お節介で始まる、お見合い大作戦
堺へ仕事で訪れていた義藤は、用向きを終えると堺奉行所へ立ち寄った。
「義藤殿ぉぉ!」
聞き慣れた大声が響く。
「相変わらず声デカいなぁ。」
義藤が苦笑すると、繁吉は照れくさそうに頭を掻いた。
「いやぁ、つい。」
堺奉行に任じられて一年。
以前の慌ただしさは影を潜め、今では町人からも頼られる奉行となっていた。
「そういや。」
義藤が思い出したように尋ねる。
「四男、生まれたんやって?」
繁吉の顔が一気に緩む。
「はい!先月生まれましたぁ!豊太郎いう名前にしました。」
「豊太郎か。」
義藤は嬉しそうに頷く。
「ええ名前や。」
少し考えてから笑う。
「……あと何人増えるやろな。」
繁吉も大笑いした。
「私も分かりませんわ!」
二人はしばらく笑い合うが、繁吉は咳払いを一つした。
「……実は。」
急に真顔になる。
「義藤殿、ご相談がございます。」
「なんや?」
「妻の妹のことで。」
義藤も姿勢を正した。
「嫁ぎ先を探しておりまして。」
◇◇◇
繁吉は静かに話し始めた。
「名は小笹。二十一になります。」
十六で嫁ぎ、二年後には離縁。
原因は姑からの壮絶な嫁いびり。
「まぁ。」
繁吉は苦笑する。
「義妹も黙っとる性格やないんで、やり返してたらしいですが。」
義藤は思わず吹き出した。
「想像つくわ。」
「その上、亭主が浮気三昧。」
「そら帰るわ。」
「でしょう。」
離縁後は尾張の実家へ戻ったものの、今は堺で木浪家を手伝っているという。
「気ぃも利くし、美人やし。勿体ない思いまして。」
義藤は腕を組む。
「ほぉ……。」
少し考えて、ぽん、と膝を叩いた。
「ほんなら。うちの家老の倅と見合いさせたれ。」
繁吉が目を丸くする。
「え?」
「伊藤清武。歳は十九や。
そろそろ嫁さん迎えてもええ頃や。」
義藤は笑った。
「親父殿も最近『孫はまだか』言うとるしな。」
繁吉も笑顔になる。
「ええご縁になるかもしれませんな。」
「せやろ。」
「決まりですね。」
◇◇◇
数日後。
木浪邸。
第九子・豊太郎の顔を見るため、尾張から弥生の母・古屋が訪れていた。
「まぁまぁ。よう肥えたええ子だがね。」
孫を抱きながら目を細める。
そこへ繁吉が切り出した。
「義母上。小笹に縁談が参りました。」
古屋は嬉しそうに顔を上げた。
「ほんとかね!で、どちらのお家だね?」
「杉下家家老・伊藤様のお家です。」
「…………。」
古屋の笑顔が固まる。
「…………え?」
次の瞬間。
「家柄が違い過ぎるがねぇぇぇ!!」
今にも倒れそうになる。
「母上!」
弥生が慌てて支えるが、古屋はなおも取り乱していた。
「うちは!楠木は足軽だがね!木浪様は藤ヶ谷家のお流れだが!
弥生の時だって!藤間殿が頭を下げに来た時!
どれだけ驚いたと思っとるんだね!
足軽の娘が!木浪様のお嫁さんになるなんて!」
そこまで言って、はっと我に返る。
「……いかん、いかん!今は小笹の話だったがね!」
繁吉は苦笑した。
「義母上。私の時も、同じこと言うてましたよね。」
古屋はぐっと言葉に詰まる。
「だ、だって!あの時は!親戚だけやなくて、周り皆に説得されたから……。
いや!今度は小笹だが!しかも杉下様のご家老のお家だなんて!」
繁吉は穏やかに続けた。
「今は楠木も木浪の家老。
立場で言えば、家柄も釣り合いが取れております。」
古屋は豊太郎を抱きながら、うーんと唸った。
「……ほんとかねぇ。」
「ほんまです。」
「それに。」
弥生が微笑む。
「虎殿、真面目でええ人ですよ。」
「……そうかね?」
「はい。」
ようやく古屋も肩の力を抜いた。
「ほんなら……一度会うだけ会ってみゃあ。」
◇◇◇
その頃。
河内・杉下城。
「清武。」
義藤が書状を差し出す。
「見合いせぇ。」
清武は受け取って目を通した。
「……ええですよ。」
即答だったので、義藤が目を丸くする。
「はや。」
清武は首を傾げる。
「家のためになるなら。……それに。」
少し笑う。
「義藤様と繁吉様が勧める方なら、間違いないでしょう。」
義藤は満足そうに頷いた。
「よっしゃ。話、進めるで。」
こうして、杉下家家老嫡男・伊藤清武と、木浪家家老・楠木家の三女・小笹。
二人の見合いもまた、本人たち以上の勢いで話が進んでいくのであった。




