一番怖いのは、外より内の人間
清洲城下。
義藤と義昭が奥御殿で小夜の高速詠唱に圧倒されている頃。
正義と房春は、城下を流れる川沿いへ腰を下ろしていた。
手には、焼き立ての団子。
「この団子、美味いな。」
正義は一口頬張る。
「甘塩っぱい。」
房春も頷いた。
「美濃の郷土料理らしいで。」
「へぇ〜。」
川面を風が渡る。
しばらく無言で団子を食べていた正義だったが、ふと思い出したように口を開いた。
「……そういや。」
「ん?」
「美濃って、今は綾部が治めとるんですよね。」
「せや。」
「なんでなんです?」
正義は首を傾げる。
「佐藤家言うたら、美濃一番の名門でしょ。
綾部と肩並べるぐらい強かったって聞きましたけど。」
房春は団子を一つ食べ終えると、小さく息を吐いた。
「強かったで。」
「ほな……。」
「せやけどな。」
房春は川の流れを眺めた。
「外の敵には強うても、家ん中で揉めたら一溜まりもない。」
「……。」
「杉下がそうや。」
正義は小さく目を見開いた。
「杉下も……。」
「近江守護やった頃は大した勢いやった。
せやけど、家督争いが起きて、重臣まで割れてもうた。
当主がおらん隙に裏切られて、近江を追われた。」
房春は苦笑した。
「敵が強かったんやない。……味方が敵になったんや。」
正義は黙って団子を見つめる。
「佐藤も同じですか。」
「もっと酷い。」
房春は静かに頷いた。
「当主・佐藤寛斎様には、側室腹の長男の龍興様と、正室腹の龍久様いう息子がおった。」
「兄弟ですか。」
「せや。寛斎殿はよう出来た人でなぁ。
『兄弟で力を合わせて美濃を守れ』言うて、どっちも平等に育てた。」
「ええ話やないですか。」
「それが裏目に出たんや。」
正義は眉をひそめた。
「裏目?」
「寛斎様はな、遺言残す前に倒れてもうた。
脳の病や。そのまま帰らぬ人になってしもた。」
風が吹き抜け、川面が静かに揺れた。
「跡継ぎ決める人がおらんようになった。
龍興様を推す者、龍久様を推す者。
……家中は真っ二つや。そこへ仲裁に入ったんが……。」
「綾部様。」
「せや。」
房春は頷いた。
「最終的には龍興様が家督継いだ。」
「ほな、それで終わったんですか?」
「終わらん。」
房春は静かに首を横へ振った。
「表向きは決着した。
せやけど、龍久様派の家臣ら誰一人、内心は納得しとらんかった。」
一拍置く。
「そして、龍興様は暗殺された。正室の於通の方も巻き込まれて、亡くなったん。」
正義は思わず息を呑んだ。
「……。」
「家中は大混乱。
龍久殿まで巻き込まれて命を落とした。
結果……美濃を治める者がおらんようになってしもた。」
「……。」
「綾部様が裏で糸引いとった言う噂も流れた。」
房春は苦く笑う。
「けど、ありゃ完全なとばっちりや。巻き込まれただけや。」
正義はしばらく黙っていたが、やがて小さく呟く。
「戦より……怖いですね。」
房春は残った団子を口へ放り込んだ。
「せや。」
一拍。
「一番怖いんは、いつの世も身内や。」
川の流れる音だけが、静かに二人の間を通り抜けていった。




