038 火は轟き氷は滅する
セイナは驚愕に顔を染めた。
無理もないだろう。セイナがこんなに苦戦している相手が一発で消え去ったのだ。
「ハヤト君、今のは…?」
「合成魔法だ。今の魔法は空と闇の属性でやったが、基本的にどの属性を組み合わせても威力は高くなる。」
「そんな、上位属性を軽々と…。合成魔法なんて聞いたことないよ!?」
「……そうなのか?まあ、上位属性ってのはよく分からんが、お前にもできるだろ。」
「…分かった。やってみるよ。」
セイナが相手取っているボス=アイデクセは身動きをとれないでいた。
ハヤトが魔法で仲間を殺したことだけは分かったが、一体どんなからくりがあるのか分からないのだ。
ただ、ハヤトという少年に手を出してはいけないことは分かった。
本来、自分より強い相手に出会ったときは逃げるべきなのだが、Bランクモンスターの誇りがそれを許さなかった。
そして恐怖を紛らわすように、ボス=アイデクセはセイナに飛びかかる。
「グオオオオオッッッ!」
「はっ。」
ボス=アイデクセの突進を気合の声と共に避ける。
『火の精霊・氷の精霊、我が魔力に応え、古の合成霊波となりて、敵を滅せよ。』
瞬間、周囲に冷たい風が吹き荒れた。
その直後、尋常じゃない熱気が周囲に立ち込めた。
コォォォォォォオオオオォォォ……
灼熱と極寒の二つの風がセイナの周囲に立ち込める。
セイナの右手側に吹き荒れる赤い風は爛々と輝き、
セイナの左手側に吹き荒れる青い風は光り輝く。
二つの風が合わさりし時、
小さなトカゲに成す術は無い。
『火轟氷滅』
魔法の危険度を察知したボス=アイデクセは踵を返して避けようとするが、
「もう、遅いわよ…!」
尻尾を向けるボス=アイデクセへと二つの風が迫る。
トケガの背に風が命中したとき、
紅と蒼はまるで竜巻のように混じり合い、舞い上がった。
ゴオオオオオオオオオォォォオオォォンン
そして魔力切れを起こしたセイナは、その場に倒れこんだ。
「………あれ、私は…」
セイナが目を覚ました。
「よう、よく寝てたな。」
ハヤトがそんな声をかけた。
「はっ、ボス=アイデクセは?!」
「お前がちゃんと倒しただろ。」
ハヤトのその言葉に、セイナは目を見開いて驚いた。
「…そっか。ちゃんと倒せたんだ…。」
「ああ、お疲れ。ちなみに一時間くらい寝てたぞ。」
「えっ!ほんとに!?」
「ああ。」
「迷惑かけてごめん…。」
「まあ、気にするな。」
そんな会話をして、セイナは立ち上がる。
どうやら毛布をかけていてくれたようで、立つと同時に毛布が落ちた。
「あ、これ…。ありがとう。」
「気にすんなって。」
毛布をアイテムボックスにしまいながら、ハヤトが照れ笑いを浮かべる。
しかし、突如真剣な顔になって言った。
「なあ、セイナ。もしかしたら、とんでもない事態になってるかもしれない。」
「…とんでもない事態って?」
「お前が寝てる間に、魔法で周囲を探知してみたんだが、30km圏内にボス=アイデクセの反応があと四つある。」
「…え?!まさか、群れ?!」
「…かもしれない。しかも周囲にはグロース=アイデクセと思われる反応が数十もある。全部森の南側からだ。」
「さっきの二匹は、群れの先遣隊…?」
「おそらくな。しかも、おれが今探知している群れも本隊じゃない。いわば、先遣隊の本隊だな。」
「まさか、これからアイデクセ達による大規模侵攻が…?!」
「その可能性は高い。おれの肩に手を当ててみろ。」
ハヤトにそう言われて、セイナはハヤトの肩に手を当てる。
魔法でセイナに遠見の風景を見せるためだ。
「グルルッ、グルッ…」
「ゴォォオオ……」
「グルルルル!」
セイナが見たのは、森を抜けて遥か100㎞先の風景。
無数のグロース=アイデクセと百数十ものボス=アイデクセ。
そして…
「まさかあれは、ジェネラル=アイデクセ?!Aランクモンスターじゃない!?しかも、十匹以上いるわ!」
セイナが驚きながら、ハヤトの肩から手を放す。
「それだけじゃない…。この群れをまとめてるやつを見てみろ。」
そう言われて、もう一度ハヤトの肩に手を置く。
そこにいたのは、全長10mを超える巨体の持ち主。
頭から生える巨大な二本角。
鋼に覆われた分厚い皮膚。
全てを破壊できそうな爪と牙。
そう、ランクSSモンスター
≪キング=アイデクセ≫だ。
「そんな…?!」
セイナは思わず悲鳴を上げた。
「心配することじゃない。こいつら事態は大したことない。」
「えっ…!」
セイナは驚いたが、瞬時に理解する。
レッドルビードラゴンやグリーンエメラルドドラゴンを瞬殺するような人物が目の前にいることを忘れていたのだ。
「そうだよね!ハヤト君なら大丈夫だよね!」
「まあ、流石に全員守るってのは無理だけどな。」
「えええ!なんで?!」
「…おれじゃあ、力不足だからだ。」
「ハヤト君でも?!そんな…」
「とにかく、帰ろう。トカゲ共と全面戦争になるな。」




