槍一本、幾らや?
遊佐との戦から一夜明けた。
杉下城の中庭では、折れた槍や傷付いた具足が山のように積まれている。
傷付いた具足を前に、義藤の従弟で一門衆の杉下左衛門正義は、溜め息を吐く。
「ほれ、正義。その槍貸してみぃ。」
清武は鉋を手に、槍の柄を削っていた。
杉下家家老・伊藤家の嫡男。
穏やかな顔立ちとは裏腹に、手先は実に器用だった。
「……なぁ。」
槍を抱えたまま、正義がぼやく。
「なんや。」
「もっと殿のお役に立ちたいわ。」
清武は苦笑した。
「昨日も十分役に立ったやないか。遊佐の槍持ち、何人倒した思う。」
「十人ぐらいやな。」
「十分や。」
「足らん。」
正義は腕を組む。
「もっと武功立てたい。……殿に、喜んでもらいたいんや。」
その横では、杉下家家臣団筆頭・石橋家の三女、美津が黙々と帳簿を付けていた。
「左衛門。」
「なにぃ?」
「昨日折った槍、何本?」
「……三本。」
「一本いくらする思うてんの?」
「……。」
「鎧の修理代は?」
「……。」
「馬の薬代は?」
「…………。」
筆を走らせながら、美津は淡々と続ける。
「戦は勝った。
せやけど、銭は減った。その帳尻合わせるん、誰や思う?」
「……源次郎様と、美津。」
「そうや。」
ようやく顔を上げ、美津はにっこり笑った。
「せやから……次から槍、折らんといてな。」
「無茶言うなや!」
「無茶ちゃう。折れんよう戦え。」
「それ出来たら苦労せぇへん!」
清武が吹き出した。
「ははっ。今日も美津姉やんには敵わんな。」
「おーい。」
聞き慣れた声が響き、三人が振り向くと、義藤がのんびりと庭に降りて来た。
「殿。」
「おう。」
義藤は修理中の槍を一本手に取る。
「昨日の怪我人は?」
清武が答える。
「軽傷三名です。」
「死人は?」
「おりません。」
「槍。」
「三本折れました。」
義藤は正義を見た。
「お前やな。」
「……はい。」
「次から折るなよ。」
「殿まで!」
義藤は豪快に笑う。
「槍高いねん。」
「源次郎様も同じこと言うてました!」
「義長が正しい。」
「世知辛ぁ!」
一同から笑いが起こる。
その笑い声を切り裂くように、廊下の向こうから慌ただしい足音が響いた。
「殿ぉぉぉぉ!!」
皆が振り向くと、息を切らせて駆け込んできたのは、義藤の姉婿で古参家臣・畠野玄蕃房春だった。
「なんや、玄蕃。えらい慌てとるな。」
房春は肩で息をしながら叫ぶ。
「尾張や!」
「……尾張?」
「綾部家から使者が来とるで!」
一瞬、空気が止まる。
「書状を預かっとるそうや!」
義藤はきょとんとした。
「……え?」
正義と清武、美津も顔を見合わせ、義藤は首を傾げた。
「……なんでなん?」




