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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
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七十話 こがらし亭での夕食

 露天風呂から上がって髪の毛を自然乾燥に任せながら葛の部屋へと向かう。夕食前に布団を引いてしまいたいとのこと。

 ……いや、若干というよりかなり気まずいな。


「そ、そういえばお夕飯はどんなの?」


「確か今日は魚って聞いてたな……まああんまり俺も衛生的とかうんたらで厨房で作業することがなくてな。ワリ」


「全然謝んなくたって良いよ!!」


「声デカ……」


 思わず大声になってしまった……うぅ、本調子じゃない……

 そのままどこか気まずい雰囲気の中で廊下を移動し、気づいたら葛の部屋の前であった。


「──あ、おはふぇひ」


「……何食ってんだ? 麗」


「……ん。葛のお母さんがどうだって、お菓子くれたの。そういう二人は……なんかあった?」


「読んだ?」


「読むまでもない。顔に出すぎだよ、葛」


「はぁ……」


 葛のお母さんが運んでくれたのは個包装になっている和菓子であった。あんこが中に詰まってるんだとか。とても美味しそうだ。


「一個食べる?」


「じゃあ遠慮なく」


 そういって貰って食べる。……いや、美味しいな。


「ああ、これ京都の……ほら、親戚がいるって話ただろ?」


「確かその親戚さんのホテルで京都はお世話になるっていう……その親戚さん?」


「そうだ。たまに送ってくれるんだよ」


 だからこんなに和菓子が美味しいのか。頭の中で合点が行った。


「ほへで? なぁひがあったの?」


「食べてから話せ……ちょっと腹割って離したんだよ。裸の付き合いってやつだ」


「……ふぅん。ほう」


「かっこいい雰囲気出したんだろうけど和菓子で台無しだよ……はい飲み込んで」


「ほほもあふかいひないで」


 ……子供扱いしないで、か? というか食べる手を止めなさい。そんなに和菓子が好きなのか、お前。


「まはね」


「……そろそろ夕飯だぞ」


「おひふにあふはにうほいははらいいひゃない」


「それでも、だ! んじゃそろそろ夕飯に行くぞ」



 お昼にあんなに動いたんだから良いじゃない、と言う麗に対して葛は容赦なくお菓子の箱を取り上げ、麗は食べかけていた和菓子をごくん、と喉を鳴らして飲み込んでそのまま立ち上がる。


「んー、ボクも浴衣の方が良いかなぁ」


「どっちでも良いと思うぞ。別にそんなルールなんて存在しないし」


「ならいっか」


 そもまま麗は軽く体を動かして部屋の扉の方に向かう。葛が既に扉を開けていて、俺もすぐに廊下に出る準備をした。

 そうして少しあって、時間がちょっと経っても……葛と離したことが頭から消えなかったり。


「──まあ、悩むのなんて若人の特権なんだからさ、どんどん悩んじゃえば良いんじゃない?」


「……何歳だよ。若人って、同い年じゃないの?」


「妖怪の年齢感が人間とおんなじだってのは思い込みだね。実際、ボクは実は蒼よりも何回りも年上の可能性だってあるよ〜? ほら、身近な例で言ったら『御三家』のご当主の中には平安から生きる、千歳超えがいたりするからね」


「はぁ!?」


 じゅ、寿命の概念がどうなってんの!? 千って……え、何? 『種族』によって違うとか?


「厳密には強さ……っていっても抽象的すぎるか。まあそんなもんで決まってて……そもそも妖怪の言う強さって『術』に依存するところがあって、その『術』ってのは根本的に言えば魂ってやつに関係するからなぁ。究極的に言えば魂によって寿命が決まるんだ。だから強力な妖怪は余裕で百歳なんて超えるよ? そんで『術』ってのは『種族』に大きく関係するから『種族』ごとにどんくらい生きるかは決まりがち」


「へ、へぇ。……じゃあ麗っていうか、『さとり』はどうなの? なんというか『術』の強さについてわかりにくいけどさ」


 麗の『種族』であるさとりの『固有術』は『読心術』であり、そっから応用して相手の記憶やらなんやらを読めたりすると言っていた。そして、それは戦闘系の力ではない……だとしたら、厳密に麗というかさとりはどのくらい生きるのだろう。


「──。なんとも、難しい問いを簡単に投げてくれるね。さとりの寿命、か。そもそもさとり自体がちょー少ないからなぁ。あと短命だし。寿命死したさとりってのがいないからわかんないかも。……なんかつまんない話になっちゃったな。葛の『雪女』について聞いてみたら?」


「そうだね……ちょっとばかり知的好奇心が湧いてきたよ……雑草め……」


「なんで雑草?」


 それは、まあ、『禁書庫』で出した余計な雑談に戻ることになる。けどそんな詳細はどうだっていいだろう。そもそも、あれだって苦し紛れに出した雑談にすぎないし。本筋には全く関係ない、俺が常々思ってたことを好き勝手漏らしただけだ。


「葛ー。さっきさ、麗と話してて寿命の話になったんだけどさ、『雪女』ってどんくらい生きるの?」


「何がどうなって高校生で寿命の話なんてすることになるんだよ。過程が気になって仕方がないんだが。……そうだな。『雪女』の平均的な寿命っつったらそれこそ百年とかじゃないか? 健康寿命ってなるとまた話は別だと思うけどな」


「健康寿命って概念、あるんだ……」


「? そりゃ、あるだろう」


 確かに保健室だとか病院だとか医学書だとか医師免許だとかがある時点で病気のたぐいは妖怪にだってあるんだろうな。むしろ、なんで俺は勝手にないって思い込んでたんだ。そういった生態……って言って良いのかも微妙だが、そういうのは変わらないんだろう。


 事実として俺が『怪異』に襲われた時だってキチンと周りは「心臓」だと、そう認識していた。臓器の名前だとか、病気の名前だとかはそこまで変わりなさそうだな。……けど、それも『種族』によるってこともあるか。


「そこで踏みとどまって正解だよ。それこそ、『種族』なんて無数にある。一括りにこうだとか、誰が言い切れるっていうんだい?」


「そうだよなぁ……」


 そうして麗と話し、なんとなくどことなく納得しているとその横で葛が怪訝そうな表情を浮かべていた。


「葛?」


「……いや、なんか蒼って常識知らず……じゃあ言い方が悪いか。世間知らずっぽいよなぁと」


「そこまで変わらない言い換えだね。あれだよ、箱入りってやつだよ」


「マジで?」


「マジマジ」


「嘘だよ! 俺が箱に入ってた経験なんて無いわ!」


 そんな俺みたいなやつが蝶よ花よと育てられたなんて、どこをどう見間違えて聞き間違えて見当違いすればそうなるというのだ。むしろ、逆に親に「何をどうしたらそんな野性味を帯びるんだ」「社会と言っても動物での社会性のほうが多いわね……」と言われてきたのが俺という人間だ。


「何がどう転じたら実の親にそう言われるのさ……」


「い、色々あったんだよ」


 その色々の詳細について話せばどうせ語るに落ちるのが目に見えている。それに、麗は別にいちいち言葉にしなくたって……ね?


「うっっっっざ。そんな想い人同士みたいな言い方やめてよね、気色悪い。こっちだって聞きたくて聞いてんじゃないんだよ。のくせにそれを使って意思疎通までしようとして……軽蔑するよ」


「い、言い過ぎじゃない!? 葛からもなんか言ってやってよ!!」


「たぶん『読心術』使ったんだろうが、それでも俺は全然その会話の内容を理解できてないんだが……まあ、流石に言い過ぎってことで一旦喧嘩は終わりだ。そろそろ夕食の会場にも着くからな」


「なんとなく釈然としない……!」


 俺の考えて麗に伝わるように思った文字数と麗の罵倒した文字数、どう考えたって麗の方が多いんだが。それも麗は一息で言い切っているし。どこまで俺が憎いんだ……! というか、お前、どっちかっていうと毒舌だな!? 前々から薄っすらと思ってはいたけども!


 ──まあ、そんな不平不満もきっちりと麗に伝わってるわけで。……でもだからって睨まないで!





 夕食の会場に移動したら既にそこにはそれなりの人数がそろっていた。さっき大浴場で見た顔もある。それぞれに小さな机と座布団が敷かれていて、名札が置いてある形だ。俺達の場合は「北原」「咲崎」「頭内」と言った具合に。


 机の上には火が着いていない中の見えない鍋や野菜やら蓋の閉じた味噌汁やらと、日本料理が並んでいてどれも美味しそうだ。


 そのまま食事の開始の時間になり、きちんと「いただきます」と言ってから箸を手に料理を口に運んでいく。

 鍋の中には味噌煮の魚があった。めちゃくちゃ美味しそう。なんというか、白米に合いそうだ。


「ん、これはまた美味しいね」


「こういう旅館の料理、俺好き〜。うまぁ〜!」


「口にあったなら良かった」


「──そんなん言うなら、明日はきちんと色々と手伝ってもらうからね」


「げ、母さん」


 冷たい……けれど優しい声が葛を咎めた。そこには女将としてこの会場で色々と準備して、今でも動いている葛のお母さんだった。


「あんたにも皿を出すだとか、そういうことはしてもらうよ。……蒼君も麗ちゃんも、明日はよろしくね」


「いえ! むしろなんかしないと俺のほうが悪いです。なので、喜んで働きます」


「色々とご迷惑をかけるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」


 ここで働かせてください! ……と、いった具合ではある、内心は。きちんとお金という対価を払ってサービスを受けないといけないところを友人であるという理由で払わず、そんなのは恩知らずにも近しい。だから絶対に何があろうと俺はこの恩を返さなければならないだ。


 多少なりとも不安はある。けど、──それを言い訳にしては魂が廃る。


「……良い友達を持ったね、葛」


「……ああ。本当に、良い友達だよ」


「照れてるね〜」


「ちょ、麗」


 割と感動的だった所に水を指すような麗の言葉が刺さる。……氷刺す?


「そういう蒼もくだらんことを考えるね」


「下らんて……ほんとに現役の高校生かよ」


 どことなく古風……とまではいかないが、それでも高校生といった若者が使わないような悪口にツッコみつつ、そのままお味噌汁の蓋を開ける。そこには大根、豆腐、ネギが入っていて味噌のいい匂いがした。


「……ぷはぁー! 美味しいっ!」


 本格的な日本料理。俺が作るとここまで深みのある味は出せないだろう。だからこそ、こうして旅館で食べる料理が身に沁みるってものよ!


 ──こうして、こがらし亭での夕食はかなり盛り上がった。具体的に言うなら、他の旅館の宿泊客とノリノリでデュエットのカラオケ(会場に元からあったやつ)をして九十点台を叩き出して爆笑するぐらいには、盛り上がったのだった。

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