転生
伊東雄志。それが僕の名前。
高校生の時、僕はクラスの皆から避けられていた。
兄は容姿端麗、教師や生徒からの人望は厚かった、でも僕に対しては違った。
クラスの皆が僕を煙たがり近づいてくれないなか、一人だけ話しかけてくれる女の子がいた。
“熊田鈴音さん”それが僕にとって初めて恋だった。
ただ、席が僕の前ってだけで、これと言って変わった話はしていない。
けれど、誰も僕にはしゃべってくれなかったからそれだけで十分だった。
彼女の隣に並びたい、その一心で僕は必至に自分を磨いた、けれど時はすでに遅かった。
僕は間に合わなかったのだ。何も出来なかった自分が悔しくて仕方なかった。
卒業式の後、食事も喉を通らず引き籠っていた。
ほとんど行っていない大学を中退し、ネットを巡回していると、とある小さな記事が目に留まった。
熊田鈴音28歳。
若くして社長にまで登りつめたバリバリのキャリアウーマン。
会社も私もまだまだ発展中!これからどんどん大きくしていきます!
僕は目を疑った。忘れるはずのない名前にどこか面影のある写真。
彼女はまだ輝いていた。
眩しかったが僕は再び熱をもらった。
僕はとりあえず部屋を出てみる事にした。
丁度、両親が海外旅行に行っている為、今晩の晩御飯を作ってみようと思う。
冷蔵庫にたどり着き中を確認する。
家にいないのだから当然すぐに食べられるようなものは無く、僕はどうしようかとあたりを見回した。
僕はある箱に目がとまる。そこにはカレールーが置かれていた。
同じ棚には玉ねぎや人参などもあった。中学の林間学校でカレーを作ったのを思い出し、僕はカレーを作ることにした。
久しぶりに握る包丁に少し緊張したが、何とか具材を切り終え、鍋に放り込む。
いきなりリビングの扉が開いた。
僕は大きく肩をビクつかせる。驚いて固まってると、「誰だ。」と声をがした。
久々に聞いたが兄貴の声だ。
僕は「おかえり。」と答えた。
兄貴は驚いた後、「なんだ、雄志か…。」それだけ呟くと部屋へ戻っていった。
よし、あとは水を入れて煮込むだけ。張り切って動いたものだから疲れ切ってしまった僕はソファーに腰を下ろした。
伊東雄志としての記憶はここで途切れた。
次に目を開けると、知らない場所で知らない男性に顔を覗き込まれていた。
「おぉ大臣、それが噂の息子達か。」
「はい。陛下。こちらが兄のザーラ・トパー・ムー、そしてこちらが弟のブーラ・ガーネッツ・ムーです。」
隣に立つ男性が僕らの背中を軽く押す。
「…?おい、二人ともどうした?」男性が僕達の顔を交互に除くが僕は動くことが出来なかった。
「おぉ、よいよい、きっと緊張しておるのじゃろう。」
「…申し訳ございません。」陛下は豪快に笑い飛ばしているし、僕の父?らしい男性は苦笑いをしていた。
「ほれ、アランこれから支えてくれる仲間たちじゃ。仲良くするんじゃぞ。」
陛下がそういうと隣にいた男の子が前に出てきた。
「今日からお前らが俺の子分か、だったら俺様と勝負だ。さっさと庭へ来い!」
それだけ言うと、アランと呼ばれた少年は駆け出して行った。
「ほっほっほ、やんちゃですまんな。まったく…。ほれおぬし等も庭へ向かいなさい。」
言われるがまま取り敢えず頭を下げると兄らしい人の袖を引いて外へ向かった。
「…おい、お前ら、俺に言うことは?」不機嫌そうにアラン王子が呟いた。
そう、王子の前に到着したころにはすっかり空が赤くなっていた。
「すみません、あまりに広かったもので迷ってしまいまして…。」
申し訳なさそうに僕らは頭を下げた。
「ふん。俺様を待たせるとはいい度胸だな。そうだな…」
声が止んだので僕は顔をあげてしまった。
そこには、昔からよく見てきたいじめっ子の顔をしていた。
「おーい、ブーラ、ガーネッツ、ここにいたのか。
殿下ももう日が傾いております、風邪などひかれると大変ですので、お部屋へお戻り下さい。」
屋敷へ入る直前振り返る事もなくアラン王子は「明日から毎日来いよ。」それだけいうと一度もこちらを気にかける事なく屋敷へ入っていった。




