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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
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七十四話 線香花火

 ──師範。そう、麗に呼ばれていた男は、どことなく常に気だるそうな印象を受けた。和服を身にまとい、年齢は四十代ぐらいの男だ。「怠惰」、という文字はこの男のためにあるのかもしれないと思うほどに全てにおいて怠そうに対応している。


「師範、言いましたよね? ボク、友人を連れてくると。ですので師範は自身のお部屋でお休みください。どーせ寝る以外なにかするわけでもないんでしょう?」


「言い方に問題があるな、お前。そもそもオレはそんな話は聞いてないぞ」


「しっかりとボクは電話で伝えました! 記憶力の低下ですかね、情けない」


「うるせぇ」


 ──そういった、関係なのだろう。軽口を叩き合い、信用と信頼が見える。……けれど、互いに踏み込みすぎない。踏み出せていないのか、それともそういった約束であるのか。それは第三者である俺からは定かではないが、それでもお互いに踏み込みすぎないのが見えた。

 ……別に、なにか言わなきゃいけないわけじゃないだろう。から、黙っておこう。


「……その、師範、サン? は、」


「? おい、麗。誰だコイツら」


「それすらも聞いてなかったんですか? ボクの……友人、です」


「……そうかよ。なら邪魔者の俺はとっとと退散するわ」


 そう言って手をひらひらと振りながら師範? さんは奥へと向かっていった。なんというか、全体的に円羅先生に似ている人だったな。あ、妖怪か。


「……まあ、別に師範のことは気にしないでいいよ。ボクとしてはこの家の手伝いをまたしてもらいたいね」


「う。ま、また?」


「俺は別に構わないぞ」


 別に手伝いが嫌というわけではない。……が、今回の場合はあまりにも敷地面積が広すぎる気がする。旅館と違って対人系の仕事はないにしても、それでも掃除をするだけでとんでもない労力が掛かりそうだ。


 ……いや! それでも泊めてもらうんだから文句言わずに働こう! そして、あわよくば俺の家に来たときは家事を沢山してもらおうと! 普通の一般家庭だけども!


「……そういえばさ」


「ん? どうかした? 麗」


「いや、葛をどう表界まで連れて行くの?」


「あー。ああ、大丈夫。そこは学園長と話し合ってね……こう、クイッと一飲みさせて連れてくから」


「……はぁ?」


 手で物を飲むジェスチャーをすればどこかドン引きながら麗が俺から距離を取る。なんでだ。

 とにもかくにも、どうなるかの対策方法は練られ済みである。何も心配することはない。最悪、学園長に札を貰ってるのでそれでどうにかなるらしいし。


「限りなく妖権……人権、か。軽視されてるな……まあ、別に、ボクのことじゃないしいいけどさ。それで、部屋はこっちだよ」


 そう言って麗はどんどん屋敷の廊下を歩いていく。……所々、下を見てみるとそれなりに綺麗に清掃されていた。なんとなく、几帳面な人なんだなと、あの麗の師範? さんに対しての評価を改めた。


「──半間」


「え?」


「師範の名前だよ。半間さんってでも呼べば? ボクは一貫として師範って呼ばさせて貰ってるけどね」


 半間、サン。なるほどなるほど、覚えておこう。

 そう心に留めながら、どんどん廊下を歩いていく。そういえば、半間さんも同じ方向に向かったはずなのにその影すら見えないな。脚が速いのだろうか。


「……半分正解ってとこかな」


「半分だけ?」


「そう、半分だけ。──ついたよ」


 どことなく意味深なやり取りを終えたあと、俺と葛は一つの客間に通された。広さで言えばこがらし亭の旅館より少し大きいくらいだろうか。ただ旅館では無いのででテレビはなく、その代わりに本棚があった。そこには少し古い本がびっしりと詰まっている。


 一冊、手に取ってみた。ペラペラとページを捲ってみるとなんとなく難しそうな漢字が大量に使われている。そっと閉じた。俺にはまだ早い領域だったようだ。うむ、仕方ない。時間の流れってのは平等なもんだからな。


「とんでもなく長い言い訳を並べ立ててるところ悪いけど、このスーツケース、どうする?」


「あ、ごめんね。うん、そこに置いといてくれるとありがたいかな」


 麗はテキパキとすでに色々と済ませてくれていて、どっから取り出したかわからない茶菓子と温かい緑茶をちゃぶ台においてくれた。本当に、いったいどこから取り出したのだろう。すっごいできたてホヤホヤなのに。台所まで、少なくとも数分は掛かりそうな気もするが、こんなに広い建物なら。


 そんなことを考えながら部屋の縁側に行ってみる。庭と直結しているらしく、ガララと音を立てて襖を引いて外の景色を見てみる。

 整えられた木々、きれいな水、そこに泳ぐ鯉。カコン、とあの名前のわからない水をくんだりして下がる竹のやつが池についていた。それがまた、日本感を加速させる。あれの正式名称って、なんだ。


「にしたって、結局のところ明日は俺と蒼は掃除を手伝えば良いのか? 別に俺は良いんだが」


「うん、まあそうなるね……あ、そうだ。──今日の夜、ちょっとだけ夜ふかししよっか」


 葛の質問に答えつつ、麗はどこかニヤリを笑いながらそういった。なにか企んでるのは、火を見るより明らかであった。





 ──時は過ぎ夜。

 夕方は麗が料理を作ってくれて、和食であった。それもかなり品数が多い。


「ま、師範もこんくらい食べるし」


 ……絶句した。だって、この夕食、俺と葛と麗がサン人が協力してようやく平らげられた品数だ。これを一人で……というのはあまり想像したくない。けれどいつもこの量を簡単に食べるらしい。すごい人だなぁ……妖怪だけど。


 そしてその後は後片付けを手伝ったりして、麗に招かれて庭へと出た。その際に俺はこがらし亭の着物……いや、どちらかというと浴衣に着替えるように言われて。葛は葛でこの家にあった浴衣を着せられていた。


 さて、俺という人間はそこまできたらなんとなく察しがついた。夏、庭、浴衣。──つまりは、花火、ということだろう。


「いやぁ、結構苦労したんだよ。はい、これ」


「? ……ぁ、これって」


「そう、熱を出さない花火」


 そう言って麗は一本の線香花火を葛へと手渡した。

 言っている内容は、俺からすれば理解ができないものだったが……その線香花火に巻かれている紙は札であることが見え納得できた。つまりは『術』を利用した線香花火であり、火が極度に苦手である『雪女』であっても安全に使用できるという代物だろう。


 そんなものまであるのか……でも確かに、妖怪はその『種族』によって体質などがぜんぜん違うしそういう商品が開発されやすいのかもしれない。


「──ありがとうな」


「ん。いいんだよ。ほら、トモダチってのはこういうのするんでしょ? だったらボクはトモダチとして当然のことをしただけだからさ」


「でも、だ。ありがとうな」


「……あっそ」


 あえて偽悪的に振る舞おうとした麗を葛は感謝の言葉で一刀両断していた。なんやかんや、麗は善意に対して弱いやつだよなぁ。


「次そんなこと思ったらこの花火押し付けるよ」


「思っただけで言ってないじゃんか! 根性焼きだけはご勘弁を!!」


 そういうのはシンプルに洒落にならねぇ!!


「はぁ。……はい、これ蒼の分」


「お、ありがとう」


 麗から線香花火を受け取り、そのまま火を付ける。……『術』で。なんやかんかあってあの雪かきで俺もライター程度の火ならば札を介さずに指先から出すことができるようになったのだ。

 そうして火がついた線香花火は……とても、幻想的であった。火がパチパチと燃えて、火花が散る。簡単に消えてしまう火花の儚さと、燃え続ける火の猛々しさがなんとも美しく見える。


「消えてしまうからこそ、ってやつだね。んじゃま、ボクも」


 そう言って麗もまた隣で線香花火に火をつけて辺りを照らす。

 昔、こうして朱と父さんと母さんと、家族三人で線香花火をやったことがあった。確か、コテージかなんかに泊まった時だ。東京じゃ、そういうのは禁止なところが多いから。まだ朱は一人で歩くことすらできなかったぐらい幼い時の話になるけど。

 その時は、線香花火のよさなんて、ちっともわからなかった。


「……昔は、さ。ちょっとでも動かしたら落ちちゃって、消えちゃう線香花火がなんだかつまらなく思えてたのに。でも、こうして今は……少し、いや、けっこう楽しいって思えるな。なんでだろう、年かな」


「最後の一言で台無しになった感は否めないが……まあ、確かに物事の良さを理解するには経験が必要だったりする。蒼はこの数年で線香花火の良さを理解できるぐらいには経験を積んだってことじゃないのか?」


「なんだか年月を感じるなぁ……」


 パチパチ、パチパチ。

 火花が散ってそれが少し足に当たってしまうが不思議と痛くない。これが『術』の効果だろうか。


「そう、熱くない『術』の炎。──だから、こんなこともできちゃうよ」


 そう言って麗は自らの線香花火の先端──火の玉に手を近づけて、掴んだ。


「!? ちょ、危なくない!?」


「大丈夫大丈夫。……ね?」


 麗はパッと手を開いた。その手のひらの中には火の玉がパチパチと音を立ててあったが……麗の手のひらにはちっとも火傷なんてなかった。


「線香花火として売られてるけど、これ自体にかなり高度な『術』を利用して組み込まれてるからね。こーんな風にしたってね」


 まるで手品師のように火の玉をころころと手のひらで転がす。……に対して少し葛が強張ったのが見えてしまった。


「──麗」


「わかってるよ。ボクは君と違って周りを見てるし、聴いてる。──葛。大丈夫だよ、痛くない。君が恐れることなんて、なんだってないんだよ」

 そう言って麗は火の玉を俺に預け、そのまま葛の手のひらを握った。


「──拒絶を、悪いことだなんて、言わないよ。全部を遠ざけて、自分を守る。……それは、正当な権利であるべきだ」


「ぁ、……」


「……でも。でも、葛は変わりたいって、思ってるんじゃないの?」


「そ、の……言い方、は、ずるいだろ」


「そうだね。最悪の言い方だ。だって、ボクは相手の心を見透かす『さとり』だから、葛が何を願ってるのか、それを引きずり出すことだってできてしまうんだよ。……でも、葛は、どうしたいの?」


 麗のその表情は、──



「──少し、昔話、しよっか」

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