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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
95/107

八十二話 家族写真

 朝のジョギングを済ませ、いまだに寝ている葛を起こす。麗は俺が起きるよりも前に普通に起きており、そのまま洗面所で顔を整えていた。


「ん、あと三十分……」


「せめて五分でしょ、そこは。いや五分もダメだけども」


 布団から体を出そうとしない葛を半分無理やり引きはがし、そのまま立たせた。

 葛の世話? は麗に預け、俺は一階のリビングへと降りる。そこには既に料理の準備に取り掛かっていた朱がいた。


「おはよう。ごめんね、任せきりになちゃって。俺も手伝うよ」


「別にいいよ。蒼がこういう気が利かない人間だって、私、ずっと前から知ってたもん」


「うーむ。言葉の端々から隠しきれていないトゲを確かに感じるな……」


「……それで? 今日はみんなでゲームするんだっけ? せっかく夏休みを利用してお泊りなんだし、こっから近くのとこにでも遊びに行けば?」


「ちょっとそれはできない事情があってだな」


「あっそ」


 この家は住宅街の一角に建てられているが、歩いて数分で大通りに出ることができる。そこに通っているバスやすぐ近くにある駅を利用すれば簡単に都心部に行くことができるが……流石に人間しかいない、妖怪が誰もいない場所に葛を連れて行ってはまずいだろう。


 それに、裏界は建築物がたまに浮いてたりする。近未来なわけではなくて、『術』の応用やらなんやららしいが。それに建物がどこか和風というか、時代が現代っぽくなかったりするので違和感にはすぐに気づかれてしまうだろう。昨日の件と言い、葛はお人好しではあるが察しはいい方なので。

 なんて、味噌汁を味見しながら考えた。


「はい。作ったから配膳しといて」


「りょーかい。片付けは俺がするよ」


「馬鹿なの? 蒼の手がふさがってたらあの二人は何をすればいいってなるじゃない。気が利かない。ここは私がやるからいいよ」


「まったくもってその通りでございまする」


 やっぱり朱はしっかり者だなぁ。俺が至らないところを一瞬で注意して、代わりに引き受けてくれる。俺には勿体ないくらいの妹だ。誰に譲るなど、絶対にしないが。


「俺、朱が結婚相手を連れてきたら善人であろうが悪人であろうが一発腹に殴るって決めてるんだ」


「は? ……え、は?」


「いやぁ、その程度で引いたり諦めるようだったらもう一発ぶち込んでもいいね」


「いや、いやいやいや、余計なことしないでよ。最悪! 最低!」


「じゃあ朱は俺が結婚相手連れてきたら?」


「は? 引っぱたくよその程度で引いたり諦めるようだったらもう一発引っぱたく」


「大好きだよー! 朱ー!」


「きゃあ!」


 愛が。そう、愛が溢れすぎて抑えきれないので朱に抱き着くも、すぐにおたまの持ち手の部分を腹に刺されてしまった。

 こういう時、自らを攻撃したと判断した瞬間に攻撃に移るまでのスピードの早さが血を感じる。俺もそうしたもん。


 そうして朱を離し、そのまま料理をリビングの机へと運んでいく。麗と葛はまだかな、なんて考えながら。するとガチャ、とリビングの扉が開いた。


「──……あ? なんか期待してたか?」


「……べっつにぃ?」


 入ってきたのは、父さんだった。仕事に行く前だからか、きちんとスーツを着用している。

 ……昨日、色々と話して色々と思い返してみたが、我が家はよくここまで”家族”を取り戻せたなぁ、とまるで他人事みたいに思う。全然他人事じゃないし、当事者なんだが。


「で。父さんはいつになったら父親としての自覚が芽生えるの?」


「朝からする話じゃねぇな……俺に、今更蒼と朱の父親を名乗れって? 今更、父親面しろって、言うのか?」


「いや、面とかじゃなくて事実父親なんだから父親やれよって話。母さんの”旦那”はやれても子供の”父親”やれないって、なんでだよ」


「……はぁ。痛いとこ、つくなぁ」


 ──母さんは、まるで人形の操り糸が途切れたみたいにふらっと倒れたらしい。ふらっと倒れ、ずっと眠りについている。我が家で、母さんだけが置いていかれている。

 それを俺が初めて知ったのは、俺がまだ小学生の頃だった。そして、それと同時に父さんが壊れた。別に、精神に異常をきたしたとか、変な呪術やらに走ったとかではない。ただ、逃げたのだ。


 ひたすらに逃げて。全部から逃げて。──子供から逃げて。恨んではいない、本当だ。あるとしたら、それは朱に対してなんでそんな行いをしたかという怒りだ。


「──。俺に、今更父親を名乗る資格なんてねぇよ」


「あれ。お父さん、まだ行かないの? 蒼の友達、来ちゃうよ」


「わかった。……行ってくる」


「逃げたー」


 軽く追い打ちをかけるように言うが、すでに父さんはリビングから出てしまっている。若干、はぐらかされた感があった。


「……俺、二人を呼んでくるね」


「あ、蒼。私今日、ちょっと友達と遊びに行くから」


「え?」


「いや、一人だけ気まずいし……だから夕方の五時くらいに帰ってくるね」


「ありがとう、朱」


「別にいいよ」


 気がききすぎるよ、この子! 本当に俺の妹!? できすぎてて怖いっ!


 なんて心の声が伝わったのか、朱は顔を限界まで歪ませ、そのまま一人で朝食を食べている。それを微笑ましく見ながら、俺は再びリビングから出て自室へと向かった。


「麗ー、葛ー。起きた?」


「……ん、おき、た」


「寝てるよ。顔洗いに行こ」


「うぇ……」


 麗が葛を支えながら階段を下りる。少しハラハラさせるふらつきがあったが無事に洗面所へとたどり着き、そのまま顔を洗わせていた。水が氷ったりしてるが、特に問題はないだろう。


 でも、意外だ。葛はこがらし亭でも麗の家でも寝起きは悪くなく、なんならかなりいい方だと思ったのに。なんで急に…………あ、


「ようやく気付いた? あの『術』、かなり強かったからね」


「後遺症……治る?」


「そこはきちんと術式が組まれてたよ。でも、葛はどっちかっていうとそういう『術』が効きやすい体質みたい」


 「うぉお……」


 ざ、罪悪感が……いや、冷静にならなくても普通に考えてもやってることはヤバかったよな、俺。今度ちゃんと謝って、菓子折りとか持って行った方がいいよな。そうしよう。


「勝手に眠らされててって、誘拐のそれだからね」


「わかってるよ……」


 こういった手は、できる限り二度と使わないようにしよう。……言い切れないけど。

 そんな思考を読んだのか、麗は少し呆れながら葛の顔を拭いていた。葛はまだ寝起きの頭なのか、どこかぽやぽやとしている。罪悪感がヤバい。


「つ、葛。俺、葛の頼みなら何でも一個くらいは聞いてあげるから……」


「言ったな?」


「なんで急に冷静になんの!?」


 唐突にいつもの冷静さを葛が取り戻したことで思わずツッコむが、葛も麗もさらっとしている。なんだろうか。こいつら、自分に対して利益・不利益が生じる出来事は絶対に聞き逃さないという強い意志を感じる。別にそれを悪いことだなんて言わないけどさぁ。


「朝ごはんは朱が用意してくれたから、冷めないうちにちゃっちゃと食べちゃって。朱がせっかく作ってくれたものを無駄にするなんて、絶対に許さないから」


「このシスコンが……ああ、この空間じゃ二人になっちゃうか」


「待て。なんで俺までシスコンなんだよ。むしろ関係性としてはかなり最悪値な気がするが?」


「無自覚シスコンってコト」


 その麗の結論に対して葛は非常に納得していないのか、かなり不服そうな表所をしている。けど、俺もこればっかりは麗の意見に賛成だ。こいつはシスコンだろ、どう見ても考えても。


 そのまま洗面所から出てリビングに行くが、そこには既に朱の姿はなかった。そういえば、と今更になって思い出すが、朱の服装はすでに外行きだった気がする。その上にエプロンをまとい、つまりはすぐに出かけられる状態だったことなのだろう。キッチンにはすでに自分の分の食器を洗い終わったのか食器棚に戻してあった。

 本当に、できすぎた妹だ。


「そこで相応しい男になるって思わないの?」


「いやぁ。朱には変に俺ができて背伸びをしてほしくないっていうか、無能でい続ける奴には無能でい続けるだけの理由があるっていうか」


「言い訳?」


「はい。詭弁っすね」


 味噌汁とお米をそれぞれ目分量で簡単によそい、食卓に出す。今日は昨日と違って麗と葛に隣になってもらった。


「──。なあ、あの写真」


「ん?」


 葛がぐる、と部屋を見渡していると、壁に掛けてある写真で目が留まっていた。そこには複数枚の現像した写真が貼ってあり、そのうちの一つは俺が小学校に入学した時の、家族写真だ。


 ──家族写真。


「ああ、うん。そうだよ。この人が、俺の母さん。いやぁ、若いね。俺も、父さんも、朱も」


 今からだいたい九年位前だろうか。俺はまだ誕生日を迎えていないから十五歳だし。今になって見返したら今よりもずっと小さいし、なんというか、無表情だ。これがカッコいいだなんて思ってたのだろうか。自分の過去の写真って、なんでこうも痛々しいんだろう。


 その他には朱の誕生日の時の写真だったり、久々に会ったおじいちゃんおばあちゃんとの写真だったりがあった。この写真で、共通する点があるとすれば、一つだけ。──ずっと前の、まだ母さんが起きていた頃のものだけだということだ。


「葛の家とかはこうやって写真立てで飾ったりしてる?」


「……いや。俺の家はアルバムに保存してて、それ以上はないな」


「へぇ。麗は?」


「たまに師範が経過観察だとか何とかで盗撮してる」


「おっと、急に闇に踏み込んだ気がするな」


 麗の事情はちょっと複雑怪奇すぎて簡単に何とも言えない。というか、触れないほうがいい気がしてきたな。


「──この頃は。この頃は、普通の家族だったんだ。かわいい朱に、あんまりかわいくなかった俺。……起きていた母さんに、不器用だけどちゃんと父親できてた父さん。本当に、どこにでもあるような家族で、」


 ……だから、なんだというんだろうか。この頃に戻りたいだとか、言ってしまうんだろうか。そんなの、今を否定してるものだというのに。


「──。ごめんね、朝から変な話しちゃった。さっさと朝ごはんを食べよう! ほら、今日はゲームで遊び倒す予定だからさ、体力をつけとかなきゃ。腹は減っては戦はできぬってね」

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