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宇宙(そら)翔けるマリヤ  作者: 夢乃


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CHIPS 05 戦闘直前

「本船は右舷に進路を変え、徐々に速度を落としています。この航路だと、海賊船と正面からすれ違う、あるいは衝突しますね。予想接触時刻は25分後」

 貨物船マリヤ・アステートのブリッジで、航路を注視している航宙士が言った。


「マリヤちゃん、正面から対決するつもりか……」

 通信士が呟く。そうしながらも、救援信号を繰り返し発信するように設定し、レーダーを注視する。


 正面の大スクリーンに海賊船が拡大投影されている。400メートルほどの船体の後方に、直径およそ100メートルのパラボラアンテナ状の構造体を持っている。

 接触まで20分を切った時、海賊船に変化があった。


「敵船に変化あり! 前後に分離しています」

「……後ろのデカいアンテナを切り離したようだな。あれがCCCF(スリーシーエフ)を妨害しているのか?」

 通信士の報告に船長は考える。


 貨物船マリヤ・アステートはメインエンジン、サブエンジンの双方をアイドル状態にし、スラスターで逆噴射を繰り返して速度を徐々に落としている。減速と同時に、外部コンテナを接続した船体後方からシールド・ソーサーを付けた二本のワイヤーが伸び、船の前方に回り込んで前方の貨物室の前部と左舷部にシールド・ソーサーを重ねる。用を終えたワイヤーは、船体後部へと収納された。


「カリナ、敵船と接触後、嬢ちゃんは右舷方向に進路を変えるはずだ。そのつもりで想定航路の計算を頼む」

「どうして……いえ、了解しました」

 質問しかけた航宙士は途中でそれを止め、データを変更して航路の推定を続ける。


 その間も両船の距離は縮まってゆく。接触まで残り10分を切った時、海賊船が動きを見せた。船体の下部が魚の身を開くように三分割される。

 何が起こるのかと船員たちが見守るスクリーンの中で、三分割された海賊船の中央部分がジャックナイフのように回転し、巨大な刃を前方へと突き出した。


「あれが、海賊〝ファング〟の(ファング)か……」

 三枚に下ろされた船体が再び一つに纏まってゆくのを見ながら、船長が呟いた。

 海賊船メアリ・リードは、元の船体の全長にも匹敵するほどの巨大な刃を前方に展開し、貨物船マリヤ・アステートとの距離を詰めて来る。


 これまで、メアリ・リードの襲撃を受けた宇宙船は、悉く巨大な牙で裂かれたような傷を船体に負っていた。襲撃した海賊船の正体も判らないまま、被害を受けた船の傷痕から、その宇宙海賊は〝ファング〟という通称で呼ばれることになった。

 その名前と姿が朧げながらも判明したのは、四年前、海賊船メアリ・リードによる旅客船アオイ・ユリアの襲撃事件だ。その時も、メアリ・リードは襲撃前に名乗りを上げた。ブリッジに詰めていた船員がそれを覚えていたため、『海賊船メアリ・リード』の名前と『巨大な牙のような刃物を持った海賊船』の姿が明かされた。

 尤も、旅客船アオイ・ユリアは、CHIPS(チップス)ヒューマンのユリア・アオイ・アステートが襲撃の影響で昏睡状態に陥ったことで、その影響を受けたコンピューターからは曖昧な記録しか得られなかった。


 海賊船〝ファング〟の初めて見る姿を目に焼き付けるように、船長はスクリーンを凝視していたが、思いついたように口を開いた。


「コーラル、レーザーで後ろのアンテナを狙えないか?」

 デブリ破壊用のレーザーではシールドに守られた宇宙船の本体に傷を付けることは困難だが、海賊船が切り離した恐らく通信妨害用のアンテナは、それほどの強度を持っていないように見えた。アレを破壊し、通信妨害を解ければ、救援を求めることも可能かも知れない。間に合うかどうかはともかく。

 しかし、レーザーを起動しようとコンソールを操作した操舵士は、船長を振り返って首を横に振った。


「駄目ですね。レーザーの操作はマリヤちゃんに取られてます」

「そうか。船内システムの監視を続けてくれ」

「今のところは他にやれることもありませんからね。了解」

 マリヤが船の全制御を行なっている今、操舵士の本来の仕事はない。操舵士は舵桿をいつでも握れるよう意識しつつ、船内環境を目の前のスクリーンに出力して監視に努める。


 船長は、全船員の所在地を確認する。機関士の二人がコンテナ・ブロックの機関室にいる他は、全船員がブリッジ・ブロックにいることを確認する。機関士が機関室に残ったことは、マリヤから聞かされている。

 最悪の場合、コンテナ・ブロックを分離してブリッジ・ブロックだけで離脱する可能性もあり得る。できればブリッジ・ブロックで待機してもらいたいところだが、それはマリヤも同じだろう。


 それでも残っているということは、マリヤも説得を諦めたのだろう。

 マリヤから預かった割込コードを使うことになったら、彼らの力も必要になる可能性が高い。それを考えると、彼らが機関室に残った彼らの判断は正しい。最終手段としてのコンテナ・ブロックの放棄はあり得るものの、マリヤも最終手段を取ることは考えていないはずだ。


 今後の展開を考えつつ、船長は大スクリーンに映る海賊船を睨み付けた。


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