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「おかえり。」
真智がぽん、と美津の肩を叩く。
「災難やったな。」
古満も苦笑する。
「ほんまですよ。」
隆が肩を竦める。
「よう一年も我慢したわ。」
桐も頷いた。
「お疲れさん。」
皆が慰める中、当の本人は、けろりとして笑った。
「でも、楽しかったですよ〜。
堺は賑やかやし、ご飯も美味しかったし。
義父上も巴様も、ようしてくれはりました。」
「…………。」
美津の両親・久政と理津、そして兄・政藤は何とも言えない表情で顔を見合わせる。
「……強いなぁ。」
「美津らしいわ。」
◇◇◇
その頃、義藤は腕を組んでいた。
「……身内で固めるか。」
ぽつりと呟く。
翌日。
義長、房春、義昭の三人が呼び出された。
義藤は少し言いにくそうに口を開く。
「離縁して帰って来たばっかりで、再婚の話するんもどうかと思うんやけどな。」
三人は静かに聞いている。
「美津を……左衛門のところへ嫁がせようと思う。」
一瞬の沈黙。
三人は顔を見合わせた。
「「「ええんちゃう?」」」
あまりにもあっさりだったので、義藤は思わず拍子抜けする。
「……反対せぇへんの?」
義昭が笑いながら告げる。
「する理由ある?」
房春も、うんうんと頷きながら、続けた。
「左衛門ほど安心出来る男もおらんやろ。」
義長も腕を組んだ。
「むしろ、初めからそれで良かった気ぃする。」
義藤は苦笑した。
「……ほな。」
ポンと膝を叩く。
「御屋形様にお伺いするか。」
◇◇◇
数日後。
清洲城。
信綱は義藤からの書状を読み終える。
「杉下左衛門正義殿……。」
静かに目を閉じる。
「杉下近江守の従弟にございまする。」
「杉下一門衆か。」
小さく息を吐いた。
「……初めから、こうしておけば良かったか。」
重臣たちは何も答えられなかった。
信綱は筆を執る。返答は短い。
『其方の采配に任せる。』
それだけだった。
◇◇◇
杉下城。
義藤は正義と美津を呼んだ。
二人が並んで座る。
義藤は真っ直ぐ美津を見る。
「帰って来たばっかりなんは分かっとる。
けど……お前はまだ二十や。」
一呼吸置く。
「左衛門のところへ嫁げ。」
正義の息が止まる。
「……え。」
美津も一瞬だけ目を見開いたが、すぐに頭を下げる。
「承知いたしました。」
正義は目を丸くした。
「……ええの?」
恐る恐る尋ねると、美津は不思議そうに首を傾げた。
「左衛門やろ?よう知った相手やし。
少なくとも、あの人みたいに遊郭入り浸ったり、ツケ溜めたりはせぇへん。」
正義は勢いよく首を振る。
「するかぁ!」
続けて、美津は平然と言った。
「それに。」
少し間を置く。
「あの人と、一回も褥を共にしたことあらへんの。」
「「は!?」」
義藤と正義の声が揃い、美津は困ったように笑う。
「初夜の時な。私が、あんまり反応せぇへんかったから。怒って出て行ってもうた。
そっから、何もない。」
肩を竦める。
「手ぇすら握ったことあらへんで。」
部屋が静まり返る。
義藤は額へ手を当てた。
「……そうやったんか。」
正義も言葉を失う。
しばらく沈黙が続き――義藤がパンッと膝を叩いた。
「よっしゃ!決まりやな!」
「「はやっ!」」
正義と美津が思わず声を揃える。
こうして、杉下左衛門正義と、美津の祝言は――
驚くほどあっさり決まったのであった。




