入學式
月日が流れ俺たちはまた学校へ通う。
これから新しい生活が始まるというのに車内のガーはとても暗い顔をしていた。
「どうしたんだよ。これからはわざわざアラン家まで通う必要はなくなるんだぞ。」
そう同い年の俺たちはみんな揃ってブルネット學園へ入學する。
これでたまにしか姿を見れなかった、毎日チェリちゃんに会える。
俺はウキウキを抑えきれなかった。
するとポツリとガーが語り始めた。
「…信じられないと思うけど…僕には別の記憶があるんだ。」
すっかり浮かれていた俺は思わずガーを見つめた。
「…へへっ。そう…だよね。そんな事言われても信じられないよね。」
へにゃっと誤魔化すような変な笑顔になぜだか俺は胸がチクりと痛む。
長い沈黙の後俺は答える。「……いや、俺は信じるよ。…だって俺にも別の人の記憶があるから。」
俺たちは顔を見合わせ、それぞれの過去について話始めた。
夢中で語っていた俺たちは馬車が停車したことにも全く気づかず、入學式に遅刻するギリギリまで話こんでいた。
何とか式に間に合い壇上に新入生代表として登壇していた、アランの長い長い口上を聞きながらさっきの話を思い出していた。
ガーも転生者だった?
俺は伊東裕介として過ごした最後の日を必死に思い出していた。
高校生の時、俺はクラスの人気者だった。
弟はどんくさいやつで、クラスでものけ者扱い、でも俺は違った。
数多の告白に答えてきた俺だったが、いつも差し入れなどをしてくれるのに、一向に姿を見かけない女の子がいた。
“熊田鈴音”ファンレターに近い手紙を貰ったのは初めてだった。
俺の子猫ちゃんたちは皆グイグイ来るタイプで正直面倒に感じていた。
何をしていても不思議と探していた。
高校卒業の日、初めてちゃんと見た彼女の顔を俺は多分一生忘れないだろう。
告白を受諾し、お付き合いが始まった。今までの隣にいる女の子とは全然違うタイプ。
俺はどうしたらいいか分からず、自然消滅させてしまった。
高校の同窓会に参加した時、鈴音は来ていなかったが、鈴音の話題で持ちきりだった。
熊田鈴音28歳。
若くして社長にまで登りつめたバリバリのキャリアウーマン。
会社も私もまだまだ発展途中!これからどんどん大きくしていきます!
そんな話に驚きつつも周りの空気に合わせて相槌を打つ。
彼女がこんな発言をするとは思えなかった。
その日は3次会まで参加し、朝まで遊ぼうと思っていたが、気がのらなかったので家に帰りいつもの奴を呼ぼうと考え、適当な嘘を並べ、女の子たちと別れ帰路についた。
家についた時、俺は妙な違和感を感じた。
俺の家はリビングを通らなければ部屋へ行くことは出来ない間取りなのだが、深夜の薄暗いキッチンで何かがゴソゴソしていた。
強盗かと思った俺は「誰だ。」と声を上げた。
その影は大袈裟にびくっとすると、おどおどと口を開いた。
「お…おか…えり…。」蚊の鳴くような声が返ってくる。
「なんだ、雄志か…。」普段部屋からほぼでないキッチンに立つ姿に俺は驚いたが、ぶっきらぼうにそう返し俺は部屋に戻った。
雄志がリビングにいるならどうしようかとベットの上でゴロゴロしていると、次に気付いた時は焦げたような臭い匂いが漂っていた。
ぎょっとして逃げようとしたが、下半身に違和感を覚える。
全く使っていなかった棚が俺の下半身に覆いかぶさっていた。
力を入れようともがくがビクともせずどうしようかと思っていた時に思い出した。
そうだ、リビングには雄志がいるのではないか。
俺は声の限り雄志を呼んだ。今この家に両親はいない。縋るように雄志の名前を呼び続けたが返事が返ってくることはなく、変わりに扉の隙間から黒煙と炎がやってきていた。
雄志、あいつちゃんと逃げられたかな。俺はそのまま意識を手放していた。




