036 冒険の始まりはいつも雨
「雨、か…。」
ハヤトは空を見上げながら、感慨深そうに呟いた。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっとな。昔のことを思い出してた。」
「…それって、3200年前のこと?」
「まあ、そんなもんだ。」
厳密に言えば少し違う。
ハヤトが日本軍に入隊した日、正確には3202年前だ。
あの日も雨が降っていた。
今日と同じくらいの、中降りくらいの雨だ。
(まあでも、あの時とは違う。あの時にはなかった高揚感が、今のオレにはある。)
そんなことを考えながら、意識を現実に引き戻した。
「ハヤト君、準備はいい?」
「ああ、それじゃあ行こうか。冒険の始まりだ!」
ハヤトとセイナの二人は支部長との話を終え、依頼を受けてピューリトンを出たところだった。
依頼内容は『依頼ランク:C グロース=アイデクセの討伐』だ。
グロース=アイデクセは爬虫竜類に属する魔物で、体長2m程の大きなトカゲである。強靭な顎による噛み付きや、200kgを超える体重を利用した突進を多用する攻撃的生物で、縄張り意識が強く、敵と認識した生物を追いかける習性がある。
「…って、ハヤト君、聞いてる?」
「あ、んー、ああ。聞いてるよ。てか、今回の依頼の目的はセイナの戦闘訓練だろ?別におれは相手の情報知る必要なくないか?」
「だーめ。もし私が危なくなったとき、助けてもらわないと困るでしょ。」
「おれはそんなやつには負けねえよ…。」
2人は今、依頼があったチロル村へと馬車で向かっていた。ピューリトンから南西方向に、馬車で約4時間のところにある村だ。
ハヤトの想像魔法を使えばすぐに行けるのだが、ハヤトの魔法に頼り過ぎない事は2人の中で暗黙のルールとなっていた。
ハヤトがずっとセイナと旅をするわけでもないからだ。
「やっと、着いたか?」
「うん、着いたみたいだね。チロル村よ。」
馬車から降りた2人は、村長の家へと向かった。
村の中を歩いている2人が思ったことは、村人達の表情が総じて暗い、ということだった。まあ、セイナに見惚れている男も少なくはなかったが。
「初めまして、チロル村の村長をしている、ラトと申します。この度は、我々の依頼を受けていただけたそうで、有り難く存じ上げます。」
「そんなに堅苦しくしていただかなくても結構ですよ。それより、早速現在の状況を教えてください。」
村長の家に着いた2人は、村長に案内されて居間で話をしていた。
村長の顔にも疲れが浮かんでおり、実際の年齢よりも老けてみえる。
「ええ、グロース=アイデクセがこの村の近くに住みついたのは一週間程前です。近くの森に木を斬りに行っていた男が襲われた事が発端でした。それからは、村の郊外にある畑は全て荒らされて、まともに作物がとれない状況です。」
「…分かりました。一刻も早く討伐します。」
「…失礼ながら、お2人はまだお若いようで、大丈夫なのでしょうか?その、えっと…」
村長が心配するのも無理はない。
依頼を受けてきたのが、20歳にも満たない若い2人なのだ。本当に討伐できるのかどうか、怪しいものだろう。
「…大丈夫ですよ。準備も下調べも、きちんとしてきているので。」
「なら、お任せします。あのグロース=アイデクセは3mはくだらない大物でしたので……」
「ちょっと待て爺さん、3m以上だと?それ本当にグロース=アイデクセか?」
「ええ、この目で確認したので、間違いないかと…。」
村長から明かされた事実に2人は驚いた。
「…ハヤト君、それって…。」
「ああ、上位個体である可能性が高いな。まあ、実際見てみないと何とも言えないが…。」
2人がそう話していると、村長が心配そうに声をかけてきた。
「あの、何かまずかったでしょうか…。依頼取り消しなんてことには…」
「いえ、大丈夫ですよ。何とかして見せます。」
セイナがそう言うと、村長は安心したように息を吐いた。
村の近くの森へとやってきた2人は、グロース=アイデクセの探索をしていた。
わずかに残された爪痕や足跡を追って、巣を特定しているのだ。
そうして、巣を探すこと約30分、ついに2人は標的の姿をとらえた。
相手も2人に気づいたようで、こちらに向かってきている。
「ハヤト君、あれって…」
「ああ、間違いないな。あれはグロース=アイデクセの上位個体、
ボス=アイデクセだ。」




