結婚生活、僅か一年で終了
数日後。
堺・大和屋。
店先へ何台もの荷車が止まった。
「綾部家より、お詫びの品にございます。」
運び込まれる箱。
一つ、二つ、三つ。
まだ続くので、若旦那は目を瞬かせた。
「……え。」
番頭も固まる。
「まだ、あるんですか。」
「ございます。」
忠盛が深く頭を下げた。
「御屋形様より、せめてものお詫びにございます。」
隣では繁吉も頭を下げる。
若旦那は恐る恐る箱を見る。
「……ほんまに頂いてええんですか。」
番頭も小声で聞いた。
「あとから『代金頂戴します』とか……。」
繁吉は思わず吹き出す。
「言いません、言いません。」
忠盛も苦笑した。
「そのような無粋な真似は致しませぬ。」
そして改めて頭を下げる。
「此度は、誠に申し訳ございませなんだ。」
若旦那も静かに頭を下げ返した。
「……お心遣い、有り難く頂戴いたします。」
◇◇◇
騒動の処分は迅速だった。
前野新兵衛信盛。
嫡男の座を剥奪。その身柄は、美濃山中の屋敷へ幽閉。監視付きである。
さらに……。
「斯様なことで廃嫡とは何事です!」
清洲で騒ぎ立てた信盛の母もまた、騒動の重大さを理解してはいなかった。
忠盛は信綱へ願い出る。
「御屋形様。妻との離縁を、お許し願いたく。」
信綱は短く答えた。
「うむ。」
その一言で決まった。
奥方は離縁となり、信盛と共に美濃へ移されることとなる。
前野家の新たな嫡男には、側室・巴が産んだ次男・重盛が立てられた。
また、忠盛自身も監督不行届の責を負い、三か月の謹慎を命じられた。
忠盛は何一つ異を唱えず、その裁きを受け入れた。
◇◇◇
そして、美津とも離縁となった。
荷物をまとめながら、美津は苦笑する。
「嫁いで一年で出戻るとはなぁ。」
河内から迎えに来た義藤たちも苦笑するしかない。
忠盛は深々と頭を下げた。
「……美津。一年の間、苦労を掛けた。」
美津は首を横に振る。
「義父上と巴様には、ようしてもらいました。堺と河内なんて近いもんです。
また会いましょう。」
その横で、巴が穏やかに微笑んだ。
「はい。また会う日まで、お達者で。」
家臣たちは皆、涙を拭っていた。
「若奥様……。」
「寂しなります。」
女中たちも涙ぐみ、美津は照れ臭そうに笑う。
「泣かんでも。死ぬ訳ちゃうんやし。」
笑顔のまま手を振る。
「ほな。……またな。」
こうして美津は、前野家を後にした。
嫁いで来た時とは違い、今度は多くの者に惜しまれながら、河内への帰路についた。




