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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
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八十四話 不安感

 麗と葛がリビングの机につき、そのまま数分した後には洗面所で手洗いとうがいを済ませたであろう朱の姿がリビングに見えた。

 今、リビングの机には肉じゃがと、ご飯と味噌汁。あとは副菜としてきゅうりと人参のぬか漬けがある。こと、と音をたててすべての食器を出し終わった。


「──よし。じゃあ、どうぞ」


「そうだね。ん、美味しそうだ。──いただきます」


「いただきます」「いただきます」


 麗が始めに箸を手に取り、そのままお味噌汁を飲んだ。俺もまた「いただきます」とキチンと挨拶をしてからご飯を食べだした。


「ん、……!」


 一口。まずはやっぱり個人的に味が気になった肉じゃがだ。ちゃんと取り箸でとり、そのまま口に入れる。

 ……美味しい。いや、本当に美味しい。自分が作ったものだという贔屓目とかじゃなく、俺が今までに作ってきた料理でもしかしたら一番じゃないだろうか。


「──おいしい」


 俺が俺自身の努力と美味しさを噛み締めていると、ボソリと目の前からそんな声が漏れた。席は、昨日と同じであり、つまり、俺の前にいるのは──


「美味しい。すごいね、蒼」


「……そう、改まって言われると、照れちゃうな」


「普通に受け取ってもらっていいよ。これは、別に皮肉とかなんでもない、純粋な心からの称賛だから。……すごいね、お兄ちゃん」


「ありがとう。……!? え、……え!? いま、え。お、兄ちゃんって言った!?」


「うおい。落ち着け、蒼。机が揺れてる」


「はー。流石にキモいよ」


 思わぬ方向から急に殴られた。その衝撃が抜けないが、それ以上の嬉しさで痛みはない。むしろ、癒やされている。


 けど、朱もそれで照れてしまったのか、もう二度と言うまいといったほどに口をきゅっと固く結び、無言で肉じゃがを取り分けている。

 くそう、なんで俺は常時朱の言葉を録音してなかったんだ……!? はっ! 麗ならもしかしたら!?


「いや、流石に友人の妹の発言を鹿王んするような変態でもないし、たとえしてても気持ち悪さ全開の蒼にわたすだなんて天と地がひっくり返ってもありえないから」


「くそう……!」


 薄情者め!! 友達のためなら西から東、北から南どこまでも奔走するって。銀行強盗から国家転覆まで。コンクール入賞からのノーベル賞受賞だってやってくれるって言ったじゃんか!!


「一言だって言ってねぇよ。……おっと」


 思わず出てしまった、という風に麗は口を閉じた。それに対して少し葛が怪訝そうな表情をしていた。俺は、……うん。なんだか前々からわかってた気がする。


「新しい学校生活……最初は誰だって猫を被るもんだよ」


「『化け猫を被る』ってか」


「え?」


「ん?」


 どことなく俺と葛の間でのことわざの違いがある気がしたが、とりあえずは流す。そこは文化の違いだとか、そういうのだろう。


 ともあれ。妹であり、家事能力という一点では俺よりも数段優れていると自他認められる朱から俺の料理は「美味しい」と言われた。これはもう、料理コンテストでも調子に乗っちゃってもいいのではなかろうか。


「料理コンテストって料理部も参戦するんでしょ? 普通に無理な気がするけどね」


「え。そんなすごいの?」


「うちの学校ってかなり部活動に力入れてるだろ? ほら、文化部でも週二回以上はなきゃダメだし。それに、確かなんか有名な先輩が一人いたよな……ほら、賞とかとってる先輩」


「何よ……何人かいるね。で、そういう先輩に徒党を組まれたら、ボクたちは無残にも無様にも敗走するしかないってこと」


「ううう……学食の無量券、ほしい!」


 家計が圧迫してるわけではないが、それでも無料になるものがあるのならば無料にしたい。そもそもコンテスト参加自体は無料だし。何か追加で調味料や材料が持ってきた買った場合は三つまでなら持参可能で、それらは自腹となる。あたりまえだが。ただ、これも事前に申請がいるらしく……現地調達はだめだとか。


「この、現地調達って何?」


「なんか昔の事例で他のグループの材料を強奪したとか何とか……」


「物騒だね!?」


 そもそも料理コンテストごときで暴力事件を起こさないでほしい。確かに無量券はアツいが、それでも学生のうちのイベントだと、笑って流せよ。


「なんだか蒼の学校って物騒だね。大丈夫? ほら、頭とか」


「心配かと思ったら攻撃されたな……まあ、危ないのは一部。だと思う。から、大丈夫だよ」


 知らんけど。


 最後にこの一言を入れるかどうかで俺にかぶる責任が全然変わるので。というか、朱にはぱっぱと明かしたい気持ちもある。家族に秘密を作るのか云々の前にポロっとボロをだして朱が危ない目に合うのだけはごめんだ。でも、それを学園長は許してくれるかどうか……別に許さない、とかはないけど嫌味は言われたくない。どうせ言っちゃったらもう手遅れなんだし。事後報告ってやつになるだけだ。

 そう思い、チラリと朱の方を見る。朱は、また一口と俺の作った肉じゃがを食べてくれていた。


「……」


 隠し事に胸が痛む、だなんて、ない。でも隠しきれるか、それに対しての不安感なら、たくさんあるのだ。 だからその不安をなくすために、いっそのこと全てをぶちまけて楽になる……短絡的すぎるだろうか。けども、そうした方が楽に思った。

 そう考えていると、考えているからか麗に睨まれてしまった。麗はどちらかというとことを荒立てることを嫌うタイプだから。


『ご、め、ん』


 口パクでそう伝えると麗は大きくため息を吐き出し、そのまま味噌汁を一気に飲み込んだ。途中、豆腐かわかめかが引っかかったのかむせていたが、そこは自己責任で頼んだ。


「──でも、いつかは明かすつもりだよ」


 それが俺が高校生でいるうちか、はたまた卒業した後か。それはわからないが、それでもその事実は確定事項であった。





 きちんと食器類をかたずけて、きちんと棚に戻す。それをしてまた順番通りに入浴が始まった。本来、朱はお風呂に入るときに小さな防水用のテレビ(お年玉で買っていた。自分用で、父さんは触ることすら禁じられている)を持ち込んで映画を見るのがルーティンであるのだが、それをわざわざやめてもらってしまっている。今度、何かしらおごったり連れて行ったりで機嫌を取った方がいいだろう。


「明日は京都に行って……それで観光? あ、そうだ。桜の家に凸ろっかなって」


「そういえば、それはなんでなんだ?」


「いや……ちょっと、気になるっていうか」


「かなり迷惑だよね、突撃行為」


「うぐ。……じ、事前に連絡入れれば、たぶん桜は性格上断ることはしないかなって」


「うわー、最低」


 桜は押し切られると弱いタイプだ。よく向あたりに宿題を写させてと言われそれを断り切れていないのを見かけた。責任感が強くて、優しい。そのかけ合わせの結果だろう。


「──桜」


 聞きたいことは、あった。何があったのかと。──困ってるならば、力にならせてほしいと。それを、言いたい。


「──また会おう、が絶対なんて、それは嘘だ。少しでも気になることがあるなら、すべきだって、俺は思うよ」


 いつかの後悔の記憶がよみがえった。だからこそ、あんな──震えるような、助けを求めるような声で俺を拒絶しようとしていた桜を見逃すだなんて、俺にはできないのだ。

 お節介なのは重々承知である。そもそも、あくまで俺たち三人が京都に行くのは旅行だ。だから、一目、一回だけあって、そして「また今度」と約束をしたい。また会おうが絶対でなくとも、その言葉は心に深く残ることになるのだから。


「まあ、ボクは付き合ってあげてもいいよ。初日の、最初でいいでしょ」


「観光前に、な。他に京都住んでんのって……ああ、向とかか? 稲荷家もあったろ」


「そうだね。『御三家』は基本的に京都にいるんだっけ?」


「そ。だから稲荷君も鬼城院君もいるはずだよ」


 ──会いに行く。少なくとも、顔を一回でもいいから拝んでやる。

 それが、俺が京都に行く旅行の、副目標のようなものになった。






次回から桜に焦点が当たる予定です。ちなみに、予定が守られた回数は限りなくゼロに近いです。

ただ、想像以上にリアルが忙しくなってしまったのでいったん更新は止まります。五月一日再開の予定です。

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