ファーストミッション。鉄砲三千丁を集めよ
和泉国・堺。
杉下家の者たちは、それぞれ持ち場へ散っていた。
「ほな、行くで。」
清武が声を掛ける。
同行するのは正義、美津、隆、桐の四人。
目指す先は、堺でも指折りの鉄砲商――松野屋である。
◇
「毎度ぉ!」
松野屋へ入ると、番頭がすぐに頭を下げた。
「これは杉下様。」
「主人は?」
「奥におります。」
間もなく、恰幅の良い主人が奥から姿を現した。
「おおっ!杉下さん!」
主人は満面の笑みを浮かべた。
「この前置いてった大筒、どないでした?」
清武と隆、桐は顔を見合わせる。
「使いました。」
「ほう!」
「殿が留守しとる間に、遊佐と戸塚が攻めて来まして。」
主人は身を乗り出した。
「それで!?」
「試し撃ちしたりました。」
「当たりました?」
「一発目から。」
主人は両手を叩いた。
「おぉーーっ!ほな実戦で使えたんですな!」
「ええ。」
隆は頷く。
「二発撃ったら、さっさと帰って行きましたわ。」
主人は腹を抱えて笑った。
「はっはっはっ!そら結構!これで胸張って売れますわ!」
そして、嬉しそうに手を叩く。
「『杉下家実戦済み』言うて宣伝できます!」
美津が呆れたように主人を見る。
「最初から、そのつもりやったんちゃいます?」
主人はニヤリと笑った。
「商売人ですさかい。」
一同から笑いが起こる。
主人は笑みを収めると、表情を引き締めた。
「して。今日は、どないな御用で?」
桐は静かに答えた。
「鉄砲三千丁。」
主人の笑みが止まる。
「……三千。」
「綾部様からのご注文です。」
主人は腕を組み、大きく息を吐いた。
「在庫だけやと足りまへんな。」
「承知しております。」
美津は帳面を開いた。
「せやから、新しく打って頂く分もお願いしたいんです。」
主人はゆっくり頷いた。
「……分かりました。職人方にも声掛けましょう。」
◇
その頃、房春は火薬商・有田屋にいた。
「まとめて注文したら、相場跳ねますやろ?」
主人は頷く。
「そらまぁ。」
房春は笑う。
「せやから、一気には買わへん。
毎月少しずつ……。他所の注文に紛れ込ませてください。」
主人は感心したように笑った。
「流石、杉下さんや。」
◇
一方その頃、義昭は堺中の鉄砲鍛冶を訪ね歩いていた。
「一月で何丁打てます?」
職人は腕を組む。
「二十丁。」
次の鍛冶屋。
「三十丁。」
さらに別の工房。
「十五丁。」
義昭は黙々と帳面へ書き込んでいく。
「なるほど……。」
一人では無理。十人でも足りない。
……ならば。
「皆で作ればええ。」
義昭は帳面を閉じ、小さく笑った。
「三千丁。」
一拍置いて、続ける。
「……出来ますな。」
杉下家は、静かに動き始めた同じ頃。
杉下城に、綾部家家臣の木浪繁吉が訪ねて来た。
「御屋形様より。」
繁吉の合図で、家臣たちが次々と木箱を運び込む。
一つ、二つ、三つ。
重々しい音を立てて並べられた箱を見て、義長が静かに蓋を開ける。
ぎっしりと詰まった銭。
大広間が静まり返る。
「先ずは、こちらをと。」
繁吉と家臣たちが頭を下げる。
「不足とあらば遠慮なく申せ、と仰せにございまする。」
義藤は立ち上がり木箱の前に膝を付き、中の銭を見つめる。
「……足りますか?」
繁吉の問いに、義藤はニヤリと笑う。
「十分や。」




