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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
92/106

八十話 兄妹の絆的なヤツ

「──蒼が知り合い……友達をこうして家に招くだなんて、初めてじゃない?」


「……確かに。そうかも」


 小中と友人が一人もできなかったので、当然と言えば当然だが招く人物なんていなかった。だからか、こうして初めて家に招待することになったのは高校生になって初めてできた友人である麗と葛ということになった。

 なんともまぁ、俺の今までの交友関係の狭さが露呈する事実だ。


「おじゃまします。これ、つまらないものですが」


「俺からも」


「ありがとうございます。え、っと。夕食はできているので、あっちに洗面所があるので、どうぞ」


 そのまま朱は麗と葛に手渡されたお土産を持ってキッチンへと向かう。我が家はキッチンとリビングがつながってるので、必然的にリビングの扉に朱は向かった。洗面所はリビングからちょっとだけ離れた場所にあるので、スーツケースは一旦玄関においておき、そのまま三人で向かう。


「夜ご飯はカレーって話だけど、今更になっちゃうけどアレルギーってないよね?」


「ないよー」


「ないな」


 その後は軽く雑談をしながら、どこか麗と葛がそわそわと俺の家を見るのを新鮮に思いながら、そうして三人でリビングへと向かった。俺もまた葛と麗の家で緊張していたように、二人もまた俺の家だと緊張するのか。なんというか、大人びてる(事実、百五十歳で超大人)な麗と常に冷静な葛がそわそわしてるってのは見ててちょっと面白い。


「覚えてろよ」


「怖いよ」


 びっくりするぐらい急に脅すよな、麗。


 洗面所で全員手洗いを済ませ、そのままリビングへと向かう。そうすると、リビングの机の上にはできたてのカレーライス、サラダ、麦茶、福神漬けその他もろもろが置いており、席にはこっちもまた緊張している朱が座っていた。これもまた珍しい。朱は最近は俺を冷静に罵倒するので、あまり慌ててるところとか緊張するところは見ていなかった。

 そう思っているのが兄妹の絆的なヤツで伝わったのかギロリとにらまれる。


「ごめんって。……んで、改めて紹介するね。二人とも俺のクラスメイトで、……友達の頭内麗と北原葛。俺たちは明後日には京都に向かっちゃうからゆうて最終的には丸一日程度の付き合いになるかな?」


 ……それに、下手に葛と朱の接触時間を増やしたらどっかでボロが出てしまう可能性もあるので、下手に朱を、巻き込むわけにはいかない。できれば食事時だけ、そしてその食事もうまい具合に話を逸らすなどして話題を徹底的に『妖怪』関係から遠ざける必要がある。


 よろしくね、麗っ!


「……はぁぁ。ん、紹介してもらったけどボクの名前は頭内麗、よろしくね。えーと、朱ちゃん?」


「あ、はい。よろしくお願いします。その、兄にご紹介預かりました、咲崎朱です」


「そんなにかしこまらなくても、もうちょっと二人の扱いは雑でも大丈夫だよ」


「お前が俺らのことをどう家族にしてるのか気になるところだが……よろしく、朱さん。俺のことも気軽に葛だとか呼んでくれて構わないから」


「……イケメン。じゃ、なくて。よろしくおねがいします、葛さん」


 うーん、さすがは俺の妹、面食いだな。将来、悪い男に引っかからないかお兄ちゃん心配だぞ。これを実際に言葉にしたら「兄貴ずらしなでくれる? この上なく不愉快だから」と一刀両断されて終わってしまうんだろうが。まあそんな強気な態度も悪くない。


「きしょいなぁ……」


「いいじゃんか」


 座席は俺と朱が対面、朱の隣を麗が俺の隣を葛とした席順になった。隣に初対面の人というのも気まずいが、それでも真正面の対面が初対面というのもなかなかに気まずいと思って事前に朱に連絡していたのだった。


 全員が席に着き、そのまま「いただきます」と挨拶をしてスプーンを手に取る。ちらっと正面に座っている朱のカレーを見たら何の感情を浮かべてるのか家族である俺にすらわからない無表情で、ひたすらにスパイスをカレーに振りかけていた。うーん、……うん。まあ、いいとは、思う、うん。


「ん、上手いな、このカレー」


「絶妙な辛さで美味しいね」


「そうそう! 朱のカレーは最高の出来なのよ。まあ朱の料理は全部最高なんだけども」


「なんであお、……おにい、おにいちゃん、にいさま、あにき、あにうえ……が、偉そうな口調なの」


「いや、別に無理に敬称で呼ばなくていいよ」


 昔から母さんも父さんも俺のことを「蒼」と呼んでいたからか、朱が俺のことを「お兄ちゃん」だとかで呼んできた時期はない。だからか、こうして誰かがいる場所でどう呼ぶか悩んでるらしい。にしても後半は現代日本で呼んでるやつの方が少ないだろう。


 ……確かに昔は「お兄ちゃん♡」って呼んでくれたらうれしーなーとは思ってはいたが、別に今となっちゃ「蒼」呼びでもいいかなと思ってはいる。未練がないかと言われればそれは嘘になってしまうけれど。


「ボクは兄弟とかいないからそういう感覚ってのはわかんないけど……ボクからしたら二人はかなり仲睦まじく見えるよ」


「俺は俺で双子の姉がいるが……いい兄妹なんじゃねえか?」


「そう言われると嬉しいものがあるね。ね、朱」


「……ん」


 うわぁ、照れてる。かわいい。なーんて目で見たらすっごい睨まれるんですけど。麗じゃないのによく察せるよな。


「……蒼ってあんまり表情に出ないタイプだよね」


「麗さんもそう思います? 私も、ちょっとというかいつも気持ち悪いって思っちゃって……私一人だけじゃなくて、安心です」


「……?」


 あ、やばい。


「一人って──」


「葛、福神漬けとって」


「あ、ああ」


 ……一人、だなんて、言わないもんなぁ。一妖っていうんだもん。俺も最初は言いなれてなくて間違えて言っちゃうたびに麗か桜に蹴りか注意を受けてきた。咄嗟に麗が話題を逸らしてくれたからなんとか葛の追及は逃れられたが、やっぱり絶対にボロは出るよな。うーむ。


「っていうか、待って。え、朱って俺のことそんな風に思ってたの? 待った、麗も?」


「いや、出ずらいだろ、お前。いっつも大体笑顔で、ちょっとわかんねーって時があるもん」


「マジかぁ」


 個人的には感情表現が豊かなつもりだったんだけどなぁ。あれでしょ? のくせに人のことは良く感づくから気持ち悪いっていう言葉が続くんでしょ?


「自覚あったの? ボクびっくり」


「いや、昔小学校で言われてて……」


 クラスの中で女の子同士で喧嘩があった際、そう言ってしまって「きもちわるい!」と言われてしまった。こうして今も鮮明に、それこそそういった女の子の名前も、喧嘩の内容も全部覚えている。……小学生だし、喧嘩してて感情的になってたし、それで責めるだなんてお門違いだとはわかってはいた。けども、そう実際に現実を突きつけるように言われてしまうとこっちにだって傷つく心はあるのだ。

 その八つ当たりではないけども、少しだけ乱暴にカレーを口に頬張る。


「まあまあ! こんなくらいはなしよりもっとあかるいはなしをしようよ! ほら、なんか最近……最近会ったこととかさ!」


「なんも話題が思いつかなかったんだねぇ。想像力とコミュニケーション能力の低さが露呈してるよ」


「蒼っていろんなことに首を突っ込むくせして、本当につっこむだけだから残念だよね。本当、そういうのやめたら?」


「何がよくて友達と妹から同時に責められなきゃいけないの……!」


 葛に助けを求めるも、その目はさらっと見なかった振りされてしまう。いや、流石に朱は葛のことを責めないと思うよ!? ……麗はちょっとわかんないっていうか多分いや絶対に責めるタイプだな。


「よくわかるね。流石にわかるか、数か月の付き合いで。わからなかったらもうちょっと言ってやろうかなぁって思ってたけど」


「あっぶな……」


 なんとか罵倒される機会を減らすことに成功し、そのままカレーを食べる。


 その後はまた罵倒されたり、高校であった出来事を話したり、逆に称賛されたり。いろいろあったけども、普通に無事に夕食は終わったのだった。





 夕飯が終わり、二人にはいったん俺の部屋に来てもらった。その間に朱はお風呂を済ませてもらってる。二階に俺の部屋、朱の部屋、もう一部屋は父さんと母さんの寝室で、その寝室に父さんの寝室が繋がってる形だ。


「なんというか、全体的に物が少ないね」


「あはは……」


 二人が来るってことでこうして北海道に行く前日に全力で片づけた。学校で使ったプリントは大体全部捨て(中身の確認を怠ったのでやらかした)、中学校の教科書は縛って物置に押し込んでいる。うん、しばらく置物からは目をそらそう。もともと父さんがちょっとよくわからない銅像とかを入れててきれいじゃなかったし、よっぽどのことがなかったら開けられないだろう。


 ──後日、京都から帰った時に父さんがうっかり置物を開けてしまい、その時になだれ込んできたものの衝撃で父さんの人生初のぎっくり腰となってしまうのだが、これはまあ、語らなくてもいい話だろう。


 なにはともあれ。


「それじゃあ麗、葛、俺の順番でお風呂はいい?」


「おっけー。……なんか、この部屋を見てて思ったんだけど、蒼って趣味とかある?」


「え? いや、普通にスマホとかSNSとかよく見るし、……うーん、でも改めて趣味とかって聞かれるとちょっと答えにくいかも」


 麗は部屋をじろじろーと覗いてそんな感想をこぼした。


 俺の部屋には本棚と、タンスと、布団と、学習机。ついでにクローゼットだろうか。本棚も参考書、ライトノベル、漫画。それもそんなんいジャンルに統一性があるわけではない。趣味と胸を張って言えるほどのものは持ち合わせていないので、改まって何が好きかと問われれば少し戸惑ってしまう。


 流行りのアニメだとか漫画は見る。けどそこまで熱心なわけではない。楽しいものは好きだし、つらいものは嫌いだ。明確にこれといえるのは勉強が嫌いということぐらいだろうか。

 どっちつかずな性格、とも昔に言われたことがあった。気にしていたわけじゃないからか、今急に思い出してしまった。……なんか、こういった事実を突きつけられると、なんとも言えない気持ちになる。


「好きなんて、嫌いから逆算しても探せるもんだし。……何かを好きになるのって、悪い気分じゃないよ。それじゃあ、お風呂、借りるね」


「うん、どうぞ……」


 ──何かを好きになるのは、悪い気分じゃない。

 そんなのはきっと、ずっと前から知っていた。

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