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宇宙(そら)翔けるマリヤ  作者: 夢乃


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6/11

CHIPS 06 四年前

「野郎ども、カチコミだ! 準備しやがれ!」

「「「おぅ!!」」」

 海賊船メアリ・リードのブリッジ中央にあるコネクト・コクーンの横に立つ男が檄を飛ばすと、ブリッジにいる他の海賊たちが雄叫びを上げ、すぐにブリッジを駆け出して行く。海賊船そのものと言ってもいいメアリがコクーンにいる以上、ブリッジに人間は不要だ。


 ブリッジに残ったのはメアリともう一人、海賊たちに檄を飛ばした男だ。この二人が、この船の海賊たちを纏めている。


「しかし、四年前に取り逃した獲物の娘とはな」

 海賊たちを見送った男が顎を撫でながら言った。


「アレはウチにとって唯一の汚点だったね」

 コネクト・コクーンの椅子に座ったまま、メアリは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 ブリッジのスクリーンに映る貨物船マリヤ・アステートは、船体の向きと軌道を徐々に変えている。メアリと正面から相対するつもりのようだ。


「……気に入らないね」

「あの時を思い出す、か」

「まあね」

 メアリは、目の前の貨物船と四年前に取り逃した旅客船とを重ねていた。



 ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ



 四年前、メアリ・リードと仲間の海賊たちは、入手した情報を元に旅客船アオイ・ユリアの襲撃を計画した。豪華客船と呼ぶに相応しい旅客船は、大勢の富豪を乗せて、ソレイユ恒星系の外縁から第三惑星ソールに向けて速度を落としつつ航宙していた。


 その途上の第七惑星の軌道を横切る辺りでランデブーする航路で、メアリ・リードはアオイ・ユリアへと近付いた。獲物が予定通りの航路を取れば、獲物の右舷前方から(ファング)を突き刺し、突撃艇で海賊たちが乗り込んで乗客の荷物を洗いざらい奪い、乗員乗客を血祭りにあげ、コンピューターを破壊してオサラバする計画だった。いつも通りに。


 しかし、この時の獲物はそれまでと別の行動を取った。海賊船から逃れようと軌道を変えるでもなく、加速ないし減速してランデブーのタイミングをずらすでもなく、舳先を海賊船に向けるように軌道変更した。

 真正面から相対する形になったが、海賊船メアリ・リードは予定通りに旅客船アオイ・ユリアに向けて加速した。


 純白の大中の鏃を上下に重ねたような美しい瀟洒な船体は、海賊船に臆した様子もなく真っ直ぐに向かっている。船内は蜂の巣を突いたような騒ぎになっているだろうが、外からはその様子を窺えない。


「……静か過ぎないか?」

 海賊船メアリ・リードのブリッジで、舵桿を握る男が呟いた。


〈そうだね。最初こそあらゆる通信手段で救援要請を出していたのに、今じゃ30秒ごとに救難信号を出しているだけだね〉

 ブリッジ中央のコネクト・コクーンに入っているメアリの声が、ブリッジに響く。海賊たちは襲撃の準備に取り掛かっているため、それを聞くのは一人きりだ。


「不気味だな」

〈覚悟を決めたんだろうさ。さあ、行くよっ〉

「おう」

 メアリ・リードの(ファング)が獲物を斬り裂くまで、一分を切っている。




 海賊船と旅客船が接触する直前、アオイ・ユリアは下部スラスターを始動して軌道を上方に逸らした。逃すまじとメアリも船首を上に持ち上げて、アオイ・ユリアの船体下部を斬り裂かんとする。


 しかし。


 ドゴゴゴゴゴゴゴッ。


 メアリ・リードの(ファング)は旅客船アオイ・ユリアの下半分、小さい方の鏃型に正面から突き刺さった。


(キャアアアァァァッ)

「!?」

 海賊の男は、女の悲鳴を聞いた気がした。しかしそんなことを気に掛けている時間はない。スクリーンに映る獲物に更に変化が現れる。


 旅客船アオイ・ユリアの船体中央部に水平に閃光が走ると、その上部船体が下部船体を切り離して速度を上げる。続いて海賊船メアリ・リードの船体左右から突撃艇8隻が打ち出され、孤を描いてアオイ・ユリアの捨てた下部船体に向かう。

 アオイ・ユリアの上部船体はメアリ・リードの上方を抜けて加速を続け、メアリ・リードが後方に切り離したジャミング船も通過して、その宙域を去って行った。



 ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ⊂⊂⊂Ғ



「あれは大赤字だったな」

 四年前の旅客船アオイ・ユリア襲撃を思い出して、男は言った。


 アオイ・ユリアの捨てた下部船体だけでも小型の旅客船並みの大きさがあったが、海賊たちが船内に入った時にはもぬけの殻だった。船員一人、乗客一人も残っておらず、乗客の手荷物はあったものの、高価なものではなかった。

 富裕客はどうやら上部船体の客席にいて、アオイ・ユリアは下部船体の客席から乗客をすべて上部へ避難させ、無人になった下部船体をトカゲの尾のように切り捨てたようだった。


「アイツの娘ってことは、また何かやりそうだねぇ」

 四年前を彷彿とさせるように真正面から対峙することになった貨物船マリヤ・アステートの船影を見ながら、メアリは言った。


「しかし、四年前のようにはならんだろ。見たところあの船のブリッジは上の小さいところだろう。トカゲの尻尾切りをするなら、目的の積荷はどっちにしろ獲れるさ」

「まぁね。ウチらもそろそろ準備するよ」

「ああ」

 メアリの座るコネクト・コクーンのシェードが下がり、メアリの姿を覆い隠した。男も椅子に座り、舵桿を握る。もっとも、船の制御はすべてメアリが行うのだが。男が舵桿を握るのは、あくまでも非常時に備えてのことだ。


 後部のジャミング船を切り離して待機させ、(ファング)を展開する。


 海賊船メアリ・リードと貨物船マリヤ・アステートの接触まで、あと僅か。


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