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天下統一?いや、まずは田植えと味噌や。~河内の弱小城主、今日も家族総出で生き残ります~  作者: 奈羅
河内の没落大名〜優先順位、野良仕事と商売。そして、時々戦〜
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人は見かけによらない

清洲城下。


義藤たちは、秀俊の言いつけで城下を案内してくれるという若い家臣と共に歩いていた。


木浪藤間(きなみとうま)繁吉(しげよし)と申します!」


人懐っこい笑顔を浮かべる男は、深々と頭を下げる。


「若輩者ですが、今日は城下をご案内させて頂きます!」


「よろしゅう頼むわ。」


義藤もにかっと笑った。


繁吉は城下を歩きながら、店や寺、職人町のことを次々と説明していく。


「よう知っとるなぁ。」


「子供の頃から走り回っとりましたから。」


「生まれも綾部家なんか?」


「はい。曾祖父の代から足軽大将をやっとります。」


「ほぉ。」


「元は足軽です。」


義藤は思わず足を止めた。


「なんや、親近感湧くなぁ。」


繁吉は照れ臭そうに笑う。


「よう『足軽風情』なんて言われますけどね。」


「……気にせえへんのか?」


「言わせときゃええんですよ。足軽でも飯は食えますし。」


義藤は腹を抱えて笑った。


「はっはっは!ええ性格しとる!」


正義はスッと繁吉の隣に立つ。


「木浪殿、尾張のご出身やのに、訛りは少し西寄りなんですね。」


すると、繁吉は「ああ〜。」と小さく漏らす。


「よう言われます。私は清洲の出身ですけども、商人も旅人もよう来ますし、色んな言葉が混じるんですよ。」


義藤は顎を撫でて、納得の表情を浮かべていた。


「せやな〜、堺もそんなんやわ。色んな国の訛りが飛び交っとるんや。」


「私なんかまだマシですよ。

港の方に行ったら、何喋ってるか分からん人おりますし。」


繁吉が笑いながら歩いていた、その時。


「父ちゃーーん!」


元気な声が響き、一人の男の子が駆け出して来た。


繁吉は「あっ」と声を上げる。


「こらっ!走るな!」


しかし間に合わない。

男の子は勢いよく繁吉へ飛び付き、そのまま抱き付いた。


「お帰り!」


「ただいま。」


繁吉は笑いながら男の子の頭を撫でる。

その後ろから、小さな籠を抱えた少女が慌てて駆け寄って来た。


「父上、ごめんなさい。止めたんですけど……。」


「ええよええよ。」


繁吉は苦笑した。


「買い物か?」


「はい。」


少女は籠を見せた。


「母上に、お味噌とお野菜頼まれました。」


義藤は目を丸くした。


「よう出来た娘さんやな。」


繁吉は照れ笑いを浮かべる。


「長女の八重(やえ)です。」


「ほう。」


「んで、こっちが次男の和馬(かずま)です。」


和馬と呼ばれた男の子は、義藤を見上げる。


「でっか!」


義藤は思わず吹き出した。


「初めて言われたわ。」


「絶対うそや!」


「いや、ほんまや。」


一同から笑いが起こる。

繁吉は子どもたちへ向き直った。


「母ちゃん、家おるか?」


「おるよ!」


「ほな、お客様連れて帰る言うといて。」


「えっ?」


八重が目を丸くする。


「ええんですか?」


「ええよ。」


繁吉は義藤たちを振り返った。


「折角ですし、我が家で茶でも飲んでいきません?」


義藤は義昭たちと顔を見合わせた。


「……ええんか?」


「もちろん!家内も喜びます。」


「ほな、お邪魔しよか。」


「ありがとうございます!」


木浪家へ着くと、玄関の戸が勢いよく開いた。


「あなた、お帰りなさい!」


出迎えたのは、繁吉の妻・弥生(やよい)だった。


その後ろから……


「父ちゃーん!」


「おかえりー!」


「抱っこー!」


次々と子どもたちが飛び出して来る。


一人、二人、三人……。


義藤は数えるのを途中でやめた。


「……まだおる。」


繁吉は頭を掻く。


「全部で八人です。」


「八人!?」


正義が思わず声を上げる。


「賑やかやなぁ。」


「毎日こんなんですよ。」


家の中へ通されると、一人の武士が子どもたちへ筆を握らせていた。


「違う違う、そこは『あ』ではない。こう書くんだわ。」


子どもたちは真剣な顔で紙へ向かっている。


繁吉はにっと笑った。


「親父殿。」


男は顔を上げた。


「おう、帰ったか。」


繁吉は義藤たちへ向き直る。


「こちら、仁藤兼武(にとうかねたけ)殿です。」


「仁藤?」


義藤は思わず目を見開いた。


「槍の又兵衛(またべえ)……?」


「そうです。」


仁藤は静かに立ち上がり、一礼した。


「初めまして。綾部家家臣、仁藤又兵衛兼武と申します。

子どもらに字を教えておるだけです。」


義藤は思わず繁吉を見る。


「……最古参のお人が、わざわざ?」


繁吉は当たり前のように頷いた。


「親父殿、昔からよう見てくれるんです。」


仁藤は少し照れ臭そうに笑った。


「子どもは家の宝だ。字ぐらい読めるようにならねばな。」


義藤たちは顔を見合わせた。


綾部家には、また一人、見掛けによらぬ男がいた。

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