033 試験
「冒険者ギルドについて、説明は必要でしょうか?」
『なあ、ギルドの規則ってのはずっと変わってないんだろう?』
『うん、わたしが知ってる限りでは変わってないはずよ。』
「いえ、いいです。」
受付嬢の質問に対して、セイナとハヤトは念話で話し、答えた。
「分かりました。ところで冒険者ギルドでは、受付嬢に実力を見込まれた人だけが受けられる試験があるのですが、ご存じでしょうか?」
「…いや、知らない。説明してくれ。」
「分かりました。その試験とはすなわち、初めのランクを決める試験です。大抵、最も下のGランクから冒険者となるのが一般的なんですが、私たちに見込まれ、試験である程度の成果を見せた場合、普通より上のランクからスタートすることができる、というものです。」
「その、あんたたちが見込む基準ってのはなんなんだ?」
「私たちは皆、元冒険者です。それも、決して低ランクではありません。なので、このギルドに入ってから受付に着くまでのわずかな間の足運びだけでも、ある程度の実力は分かります。それに、あなたの場合は分かりやすくCランク冒険者の二人を倒しましたからね。」
「なるほどな、で、その試験内容っていうのは?」
「簡単です。今のギルドには、ギルドで捕獲されたことのある魔物と戦闘体験がつめる、という設備があります。魔力体の魔物に対して、冒険者の皆様には魔力体の武器、防具を使って戦闘していただきます。」
「魔力体ってのはなんだ?」
「……魔力体をご存じないのですか?その名の通り、魔力で創られた形をもつものです。魔力体は魔力体にのみ有力で、実際の自分には害は及びません。まあ、実際体験してもらった方が早いとは思います。」
「分かった。最後の質問だ。最初のランクの上限はいくつだ?いきなりSランクとかは無理だろう?」
「はい、上限はCランクからとなっております。CランクとBランクの間にはいわゆる壁、のようなものがありまして、Bランクになって初めて一流の冒険者と呼べます。なので、Cランクが上限ですね。」
「なるほどな、じゃあ、その試験を受けさせてもらおう。」
「かしこまりました。準備が完了したらお呼びしますので、待機室にてお待ちください。」
受付嬢とハヤトの会話は終わり、セイナとハヤトの二人は待機室に案内された。
「…はぁー、それにしても念話って慣れないなあ。」
「けど、便利だろ?」
「まあ、それは確かに。」
「じゃ、頑張って慣れてくれ。」
「はーい。」
2人が5分ほど他愛のない会話をしていると、ギルドの準備が整ったようで、受付嬢から呼ばれた。
「ハヤト様、セイナ様。それでは戦闘する魔物を選んでください。」
「おれは、一番強いやつで。」
「……正気ですか?いくら魔力体とはいえ、恐怖は変わりませんよ?それに、ランク決定の審査には冒険者ギルド支部長も参加されるので、余りに情けない姿を見せたら、Gランクからのスタートも充分あり得ます。」
「まあ、本体じゃないなら大丈夫だろ。んで、セイナは?」
最も強い魔物はSSランクのドラゴンであることを知らないハヤトはすぐに決めて、セイナに話を振った。
「私は、そうですね…。Bランクの魔物のリストを見せていただけますか?」
「あ、はい。どうぞ。」
20秒ほど黙考して、セイナは答えた。
「……じゃあ。このデザート・スコーピオンでお願いします。」
「…かしこまりました。それでは、どちらから試験を受けられますか?」
「あ、じゃあわたしからでお願いします。」
「では、この魔原石に触れて、魔力を流し込んでください。」
セイナが受付嬢の言う通りにすると、体が魔力に包まれる感覚があった。
「へぇ、これが魔力体なんですね。」
「はい、その魔力は今のあなたの装備を完全に再現し、実際の装備と重複しています。その魔力体にダメージが蓄積されたら、魔力体が破壊されます。そして、体の表面に重複している魔力体に致死量のダメージが入ったとみなされたら、試験終了となります。なお、魔力体の損傷具合はこちらで確認しますが、ある程度は見て取れると思います。」
「分かりました。それにしても、不思議な石ですね、魔原石。」
「確かに、そうですね。なんでも、世界変動のときに地下から地表に少しだけ出てきたらしいですよ。」
その話を横から聞いて、ハヤトはそっと目を反らした。
「……それでは、試験を始めます。ハヤト様も付いてきてください。」
そう言った受付嬢の案内に従って、2人は歩いて行った。
ドアを開けて廊下を右に曲がると、そこには巨大な、闘技場のようなものがあった。
円形の舞台で、例えるなら剣道場のようなものだろうか。もちろん床は土製だが。それに、天井は見えない程高い。
「それでは、ハヤト様はあちらからご覧ください。」
そう言われたハヤトは、受付嬢が指した方向のドアを開け、観客席のような椅子に座った。ガラス越しに、戦闘を見物できるようだ。
「はー、しかし、外観からはこんな巨大なスペース確認できなかったんですけどねえ。やっぱこれも魔力で作ってるんですかね、支部長サン。」
ハヤトがそう言うと、同じく椅子に座っていた男が肩をすくめた。
「…驚いたな。俺に気づいたのか。気配を極力消してたつもりなんだが。」
「まぐれっすよ、まぐれ。」
「まぐれなものか、君の真の実力は後程確かめさせてもらうとして、自己紹介といこうか。」
椅子に座っている男は驚きを隠せていない表情のまま、話し始めた。
「君が言った通り、おれはこの冒険者ギルドピューリトン支部長の、ガイ・レンザークだ。ガイさんとでも呼んでくれ。」
「それじゃガイさん、おれの名前はハヤト。新人の冒険者なんで、よろしくっす。」
「ふ、戦闘の経験はあるようだがな。元SSランク冒険者のおれの気配隠蔽を見破るなんて、只者じゃなさそうだ。」
「ま、その話は置いときましょうよ。セイナの試験が始まりそうです。」
「まあ、そうだな。君の相棒の実力を見せてもらおうか。」
――――――――デザート・スコーピオン―――――、砂漠に生息する魔物で、毒針がある尻尾による攻撃や、硬い甲殻に覆われた全身が特徴で、防御力が高い。また、2本のハサミによる攻撃も侮れない。
「よし、図鑑の内容は忘れてない。いける。」
家から持ってきた魔物図鑑の内容を頭の中で復習し、セイナは目の前の相手に集中する。
デザート・スコーピオン。砂漠の蠍は全長3メートルほどで、高さは165cmほど。高さはセイナとほとんど変わらない。
「それでは、試験、開始!」
受付嬢の開始の言葉と共に、セイナは後方に大きく跳躍した。魔法使いが攻撃できる距離を保つためだ。
「火の精霊、我が魔力に応え、敵を撃て。炎の銃弾」
後方に跳躍し、セイナは先手必勝とばかりに魔法を撃つ。
魔法は魔力を使ったものだから、もちろん魔力体には有効だ。
セイナが放った魔法は敵に直撃したが、大して効いていないようだ。少し焦げ跡がついたくらいである。
「っく、思ったより硬いわね…っ。」
そしてデザート・スコーピオンが反撃にでる。大きな体に見合わず俊敏な動きで一気にセイナとの距離を詰めようとしている、が、セイナの方が早いようだ。先ほどと同じ距離を保ったまま動いている。
(向こうが魔力体である以上、スタミナ切れは見込めない…。それに、わたしはハヤト君に比べて戦闘経験がずっと少ない。多分、長時間戦うのは厳しいわ。)
そんな事を考えながら魔法の攻撃を繰り返していると、少し油断が出てきたのか、デザート・スコーピオンに距離を詰められてしまった。
「しまっ…。」
大きく振りかぶられたハサミに対して盾を構えたものの、それはあまりに小さかった。
カキィッズッドォォォォォオオオオオオオオオオン!!
どうにか一撃は防げたものの、セイナの盾からは魔力の感覚がなくなった。どうやら、盾の魔力体は破壊されてしまったようだ。
「…手がしびれる…。魔力体でも感覚はあるんだ…。」
セイナはそんなことを呟きながら距離を取り、対策を考えていた。
(火魔法じゃ厳しそう…、砂漠の魔物だし。しょうがないかなあ、奥の手は取っておきたかったんだけど。)
セイナは、デザート・スコーピオンの尻尾の攻撃を避け、先ほどよりも多めに距離をとった。
「氷の精霊、我が魔力に応え、敵を貫け。氷崩落!」
セイナが生み出した氷の礫は、デザート・スコーピオンの甲殻の節目節目に、突き刺さった。
そして、刺さった礫の先端は拡散した。
一瞬だけ大きく揺れたデザート・スコーピオンの巨体は倒れ伏し、空気に溶けるように消滅した。




