↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/35

廃嫡と離縁はセットです

「お品!」


若旦那が部屋へ飛び込んで来た。

その視線の先には――。


「はい!」


「はいっ!」


「とったぁ!」


繁吉の子どもたちと輪になり、かるた遊びに興じるお品の姿があった。


「旦那様!」


お品が顔を上げる。


「お品……。」


若旦那はその場へへたり込んだ。


「良かった……。」


張り詰めていた糸が切れたように、そのまま腰を抜かす。


お品は慌てて駆け寄った。


「大丈夫です!何もされてへんから!」


若旦那は何度も頷く。


「……それで十分や。」


その言葉に、お品もようやく涙を流した。


◇◇◇


しばらくして、木浪邸へ忠盛が姿を現した。

表情は青ざめている。

若旦那とお品の前まで進み出ると――


ドサッ。


迷いなく平伏した。


「此度の責は、すべて某にございます!」


若旦那もお品も目を丸くする。


「申し開きのしようもございませぬ!お詫びとして……!」


忠盛は腰の脇差へ手を掛けた。


「この場で腹を――」


「いやいやいや!」


若旦那が慌てて飛び付く。


「待ってください!」


「怖い怖い!」


お品も青ざめる。


「私ら商人相手に、そこまでせんでも!」


「どうか頭を上げてください!」


忠盛はなおも頭を下げたままだった。


「……しかし。某には、それ以外に償う術がございませぬ。」


若旦那は困り果て、美津を見る。

美津も肩を竦めるしかない。


「えぇっと……。」


若旦那は苦笑した。


「今日は、お品も疲れております。

一旦帰らせてもろて……。

また日を改めて、お話しさせてもらえませんやろか?」


忠盛は静かに頷いた。


「……承知いたしました。改めて、お詫びに伺います。」


若旦那はようやく忠盛を立たせた。


「送らせます。」


忠盛が命じると、前野家臣たちが若夫婦を丁重に屋敷まで送り届けることとなった。


◇◇◇


静かになった木浪邸。

繁吉が忠盛へ尋ねる。


「……兄ぃ。新兵衛は。」


忠盛は疲れ切った表情で答えた。


「医者へ診せておる。……しばらく人前へは出せん。」


繁吉は目を丸くした。


「どんだけ殴ったんですか……。」


少し間を置く。


「……いや。その程度で済んで良かった。」


忠盛は苦く笑った。


「うむ、儂もそう思う。」


繁吉は真顔になる。


「この件、御屋形様には……。」


「無論、申し上げる。」


忠盛は迷いなく答えた。


「良くて廃嫡。」


一拍置く。


「悪くて……廃嫡。」


美津が思わず突っ込んだ。


「義父上。」


「む?なんじゃ?」


「どっちも廃嫡ですやん。」


その場にいた全員が、思わず苦笑した。


だが、誰一人、それ以外の処分を思い付かなかった。


◇◇◇


数日後。


清洲城。


信綱は忠盛から届いた書状を最後まで読み終えると、静かに目を閉じた。


「……やってくれたな。」


側に控える土山秀俊も苦笑する。


「やってくれましたなぁ。」


小山田綱勝が腕を組む。


「前野殿も手を焼いておられましたが……。

まさか、ここまでとは。」


重臣たちの間に重い空気が流れる。

信綱はしばらく黙考し、やがて静かに顔を上げた。


「信盛は廃嫡。」


誰も異を唱えない。


「堺で斯様な騒ぎを起こす者を、綾部家嫡臣の跡取りとして置いてはおけぬ。

庇い立てする理由もない。」


重臣たちが深く頭を下げる。


「それから。」


信綱は続けた。


「大和屋へは、綾部家より正式に詫びを入れよ。

十兵衛、手配せよ。」


「はっ。」


秀俊が控えた。

すると、兼武が口を開く。


「御屋形様。前野新兵衛の妻、お美津殿は如何なさいますか。」


信綱は少しだけ目を伏せた。


美津に非はない。それは誰もが分かっている。


だからこそ。


「……離縁させよ。」


短く告げる。


「これ以上、あの娘を前野家へ縛る理由はない。」


「はっ。」


評定の間は静まり返っていた。


綾部家当主として。そして、一人の主君として。


信綱は最も重く、最も公平な裁きを下したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「バカ息子はなんも惜しくないが、あの嫁を手放すのは惜しい」ってことで「美津と再婚相手共々、夫婦養子にして家名存続」ってならんかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。