043 犠牲と目覚め
「とりあえず、お話はここまでだ。殲滅を再開しよう。」
ロコモがそう言った。
「ああ、そうだな。二人とも、死ぬなよ。それとな、ハヤト。嬢ちゃんだけは絶対守るんだぞ。」
「…言われなくても、分かってら。」
ロイゼの助言にハヤトは苦笑いしながら答えた。
「さて、一緒に祝杯をあげられるといいな。」
ロイゼは遠くを見ながらそう言った。
「ああ、そうだな。じゃあな。」
ハヤトはそう言って、セイナと共にグロース=アイデクセの殲滅を再開した。
戦いの終わりに酒を飲めると信じ、二組のパーティは別れた。
「くそっ、こいつら、多すぎだろ!」
「きりがねえよ!」
あちこちでそんな悲鳴があがる。
無理もないだろう。もっとも弱いグロース=アイデクセでさえCランクモンスターなのだ。皆高ランク冒険者といえど、楽に戦える相手ではない。
「くそ、抑えきれねえ!」
Aランクパーティ≪四獣の爪≫のリーダーであるプロペンがそんな声を上げた。
「ちくしょう!二体目と戦う力なんて残ってねえぞ!」
彼らが戦っているのは、ジェネラル=アイデクセだ。
一体目のジェネラル=アイデクセを倒し、後はボス=アイデクセとグロース=アイデクセの殲滅に取り掛かろうとしていたところを、運悪くエンカウントしてしまったのだ。
「泣き言なんか言わないで!くるわよ!」
同じく≪四獣の爪≫のメンバーで、戦士であるキュウカはそう言ってプロペンを鼓舞した。
彼女の男勝りの性格はこんなときに頼りになるのだ。
「おうらっ!これでもくらいやがれ!」
盗賊であるゴルドがそう言ってナイフを何十本と同時に投げる。
盗賊であるからこそできる芸当だが…
「…ちっ、まるで効いてねえな。」
そう言って回避行動に移る。
ジェネラル=アイデクセの莫大な体力からすると、ナイフは与えるダメージがあまりにも小さすぎたようだ。
≪四獣の爪≫は全員が前衛の異色のパーティだ。
リーダーのプロペンを始めとして、全員が刃物での攻撃を得意としており、そのことがパーティ名の由来となっている。
一体目のジェネラル=アイデクセをオーバーキル気味に倒してしまったせいで、みんな思ったより消耗しているようだ。
「いくぞ!火纏・点火!」
火を纏った大剣でプロペンは斬りかかった。
「グェエエ…」
今度の攻撃は効いたらしく、苦しそうな声をあげるジェネラル=アイデクセ。
そのまま連撃しようとしたプロペンだったが、相手は流石にそんなに甘くはない。
すぐさま反撃とばかりに体当たりをかましてくる。
「…っと、効くなあ!」
すぐさま大剣を横に構え、剣の腹でガードする。
しかし巨体のジェネラル=アイデクセの体重を支えきれるわけもなく、後ろに大きく後退させられる。
「…手が痺れて使い物になんねえ。頼むぞブルグ!」
「任せろ。」
ブルグ、と呼ばれた男が先ほどプロペンが攻撃したのと逆の方向から槍で突きにかかる。
高速で突きを繰り出すブルグを無視するわけにはいかなくなったのか、ジェネラル=アイデクセが尻尾で攻撃する。
それを巧に回避したブルグは、ジェネラル=アイデクセの正面に移動し、牽制を繰り返す。
その間に後ろに回ったゴルドとキュウカが攻撃を加える。
「はあああ!」
「ふっ…、せいっ!」
西洋剣を大きく振りかぶった2人が、同時に剣を振り下ろす。
その攻撃はジェネラル=アイデクセの尻尾に深く食い込んだ。
切断するべくさらに力を入れる2人だったが、
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」
怒り状態になったジェネラル=アイデクセがそれをさせなかった。
膨れ上がった筋肉によって、2人の剣は抜けなくなってしまう。
「なにっ…」
「くっ、まずいわ…!」
2人は焦って剣を手放すが、遅かった。
ジェネラル=アイデクセの腕が2人を射程圏内にとらえている。
「グォォオォォオオオオ!!」
「はあああっ!」
咄嗟にプロペンが大剣で庇いに入るが、
ドオオォォォォォォン!!
痺れた手で力が増したジェネラル=アイデクセを止められるわけもなく、大剣ごと吹き飛ばされてしまう。
「…くっ、がはっ!」
地面にたたきつけられたプロペンは起き上がろうとするが、骨が折れているようで立ち上がれない。
そしてそのままジェネラル=アイデクセの追撃でふきとばされた。
「プロペン!」
ブルグが慌ててプロペンに駆け寄る。
「く、首がおかしな方向に曲がっている…。」
吹き飛ばされたプロペンは地面をバウンドした際に首が曲がったようだ。
とても生きてはいないだろう。
「そ、そんな…。」
それを聞いたキュウカが呆然としていた。
プロペンと恋仲であったキュウカはその事実を受け止めきれず、思わず立ち尽くしてしまった。
その隙を逃すほどジェネラル=アイデクセは甘くない。
剣がささったままの尻尾で攻撃したが……、
「風剣・風見!」
一陣の風と共に通り過ぎた誰かが、ジェネラル=アイデクセの尻尾を切断する。
そして、
「火剣・火炎斬!」
『火の精霊、我が魔力に応え、敵を撃て。炎の銃弾』
炎の二連攻撃にジェネラル=アイデクセは思わずのけぞる。
そしてハヤトがキュウカに声をかけた。
「何があったか知らねえけど、悲しむのは戦いが終わってからにしろ!」
一方、キング=アイデクセとSSランカー達の戦いは終わろうとしていた。
「レイラム、最後だ!仕留めるぞ!」
「ああ!」
カルドーラの呼びかけにレイラムが答える。
二人とも軽い切り傷は負っているものの、目立った外傷はない。
「十五連・風突!」
「貫け!一突」
槍技と魔法によってキング=アイデクセをのけぞらせる。
すでに尻尾がなく、右目も潰れているキング=アイデクセは満身創痍だ。
「とどめは任せたぞ!≪海神の杖≫」
その呼びかけにパーティメンバー全員が頷いた。
『我らの魔力を吸え。』
『そして敵を撃ち続けよ。』
『跡には何も残す事なかれ。』
『さあ、出でよ。』
全員の声が重なった。
『雨』
瞬間、キング=アイデクセに雨が降り注いだ。
ただの雨ではない。敵だけを正確に倒す鋭い雨だ。
その雨は、敵を貫き、傷口を焼き、敵を中から溶かしていく。
「グ、グゥリュウウウアアア……」
断末魔の声をあげ、キング=アイデクセは崩れ落ちた。
「よっしゃあ!」
「ふっ、これで…っ!?」
お祭りムードになろうかという戦場だが、そうはいかなかった。
突如、キング=アイデクセの死体が黒く光り、地面に沈み始めたのだ。
いや、よく見ると、キング=アイデクセだけではない。
周りで倒れていたジェネラル=アイデクセ、ボス=アイデクセ、グロース=アイデクセの死体まで沈んでいっている。
そして、最後にキング=アイデクセの死体が完全に沈んだ。
「……。」
静まり返った戦場。生き残っているアイデクセ達までもが動きを止めている。
誰かが声を発しようとした、まさにその時。
ドッゴオオオオォォォォン!
地面を掘り、それは現れた。
キング=アイデクセよりさらに巨大な、黒い体をもつアイデクセ。
ガイが呟いた。
「…アイデクセ=ロードか…。」




