035 冒険者に
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「バ、バカな……。」
目の前の光景を見て、ガイはそんな風に呟いていた。
それも、仕方ないだろう。ギルドの闘技場の空間は、厚い魔力壁で覆われていたのだ。
それを、ハヤトがぶち壊したのだ。
「……オレは夢でも見ているのか?」
「いえ、残念ながら現実ですよ。これがハヤト君なんです。」
現実逃避しそうになっているガイにセイナがそう言った。
「…ギルドの闘技場の魔力壁はとてつもなく厚い。とても1人の、しかも新米の冒険者が破壊できていいものじゃねえ。なのに…」
ガイはまだ呆然としているようだ。
と、そこにハヤトが戻ってきた。
「あー、その、やり過ぎちまった。すまない。」
意外なことに、反省しているようだ。
セイナも驚いている。
「…はぁ、でも本当にやりすぎだと思うよ。ギルドにとってはいい迷惑だし。」
「…だよなぁ。力の加減を間違えちまったみたいだ。」
――――――――――――力の加減を間違えた―――――――、つまり今のは全力ではなく、まだ上があるということだ。
ハヤトの底知れない実力に、ガイは驚きを隠せないようだ。
「支部長!何ですか今の音は!」
するとそこに、ギルドの職員らしき人達が駆けつけてきた。
まあ、巨大な音を立ててギルドの一部が吹き飛ばされたのだ。当たり前だろう。
「あ、ああ。魔力制御のミスだ。すぐに何とかするから、気にしないで仕事を続けろ、と他の奴にも伝えといてくれ。」
「わ、分かりました…。」
さすが支部長というべきか、冷静な判断ができるまでは気を持ち直したようだ。
「なあ、ガイさん。おれ、このぶっ壊れたとこ直した方がいいか?」
「……は?直せるのか?」
「ああ、魔法で一発だ。」
「…………じゃあ、頼むわ。」
「了解。」
ハヤトはそう言うと、指をパチンと鳴らした。
「………ばかな、これほどの物質再生魔法を無詠唱で!?しかも一切の疲労も見られないだと!?」
「別に、疲れてないワケじゃねえよ。魔力を持って行かれる感覚はあったしな。」
「…………おい、魔力壁と結界を張りなおしておけ。」
ガイは、審判を務めていた受付嬢にそう言った。
「はっ、はい。」
受付嬢も動揺を隠しきれないようだ。
そして、ガイはハヤト達の方に振り返って行った。
「とりあえずお前らは支部長室に来い。今後について話す必要がある。」
「分かった。」
「さて、今後のお前らについてだが…」
支部長室に着いて、ガイがそう話を切り出した。
「まあ、セイナの方については余り問題はない。Dランクからのスタートになるだろうから、優秀な新人ってことで話はつく。」
ガイはそこで一度話を切って、ハヤトの方を見た。
「が、問題はお前だ。ギルドの壁がぶっ飛んだ方向が人通りの少ない裏道の方で良かったものの、すぐに何事か街で噂になるだろう。そうして町長にまで話が行けば、おれが呼び出されて真実を話さなくちゃなんねえのは確実だ。」
再び話を切って、一度ため息をついてから話を続けた。
「それに、お前はどう考えてもCランクスタートだ。しばらくの間ウワサは絶えないだろうし、勘がイイやつだったら今回の件についてある程度推測できるやつもいるかもしれない。さらに、だ。お前の扱いが今後どうなるかも微妙だ。今の町長なら大丈夫だとは思うが、もし国にまで事が伝われば面倒なことになるのは間違いない。」
そしてハヤトの眼を真っ直ぐみて行った。
「単刀直入に聞こう。お前はその力をもって、何を成したい?」
「おれは、この世界を旅するためにここにいる。絶対の旅を邪魔するモンがあるなら、全てぶっ潰す。」
ハヤトも、まっすぐにガイの眼を見て言った。
「………つまり、自分からその強大な力を無差別に人に向ける事はないってことだな?」
「ああ。」
「……いいだろう、信じるぞ、その言葉。」
ガイが笑みを浮かべながらそう言った。
「…そんな簡単におれを信じていいのかよ?」
ハヤトは少し驚いたような表情でガイに尋ねた。
「ああ、おれが大丈夫だと判断したんだ。それに、もし信じられなくてもお前を止めることなんてできねえよ。」
皮肉っぽく、支部長はそう言った。
「……だが、町長に報告とかの件は?」
まだ少し困惑したように、ハヤトが聞いた。
「その辺はおれに任せろ。国に報告しないようにおれが頼んどいてやる。それと、この街を出る冒険者や商人たちにはおれから口止めしておこう。」
「…何から何まですまないな。」
「…ふん、別に大した手間じゃない。それに、お前がウワサになって冒険者どもに絡まれるのは流石にどうしようもないからな。そこらは自分らで何とかしてくれ。」
「ああ、分かった。それじゃあ、冒険者登録の方は…」
「ああ、問題ない。Cランク冒険者ハヤト、Dランク冒険者セイナ……
―――ようこそ、冒険者ギルドに―――
その言葉をかけられたハヤトの横顔をセイナが見ると、ハヤトは、とても嬉しそうに、笑っていた。




