小笹がくすりと笑う。
「……変わった子ぉやねぇ。」
清武も照れ笑いする。
「よう言われますねん。」
「ふふっ。」
小笹は自然と笑っていた。
「ありがとう。」
「……え?」
「そう言うてもろうたん、初めてだわ。」
二人はまた歩き出す。
先ほどまでのぎこちなさは、少しだけ消えていた。
◇◇◇
それからというもの。
清武が堺へ来るたびに二人は顔を合わせ。
町を歩き、茶を飲み、時には木浪家の子どもたちと遊び。
少しずつ、お互いを知っていった。
そして、婚約。さらに、祝言。
話は驚くほど、すんなり進んだ。
義藤は祝言の席で酒を飲みながら、しみじみ呟く。
「……縁いうんは、不思議なもんやなぁ。」
繁吉も笑う。
「ほんまですねぇ。」
美津と正義も頷く。
「巡り合わせいうんは、大事なんやな。」
誰ともなくそう呟く。
人と人との縁とは、不思議なものである。
良縁もあれば、悪縁もある。
時に人を泣かせ、時に人を笑わせる。
だが、結ばれるべき縁というものは、不思議なほど自然に結ばれていくものなのかもしれない。
堺の町は、今日も変わらず賑わっている。




