八十三話 つまりは実力
朝食を済ませ、今は麗と葛にゲームのセッティングをまかせて俺は洗面所で皿洗いをしていた。こういった洗い仕事は、ほかにも風呂掃除やらなんやらも合わせて基本的に俺がしている。で、逆に作り出す系は朱。洗濯は朱が洗濯機に突っ込んで俺が干すみたいな。
基本的に父さんは家事をしないが、たまに早く帰って来たときは料理を作ってくれたり、掃除をぱっぱとしてくれたりする。育児には非参加的なくせに、家事には参加的なのだ、あの男は。まあ、そのことを責めたりは、俺は特にしない。もし朱が責めるなら全面的に味方するが。
「──蒼ー、できたよ」
「わかった。今行くね」
とりあえず、最初はゴーカート系のゲームをしようということになった。父さんは自分だけ参加できないのを寂しいと感じるような女々しい性格の持ち主なので、コントローラーもなんでも三個は必ず買ってくるのだ。どうせ家にあんまりいないのに。まあ今回はそれが功をなしたということろだろう。
そして、今回は友情崩壊ゲーとかもやってみたい。俺には崩壊するような友情はそもそもなかったし、家族中はあんまり悪くなかった。朱の圧勝で終わったし。朱、すごく運がいいんだよな。俺と父さんから吸い取った可能性を否定しきれないほどに。
「いやぁ。前にも桜とか向と一緒にゲーセンでやったなぁ」
「ああ、このゲーム、たしかゲーセンにあったよな。前に麗と一緒にやったな」
「そういえばやったね」
たまに三人で出かけたり、二人で出かけたりは結構している。テスト期間こそは麗の部屋とかで丸一日勉強だったりしたものの、かなり俺は男子高校生として青春をできているのではなかろうか。
「どのキャラ選ぶ? 俺、このリンゴがいいかも」
「じゃあ俺はこの鶴で」
「なんか謎だよね、キャラクター。ボクはそうだなぁ、赤ちゃんで」
動物、野菜、果物、人型。選べるキャラクターはほんとになんでもありである。
走る車も性能が種類によってかなり変わるし、アイテムとかもあったりする。ブーストすることができるジェットエンジンだったり、他社の妨害ができる鉛玉だったり。コースもかなり作りこまれていて、本当に奥が深い。
「ふっふっふ。友達がいなく、ただひたすら一人でNPCやオンライン対戦で磨いた俺の実力、とくとみよ!」
そんなに得意じゃないけど! まあ、こういったアイテムとかが絡むゲームはそんなに実力だけが全部じゃない、はず。それこそ、逆転とかもあるだろう。
「そうだ。何か罰ゲームを設いない? ボク、そういうのすごく好き」
「うん、なんとなくわかってた。麗が罰ゲーム好きってこと」
日頃の行いからだろうか。なんとなく、好きそうだとは思っていた。
罰ゲームをくじ引き式で用意しようとなり、なぜか我が家にあるくじ引きの箱にそれぞれ罰ゲームの内容を書いていった紙を詰め込んでいく。俺は「腕立て伏せ百回」とか肉体系のやつを書いたが、二人はどうだろうか。麗の場合が怖すぎる。あいつ、人が土下座してたら容赦なくその上から踏むタイプだろ。
「よくわかったね」
「まさかの肯定!?」
「試合始まるぞ」
「あ、ごめん」
テレビ画面に表示されているゲームが「3」、「2」、「1」とカウントを始めていた。ここ最近分かったことで、この「2」あたりからアクセルを踏んでいるとスタートダッシュが決められるという、ゲーム好きの人からすれば当たり前のような情報がようやく俺でも使えるようになってきたので、ぽちっとな。
バンッ、と音と同時にカートから煙が出て、スタートダッシュは失敗した。個人的には、俺じゃなくてゲームが悪いかなって、思っておりまする。
「うおおぉおお!! このアイテムで、このアイテムで!! ここであったが百年目!!」
「アイテム同士で相殺とかできるの、知らなかった?」
「うお。またニンニク踏んだ」
NPCをぐんぐんを追い抜いていき、今では堂々と一位として妨害をものともしない麗。蹴落としてなんとか上位を狙おうとする俺。妨害系アイテムに全て引っかかっている葛。順位的には麗、俺、葛といったところで変動がみられなくなった。
……確かにゲームには運要素が大事なんだが、やっぱりあらゆるものは本人の努力、つまりは実力だというのか。なんて、コース見事に外から落ちた葛を見ながら思った。
*
その後もたくさんのゲームをした。それこそ、ビデオゲームだけではなく、ボードゲームも。一時期、確か朱が小学三年生くらいだったか。その時期に朱がボードゲームにドはまりし、そのまま総数だけでも三十は超えるであろうボードゲームと、俺がまた小学五年生の時にはまっていたカードゲーム十種類以上が我が家には保管されている。
父さんは、こういうのは買ってくれるタイプだった。機械類はてんでダメだったせいでテレビ自体が俺が小学校高学年ぐらいのときに導入だったが。まあ、別にそんなことは今更どうだっていい。
「よし、あがり!」
トランプのババ抜き。葛から引けたカードで最後の一組が無事にそろい、最下位は葛で決定した。そこににっこにこで罰ゲームの箱を持ってきた麗が引け、と顔で圧をかける。
「はぁ。……よし。なになに……『キザに告白』?」
「これ、麗でしょ」
「よくわかったね」
「いや、こんな場合によっちゃ恥として黒歴史の一ページになりそうなのをお題にするのは麗かなーって」
「言いすぎじゃない?」
「俺からも言う。言いすぎじゃない」
そもそもそれを否定したいのならば、すでに立ち上げて指を置いている録画モードのスマホを今すぐにやめろ。それがある限りは否定はできない。
でも、葛がキザに告白したらそれはもう、ちゃんとした告白になっちゃうのでは? だって、めちゃくちゃイケメンだよ?
「キザ、か。……わかった。やってみる」
「ふ、ふふ。ん、がんばぁってぇ~! あははっ!」
「悪魔みたいだね、麗……」
笑いをこらえながらどんどん葛を煽っていく麗。それに対して覚悟を決めたであろう葛はいたって冷静に、そのまま俺の目の前に跪いた。……俺?
「──好きだ」
「……は?」
「一目見た時から、なんて、そんな浅い感情が先だったのかもしれない。でも、それでも、俺は君が好きだ。──愛している。身勝手だって、分不相応だってわかってる。……それでも、俺を君の隣においてくれないか」
「は? 無理だが?」
「玉砕!! あっはっは!! ひ、ふふ。ど、どこまでボクを笑わせれば、あははっ!」
「まあ、俺だったらこんな気色悪いこと言ってくる男は振るな。一目ぼれって、ようは見た目が好みだって話だろ? 俺的には見た目より中身を大事にしたいね」
それでも少し恥ずかしかったのか、葛は頬を少しだけ赤らめ、誤魔化すように明後日の方向を見ている。
「見た目より中身、か。俺なんかはその中身を知ってもらうためが見た目だって思っちゃうけどね。ほら、結局のところ見た目から興味って沸くじゃない? だから見た目を整えて、そっから中身を知って貰おうとして、最終的にゴールイン……までは理想だけども」
「そこまで行けるのはごく少数だろ。葛なんかは恋仲になった相手とかいんの?」
「俺ぇ? いや、ないが……そのそも、個人的に氷花のこともあってあんまり女性とは……」
「じゃあ男?」
「いや、それもない。まだ誰かを好きになるとか、愛してみるとか……本当にわかんねえんだよ」
葛の黒歴史、というより深い後悔も、究極的に言えば「愛」と言えるだろう。なんて、キザったらしすぎるかもしれないが。家族を愛せてるのかわからない。思春期特有ってよりかは、本当に葛に付きまとう立派な問題の一つなんだな。……俺は、家族を愛してる。はずだ。から、わからないけど。
「でも、この疑似告白の罰ゲーム……なんで入れようと思ったんだよ……」
「いやぁ、こういうタイプのゲームってきちんと需要があるものだよ? だからこうして、こう、視聴者サービス的に必要かなって」
「誰だよ視聴者。どこに俺の告白の需要があるんだよ」
それに、視聴者サービス云々の前にその葛の告白を一墳一秒も漏らさずに録画してたのは麗だろ。
「ボクは需要に対応するためにこうして映像を記録としてとってるだけだよ。あとは個人的な趣味。ほら、さっきまでやった全部の罰ゲームをちゃんと全体が入るようにとってるよ」
「余計なこだわりはいらんわ! ってか結局は個人的な趣味じゃんかぁ!」
「あはははっ!」
「いや、俺が一番の被害者だろ……」
*
夕方になり、それこそもう朱が家に帰ってくる時間になった。
「ごめん、ちょっと俺夕飯作るから……あ、このゲームやってて」
「わかった」
「ん。ボクは和牛のステーキでいいから」
「図々しいな! 俺の家は旅館でも豪邸でも何でもないんで、そんなものはありません。普通に肉じゃがとか作るよ」
家にある料理本を読まなくとも、寮生活で鍛えられた料理スキルは肉じゃが程度なら作れるようになった。だから、ぱっぱと作って朱を驚かせてしまおう。
キッチンに移動しエプロンを着る。そのあとは、同時に肉じゃが、お味噌汁。あとはご飯のセットなどなどをしていき、一つずつ順番にきちんと完成させていった。いや、そこそこは美味いんじゃなかろうか。見た目もかなりいいし……いやあ、俺も料理系男子の仲間入りかな。
「できたよー」
「──何が?」
「あ、」
聞き覚えのある、愛おしい声が聞こえた。その方向を向くと、そこには家に帰って来た直後であろう朱の姿がそこにはある。
「おかえり。えっと、肉じゃが。作ってみた」
「……蒼が?」
「そう! ゴールデンウイークの時もふるまったけど、俺もかなり料理の腕が上達してきたからね! ……せっかくだから、朱も食べて?」
「わかった。手を洗って、すぐに行くよ」
──柄にもなく、緊張している。ゴールデンウィークで作った時より、自分の腕前は確かに上がったはずだ。
ここ数日で、けっこう朱に迷惑をかけてしまっている。だから、ここで少しでも俺から贖罪のようなものをさせてほしい。
意図せず、料理コンテストのようになってしまったが……何はともあれ、あとはおいしく食べてもらおう。




