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今日も店主たちは茶屋で情報交換

昼下がり。


いつもの商人たちが茶を飲みながら世間話に花を咲かせていた。


「それにしても……。」


呉服屋の主人が湯呑みを置く。


「前野様の若様は、想像より酷かったなぁ。」


向かいの油屋が頷く。


「ほんまや。」


「大和屋さんも、とんだ災難やった。」


酒屋の主人も苦笑する。


「せやけど、一番気の毒なんは前野様や。」


「ほんまに。」


別の商人も頷いた。


「うちの丁稚がな。前野屋敷の前通るたび、お美津ちゃんと若様の怒鳴り声聞こえる言うとった。」


一同が苦笑する。


「そら毎日やったら、耳も慣れるわ。」


笑いが起きる。やがて乾物屋の主人が真顔になった。


「前野様は、ええお人なんやけどな。」


「大和屋の若旦那の話じゃ、あの場で腹切ろうとしたらしいで。」


「怖い怖い。」


「お武家さん、直ぐに腹切ろうとするな……。」


「若旦那と若奥さんが慌てて止めたって。」


「あたしも止めるで。」


少し沈黙が流れた。


「前野様、木浪様と一緒に、よう町回ってくれはる。」


「せやせや。」


「あの人、話ちゃんと聞いてくれはる。」


「この前なんか。」


菓子屋の主人が笑う。


「うちの丁稚が見回り中に声掛けられてな。

『暑いやろ』言うて、金平糖を貰うたらしい。帰ってきて、大喜びや。」


一同が笑う。


「ほんま、出来たお人や。」


「若様さえ、しっかりしとればなぁ。」


しばらく沈黙。


「前野様、直ぐに廃嫡なさったな。」


魚屋の主人が呟くと、全員が頷く。


「うちの奉公人が、あの時たまたま前を通り掛かったんよ。

前野様が思い切りあの若様を殴っとるから、慌てて止めたって帰って来た時に言うてたわ。」


「そりゃ、怒るわ。」


「でも……前野様も人の親やから、大目に見るんかなぁ思うてたけど。」


お茶を一口啜る。


「前野様も、綾部様も、堺の街をよう分かってはるわ。」


「せやな、私ら銭で繋がってますけど……。」


「商売していく上では、やっぱり信用と信頼が大事やで。」


「うん。あれ以上庇うたら、前野家そのものが信用失うとこやった。」


お茶を一口飲み、誰かがぽつりと呟く。


「……それにしても。尾張から来た若様、しっかりしてはったなぁ。」


「せやなぁ。」


「前野様の次男坊か。」


「木浪様に連れられて、一軒ずつ挨拶してはったわ。」


「まだ十六かそこらやろ?」


「うん。でもちゃんとしてたで。」


「うちに来たで。"今後ともよしなに"やて。

兄貴とえらい違うから驚いたん。」


「うちにも来たわ。"母上が好きそうや"言うて、菓子買うていきはったん。」


「ええ子やなぁ。」


主人たちはしみじみとする。


「新しい若様は、期待してええなぁ。」


「せやな。」


「兄貴と違うて、真面目そうや。」


「うん。」


「やっぱり。」


最後に年配の商人が静かに言った。


「育ちやな。」


誰も反論しなかった。


「まぁ……。うちには関係あらへんけど。」


「いや、大有りや!」

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